記事監修医師
東京大学医学部卒 呼吸器内科医
山本 康博 先生
2019/10/9 記事改定日: 2020/5/8
記事改定回数:1回
記事監修医師
東京大学医学部卒 呼吸器内科医
山本 康博 先生
昼ご飯を食べた後、なんだか眠くなってしまう、午後の授業や仕事に集中できないことは、誰もが経験することかと思います。しかし、耐えられないほどの眠気で勉強や仕事ができなくなってしまうような「食後のひどい眠気」は「血糖値スパイク」という状態になっているかもしれません。
この記事では、血糖値スパイクの原因と食後の眠気の予防方法について解説していきます。
食事を食べた後、なんとなくうとうとと眠くなるのは誰でもあることです。脳を活発に働かす物質の1つに「オレキシン」という物質があり、オレキシンが活発に働いていると、起きている(覚醒している)状態が保たれます。オレキシンは空腹時に血糖値が低くなると活性化し、満腹になって血糖値が高くなると、オレキシンの活動が低下して眠くなるといった具合です。
一般的には、上記のオレキシンの作用で眠くなることがわかっていて、これは健康な人なら誰でも起こりうる正常な反応です。しかし、食後に逆に低血糖を起こして眠気が生じる場合があります。低血糖とは、血糖値が異常に低くなることで、冷や汗やふるえ、動悸、目のかすみや眠気、生あくびなどの中枢神経系の症状が現れます。
低血糖が起こる理由には、通常、以下のようなことが考えられます。
しかし、食後に低血糖が起こるのは、上記のいずれにも当てはまりません。では、なぜ食後に低血糖が起こるのでしょうか。
食後に低血糖が起こるのは「血糖値スパイク」という現象が原因だと考えられています。血糖値スパイクをおおまかに說明すると、食後に血糖値が急上昇し、上昇した血糖値を下げるためにインスリンという血糖値を下げるホルモンが大量に分泌され、血糖値が急降下するという現象です。
この急上昇と急降下をグラフに書くとスパイク(くぎ)のように鋭く見えることから、血糖値スパイクと呼ばれています。
食後に血糖値が少し上がることは誰でも起こりますが、健康な人の場合、上がり方も下がり方も穏やかで、食後に一時的に血糖値が高くなったとしても上がりすぎることはありません。そのため、インスリンをそれほど多く分泌する必要もなく、血糖値も緩やかに下がっていくので低血糖を引き起こさずに済むのです。
血糖値スパイクは、放置したままでいると動脈硬化が進み、血管が傷みやすくなり、炎症や酸化ストレスも起こりやすくなります。長期間にわたってこの状態が放置されていると、心血管疾患や脳卒中などのリスクが上がることや、認知症の症状の進行にも関係していることがわかってきています。
食後にぐったりと疲労感がひどくて椅子で座ったままになってしまう、耐え難いほどの眠気を感じるなど、元気を感じられない場合は「血糖値スパイク」が起きている可能性があります。
血糖値スパイクが続くと、体には以下のようなリスクが生じます。
血糖値スパイクは、単に眠気やイライラなどの神経系の症状を引き起こすだけではありません。何度も繰り返していると、血管を傷つけて動脈硬化が進行するだけでなく、それによって心筋梗塞や脳梗塞などの生命を脅かす疾患を引き起こしたり、インスリンの過剰分泌によってインスリンを分泌している膵臓が疲弊し、糖尿病に移行してしまうリスクもあります。
また、インスリンの過剰分泌は、脳の老廃物「アミロイドβ」を蓄積させたり、細胞の増殖を促したりすることで、認知症を進行させてしまったり、がんを発症させる危険性につながると言われています。このように、血糖値スパイクを放置していると、さまざまな疾患につながるリスクがあるのです。
血糖値スパイクは、食事のときのセルフケアである程度予防できます。食事の際は、ぜひ以下のようなことに気をつけてみてください。
血糖値スパイクによる日中の眠気を予防するには、ランチの内容にも気をつかいましょう。
血糖値の上昇を防ぐためにも、ランチは糖分や炭水化物を控えめにしたメニューを選び、血糖値の上昇を抑える食物繊維を多めに摂るようにしてください。
具体的には、ご飯を小さなお茶碗1杯に魚や野菜、大豆製品を中心としたあっさりしたメニューがおすすめです。
ランチはラーメンやパンなど炭水化物が多めなメニューで済ませる人も多いでしょうが、血糖値スパイクを防ぐには栄養バランスの良い定食やサラダセットなどのメニューを選ぶように意識してください。
食後に耐えられないほどひどい眠気が起こる場合、低血糖になっている可能性があります。食後は血糖値が高くなりますが、高くなりすぎるとインスリンが過剰分泌され、一気に血糖値が下がるため、低血糖にもなってしまうのです。
血糖値スパイクは、放置していると動脈硬化からの心筋梗塞や、認知症の進行、がんの発症などの深刻なリスクにつながる可能性もあります。食事や運動、生活習慣に気をつけながら血糖値スパイクを予防しましょう。