健康診断でわかる肝機能の数値が悪化する原因と改善策は?

2019/10/27

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

健康診断では、体の健康状態をチェックし、臓器に何らかの異常がないかを確認します。その臓器の1つが肝臓で、肝機能に何らかの異常がある場合、さまざまな数値の異常となって診断結果に現れてきます。

では、肝機能をはかることのできる数値には、どんなものがあるのでしょうか?この記事では、これら肝機能の異常をはかれる数値の解説と、数値が悪化する原因やその改善策をご紹介します。

肝臓の働きは?

肝臓には、主に以下の3つの働きがあります。

代謝
食物から吸収した糖・タンパク質・脂肪を体内で利用できる形にして蓄えておく
蓄えておいた栄養分は、必要なときにエネルギーの原料として供給する
解毒
アルコールや薬剤、老廃物などの体に有害な物質を分解して無毒化する
胆汁の生成・分泌
肝臓で生じた老廃物を流す「胆汁」を生成・分泌する(肝臓→胆のう→十二指腸)
胆汁は、脂肪の消化・吸収を助ける消化液にもなる

肝臓は肝細胞と呼ばれる細胞の集まりです。肝細胞では、食べ物や飲み物など体に取り入れたもの、またはそれを分解・吸収した原料をさまざまな化学反応によって加工する工場のような役割を果たしています。また、栄養素を蓄積して、必要なときに放出する倉庫としての働きもあります。

肝機能をあらわす数値は?

健康診断で血液検査を行うと、以下にご紹介する肝機能に関わる10個の数値について知ることができます。

AST(GOT)・ALT(GPT)

AST(GOT)は多くの臓器に含まれる酵素ですが、特に心臓・肝臓・腎臓・筋肉などの細胞に含まれています。そのため、これらの細胞が何らかの異常によって破壊されると、AST(GOT)が血液中に放出されて血中濃度が高くなります。また、値の上昇レベルによって、破壊や壊死の程度も知ることができます。

ASTとGOTは同じ酵素を示す名称で、日本では長くGOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)という名称が使われてきました。しかし、国際的な名称が変更になったことから、日本での名称もAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)に変わってきています。GOTが高い値を示す疾患として、肝障害のほかに心筋梗塞・心筋症・骨格筋・甲状腺機能亢進症などがあります。

GPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)も同様に、現在は国際基準であるALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)という名称で呼ばれるようになっています。ASTと同じく、肝臓を始めとした多くの臓器に含まれる酵素ですが、心臓にはあまり含まれていないため、とくに肝炎を発症した場合は非常に血中濃度が高くなる傾向があります。

AST値の目安は以下のようになっています。

8IU/L未満(低値)
安静者・人工透析者・妊婦などにみられるが、とくに心配はなく、経過観察とされる
8〜38IU/L(正常値)
この範囲内であれば、とくに臓器の機能障害などなく正常と考えられる
39〜89IU/L(軽度の上昇)
アルコール性肝炎・慢性肝炎・脂肪肝・肝硬変・心筋梗塞・甲状腺機能亢進症などの疑い
医師の指導が必要
90〜〜499IU/L(中等度の上昇)
活動性慢性肝炎・急性ウイルス肝炎・薬剤性肝炎・胆道疾患などの疑い
医師の管理と治療が必要
500IU/L以上(高度の上昇)
急性肝炎・鬱血性肝炎などの疑い
医師の管理と治療が必要で、激性肝炎の場合はさらに入院治療が必要となる

ALT値は正常値が4〜43IU/Lであるほかは、ASTと同じ基準値や疾患の見方で判断します。

γ-GTP

肝臓や腎臓・膵臓の細胞の膜に存在する酵素で、アルコールやその他の疾患などの影響で合成が増え、血中に放出されて濃度が高まります。この酵素は特にアルコールに対して敏感に反応し、しかも肝臓や胆道に異常があると他の酵素よりも早く異常値を示すことから、アルコール性肝機能障害の有力な指標となることがよく知られています。

γ-GTP値の目安は以下のようになっています。

男性86IU/L以下、女性48IU/L以下
正常と判断される
男性87〜499IU/L、女性49〜499IU/L
アルコールの一時的な多量摂取による数値上昇の場合、適正量を心がける
肝機能障害と判断されるが、まれに肝炎・肝硬変の発症が見られることもある
薬物の摂取による肝機能障害の有無は、他の検査結果と合わせて判断する
男女とも500IU/L以上
入院して精密検査を受けるとともに、日常生活で医師の指導が必要

γ-GTPは、検査方法や検査機関によって多少正常値が異なる場合もあります。

ALP(アルカリホスファターゼ)

体内のほとんどの臓器・骨に含まれている酵素で、主に肝臓を経て胆管・十二指腸に、または骨を経て胆汁中に排出されます。このことから、AST・ALT値が正常なのにALP値が高い場合は骨の疾患が疑われます。逆に、AST・ALT・ALPのすべてが高値なら、肝臓・胆道系の疾患が考えられます。

血中のALP濃度は肝障害のほか、胆汁の排出が傷害される胆汁うっ滞(胆道閉塞・閉塞系黄疸・胆道結石・胆道がんなど)、骨の疾患(骨成長・骨肉腫など)、腸の疾患(潰瘍性大腸炎など)で増加します。しかし、これらのALPは同じ酵素でもそれぞれの臓器によってタンパク質の構造が異なりますので、ALP値が高かった場合、精密検査によってどの組織の障害なのか判別します。

ALP値の目安は以下のようになっています。

354IU/L以下
正常と判断される
355〜400IU/L(軽度上昇)
ごく軽度で他に異常がない場合は、経過観察
必要に応じ、肝機能やアイソザイム分析、超音波検査などを実施
400IU/L以上(高度上昇)
胆道がん、胆石、胆がんなどの疑いがあり、入院して調べることも

TP(総タンパク)

総タンパクとは、血中のアルブミンやグロブリンなどのタンパク質の総称で、肝臓で合成され、腎臓でろ過されたのち、体内のさまざまな場所で利用されます。肝機能障害や腎機能障害が起こるとこの値が低くなるため、総タンパク値を調べることは肝臓や腎臓の機能異常を判断する材料のひとつになります。

総タンパク値の異常は、体内でのタンパク質の合成異常、分解異常、消費・漏出などが原因と考えられますが、さらに精密な検査を行うと、そのうちどのタンパクの増減があったのかを知ることもできます。総タンパク値が高値になる疾患として、悪性腫瘍(がん)・肝硬変・慢性肝炎・多発性骨髄腫などがあり、低値になる疾患としてはネフローゼ症候群・肝障害・栄養不良などが考えられます

総タンパク値の目安は以下のようになっています。

5g/dL以下(低タンパク血症)
精密な検査を行い、どのタンパクが低下しているのか調べる
5〜6.5g/dL(軽度低タンパク血症)
他の検査結果も見て判断するが、とくに問題がなければ経過観察とする
6.5〜8.5g/dL(正常)
正常と判断される
8.5〜10g/dL(軽度高タンパク血症)
他の検査結果も見て判断するが、とくに問題がなければ経過観察とする
10g/dL以上(高タンパク血症)
体の状態など総合的に診断し、必要に応じて精密な検査を行い、どのタンパクが増加しているか調べる

T-Bil(総ビリルビン)

ビリルビンとは、寿命を迎えた赤血球中が分解されたときにヘモグロビンから産生される物質で、さらに肝臓で分解されて胆汁として排出されます。そのため、肝機能障害があるとこの値も上昇します。血液中にこのビリルビンが増えると、皮膚などが黄色く変化する「黄疸」という症状が現れます。総ビリルビン値が約2.0mg/dLを超えると黄疸が現れ、ビリルビンが分解・排出される経路のどこかに異常が発生したと考えられます。

総ビリルビン値の目安は以下のようになっています。

1.2mg/dL(正常)
正常と判断される
1.3〜5.0mg/dL(軽度ビリルビン血症)
肝機能や赤血球数などを調べ、異常がなければ経過観察とする
5.1mg/dL以上(中・高度ビリルビン血症)
肝臓や胆管の精密検査を行う。10mg/dL以上の場合は入院して精密検査を行う

ZTT(硫酸亜鉛混濁試験/クンケル試験)・TTT(チモール混濁試験)

血中のタンパク質の性質を調べる検査で、タンパクと反応して沈殿を作る試薬を加え、できた沈殿の量を見て肝臓の状態を判断します。いずれも血中のγ-グロブリンの量を測定するもので、血中タンパクの7〜8割が肝臓で作られていることから、肝機能障害の慢性化や肝硬変などの指標として使われます。これらの疾患が生じるとγ-グロブリンが増加するため、ZTTやTTTの値を調べれば肝機能に何らかの異常が生じていると考えられるわけです。

ZTT値の目安は以下のようになっています。

クンケル単位12.0以下
正常と判断される
クンケル単位12.1以上
慢性肝疾患・膠原病・骨髄腫などの疾患が疑われるため、必要に応じて精密検査を行う
古くから感染している結核など、慢性の感染症でも増加するため、既往歴に注意する

TTT値の目安は以下のようになっています。

クンケル単位4.0以下
正常と判断される
クンケル単位4.1以上
再検査し、他の肝機能検査の値と合わせて判断する。必要に応じて精密検査を行う

これらの値は、高齢者で高くなる傾向がありますので、注意が必要です。

Alb(アルブミン)

アルブミンは血中にもっとも多く含まれるタンパク質で、80種類を超える血中タンパク質の5〜7割を占めます。血中のアルブミンは肝臓で合成され、腎臓でろ過されて体内で使われます。このアルブミン値と、1つ前のグロブリン値の比(A/G比)が正常値を超えることはほとんどありませんが、肝機能や腎機能に障害がある場合には値が低下します。

値が低下した場合、肝機能障害・慢性感染症・ネフローゼ症候群・多発性骨髄腫・栄養不良などの疾患が考えられます。アルブミン値の目安は、以下のようになっています。

3.5g/dL以下(低タンパク血症)
より精密な検査を行い、どの疾患が疑われるか診断する
3.5〜5.3g/dL(正常)
他の検査結果と合わせてとくに問題がなければ正常と判断され、経過観察

LDH(乳酸脱水素酵素)

体内のほとんどの臓器の細胞に含まれ、体内で糖をエネルギーに変える際に働く酵素です。とくに、肝臓のほか、腎臓・肺・血液・筋肉など、エネルギーを多く必要とする臓器に多く含まれています。また、がん細胞にも多く含まれることで知られています。この値が上昇するということは、これらの臓器のどこかに損傷があるということです。

考えられる疾患は肝炎・肝硬変・胆道の疾患のほか、心筋梗塞・心不全・肺梗塞・白血病・リンパ腫・悪性腫瘍(がん)などです。LDHの値の目安は、以下のようになっています。

120IU/L以下(低値)
臓器に異常がなくても見られる値のため、他の検査で問題がなければ経過観察とする
120〜442IU/L(正常)
正常と判断される
442〜500IU/L(軽度の上昇)
慢性肝炎・肝硬変・腎炎・筋障害・軽度の心筋梗塞などが疑われる
500IU/L以上(中〜高度の上昇)
心筋梗塞・溶血・悪性腫瘍・白血病・悪性の貧血などが疑われる

ただし、LDHが高値であっても単独で疾患を特定することはできず、症状や他の検査値と合わせて総合的に診断することになります。

肝機能の数値が悪くなる原因は?

肝機能に関連した数値が悪くなるということは、肝臓の機能に何らかの障害が起きているということです。このような肝機能障害を起こす理由として、ウイルス性・アルコール性・脂肪性・自己免疫性・薬物性の5つが考えられます。

ウイルス性肝炎
B型肝炎・C型肝炎は患者数が多く、慢性肝障害の原因にもなりやすい
A型肝炎ウイルスやE型肝炎ウイルスは急性肝炎の原因になる
B・C型肝炎ウイルスは血液感染、A・E型肝炎ウイルスは食物や水などの経口感染
アルコール性肝障害
アルコールは肝臓で分解されるため、過剰摂取はアルコール性脂肪肝・肝細胞の線維化・肝硬変などを引き起こす
脂肪肝:肝臓に中性脂肪やコレステロールが溜まった状態
線維化:肝細胞が損傷した後、修復機能が働かず、機能のないただの瘢痕組織となってしまう
肝臓の線維化が進み、肝臓が硬くなって著しい機能の減退が起こると肝硬変となる
アルコールは男性で1日20〜30g程度が適量で、それ以上は肝機能障害のリスクが高くなると言われている
非アルコール性脂肪性肝疾患NAFLD
アルコール以外の原因によって、脂肪肝となるケース
肥満・過剰な栄養の摂取などが原因と考えられ、やがては肝硬変を引き起こすと考えられる
糖尿病にかかっている場合も同様、脂肪肝から肝炎を引き起こす可能性がある
自己免疫性肝炎
免疫系統の異常によって自分の免疫で肝臓が攻撃され、肝機能障害を引き起こす
薬物性肝障害
肝臓は薬物を分解する働きも持っているため、薬物の影響でその機能が障害されることがある
この場合の薬物とは人体に有害なものとは限らず、疾患の治療のために投与されたものや、健康食品などが原因となることもある
進行すると重篤な肝不全となることや、場合によっては生命を脅かすことも

こうした肝機能障害になりやすい人は、ウイルス性ならそれぞれのウイルスに感染している人や感染者から感染するリスクの高い人が考えられます。アルコール性ならよく過度な飲酒を繰り返す人、非アルコール性なら肥満や栄養の過剰摂取をする人や糖尿病にかかっている人がリスクの高い人だと考えられます。

ですから、普段の生活では飲み過ぎや食べすぎに気をつけ、肥満傾向にある場合は食生活とともに適度な運動を取り入れるなど、生活習慣の見直しを心がけましょう。

肝機能を改善するには?

肝機能障害を引き起こし、肝機能に関する値を悪化させるリスク因子を避け、肝機能に関する数値を改善するために、以下のようなポイントに気をつけて過ごしましょう。

栄養バランスのとれた食生活
食事は主食・主菜・副菜を揃え、過剰に摂取し過ぎないようにする
良質なタンパク質を摂取するよう気をつける
栄養成分表示などを活用しながら、丼・麺類では野菜の小鉢をプラスする
糖質・脂質の過剰摂取に気をつける
菓子やジュース・果物などの間食を摂りすぎない
砂糖や果糖を摂取しすぎると肝臓に脂肪が溜まりやすくなり、肥満にもつながる
野菜・海藻・きのこなどの食物繊維やビタミン類を摂る
野菜は1日350gが基本で、足りない場合は副菜2種類にしてもOK
食物繊維は、食事の初めに摂取すると胃のスペースを占めて食べすぎ防止になるほか、腸からの糖質や脂質の吸収を遅らせてくれる
アルコールの摂取は適量で、つまみにも気をつける
肝臓に負担がかかるような飲酒量を繰り返せば繰り返すほど、リスク因子が増える
仕事上や、どうしてもやめられない人は「適正飲酒量」を心がける
つまみが高カロリーになりやすいので、できるだけ低カロリーなつまみにするか、つまみは摂らないなど、栄養の摂取しすぎに注意する
定期的な運動
男性は1日9,000歩、女性は1日8,500歩を目標に歩くとよい
できるだけ毎日、散歩やウォーキングなどの適度な運動を30分程度心がける

とはいえ、全てのポイントを一気に切り替えるのは難しく、最初から完璧にやろうとすると挫折してしまうことも考えられます。これらの習慣は1週間や2週間で終わるものではなく、ずっと長く続けていく必要があります。ですから、できること・できる量から少しずつ実行し、最終的に上記の習慣に近づけられるようにしていきましょう。

例えば、運動習慣がなかった人は、1日5~10分程度の散歩からスタートすると良いでしょう。栄養を過剰摂取していた人は、糖質や脂質の多い副菜を1種類減らしたり、食物繊維やビタミンの多い野菜や海藻に切り替えるなどがおすすめです。アルコールも、週に数日の休肝日を作る、度数を減らすなどのことから始めてみましょう。

おわりに:肝機能をはかる数値には10種類ある。異常があれば改善していこう

健康診断で肝機能をはかる数値には、よく知られているASTやALTを含め10種類のものがあります。これら肝機能の数値に異常が現れる場合、ウイルスやアルコール・過剰栄養などによって肝機能に何らかの障害が出ていると考えられます。

アルコールや過剰栄養による肝機能の負担は、生活習慣の見直しで軽減することができます。心当たりがあれば、できることから少しずつ実践していきましょう。

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