多汗症の手術:胸腔鏡下交感神経節遮断術(ETS)のリスクと費用

2018/1/25 記事改定日: 2018/6/25
記事改定回数:1回

山本 康博 先生

記事監修医師

東京大学医学部卒 呼吸器内科医

山本 康博 先生

多汗症とは、主に手のひらによくみられる病気です。軽いものであれば、物が持ちにくい程度の悩みで済みますが、重度の場合は電子機器の故障を引き起こすこともあり、深刻な悩みを抱える原因になりかねません。この記事では、多汗症の治療のひとつ胸腔鏡下交感神経節遮断術(ETS)について解説しています。

多汗症はどんな病気?

多汗症とは温熱や精神的負荷の有無に関わらず,日常生活に支障をきたす程の大量の発汗を生じる状態のことをいいます。
多汗症には全身に汗が増加する全身性多汗症と、身体の一部に限定して汗が増える局所多汗症に分類されます。

発症部位

局所多汗症で汗が増える部位は頭部、顔面、手掌、足底、腋窩とされていて左右対称に過剰な発汗を認めることが特徴です。
最も多く見られるのは手のひらの多汗症で、軽症の場合は一時的に多量の発汗が見られる程度でモノを持つときに困るくらいの悩みになりますが、重症の場合は滴り落ちるほど汗をかき、携帯電話やパソコンといった電子機器を壊してしまうまでに至ります。

原因

多汗症の原因は交感神経が関与している、あるいは交感神経を管理している脳の前頭葉、海馬、扁桃核の障害ではないかなどといわれていますが、今だ解明されていません。

原因不明の多汗症のことを原発性多汗症といいます。一方、他の疾患に合併して起きている多汗症のことを続発性多汗症と呼び、誘発する疾患として脳梗塞、末梢神経障害、脊椎損傷などが挙げられます。
また、近年では原因が遺伝によるものではないかともいわれており海外では多汗症患者の60~65%に家族内に同じような症状の人がいる、あるいは多汗症と診断されているという人がいたと報告されています。

多汗症の手術療法:胸腔鏡下交感神経節遮断術(ETS)とは?

胸腔鏡下交感神経節遮断術(ETS)とは、胸部と腕の発汗や皮膚の毛細血管の収縮などを支配している交感神経の働きをなくしてしまうことによって発汗を抑えることを目的とする手術です。
通常は社会生活に影響が出るほどの患者のみに適応されるといわれています。

手術の流れ

発汗は脳からの指令が脊髄、交感神経を通って観戦に伝達される仕組みとなっていて、交感神経を遮断して働きを止めることによって汗を止めるというメカニズムとなります。

女性では乳房下、男性では乳輪下に約3mmの皮膚切開を行った後、細径内視鏡を挿入します。特殊な機械で二酸化炭素を胸腔内に送り込み、肺を傷つけないようにしてから電気メスでその部位の発汗を支配している神経を遮断します。
遮断後は二酸化炭素を抜き、皮膚を縫合して終了です。

手術は全身麻酔下で行い、手術そのものは通常20~45分ほどで終了します。
大体2泊3日ほどの入院で済み、手術翌日はシャワーも食事も通常通り可能です。

胸腔鏡下交感神経節遮断術(ETS)の副作用について

胸腔鏡化交感神経節遮断術(ETS)における代表的な副作用は以下の4つとなります。

代償性発汗

この手術を受けた人の大半に現れる副作用です。手術により減った発汗量を補うために他の部分から出てくる汗で、背中や胸、大腿部から汗が出るようになります。
汗かきの人ほど多く出る傾向にあるものの外気温が25℃以下となれば汗が出なくなるという人もいます。

味覚性発汗

熱いものや刺激物、甘いものや特定の食べ物を食べると顔から発汗する現象で手術から数か月後より起こるといわれています。手術を受けた全員にみられるものではなく、食事が終わると汗も止まります。

ホルネル現象

手術の際に通常は切る神経ではない第一肋骨の上の神経が電気メスを脂肪が厚いなどの理由で長時間使用してしまった場合にダメージを受けてしまうことによって起こる現象です。まぶたが重くなる症状が現れます。

手の乾燥

手の発汗が無くなることで手の潤いが無くなり、乾燥やひび割れを起こしやすくなります。また、手が冷えやすくなることもあります。

この他にも手術による直接的な合併症として、傷口からの感染や出血、気胸、血胸、腋から腕にかけてのしびれなどがあります。また、稀にですが自律神経失調症になる場合もあります。

再発のリスク

手術によって発汗を司る神経をブロックすることで、術後は多汗症の著しい改善を期待することが可能です。しかし、交感神経は再生が生じやすい神経であり、手術によっても交感神経節が完全に遮断できなかった場合には再発することもあります。また、交感神経にクリップをかける術式のものは再発を起こしやすいことが分かっています。このため、術式や術後の経過に関しては事前に担当医とよく相談しておきましょう。

多汗症の手術の費用 ― 健康保険は適用になる?

多汗症のための胸腔鏡下交感神経節遮断術の多くは日帰りで行うことができ、その後の通院も少ない回数でよいのが一つのメリットです。
もちろん保険適応となり、医療機関によって費用は異なりますが自己負担額の相場は8~10万円です。加入している医療保険によっては手術給付金を受けることも可能ですので、事前に問い合わせておきましょう。

高額療養費支給制度

高額医療費支給制度とは、一か月の間に高額な医療費を支払ったときに上限額以上の費用が健康保険から払い戻される制度のことです。
上限額はその世帯の収入によっても異なりますが、252,600円~35,400円と幅がありますので、ご自身がどの区分に該当するかを把握し、上限額より多くの医療費を払った場合にはきちんと申請するようにしましょう。申請を行うと、約三か月の審査を経て払い戻されます。
多汗症の治療も対象になるので、特に手術を受けた月は高額医療に該当する可能性があります。積極的に制度を利用してお得に治療を受けるようにしましょう。

おわりに:多汗症の手術は多少のリスクが伴う。メリットとデメリット、費用のことはきちんと理解しておこう

多汗症の原因はまだはっきりしていません。
重症例では日常生活や社会生活に影響を及ぼしてしまうこともあり、患者本人にとっては引きこもりの要因にもなりかねない病気です。
神経を遮断する手術で局所的な発汗を止めることができますが、他の所から異常に発汗してしまう合併症を伴う可能性があるため、治療前にきちんと事前説明をしてもらい、メリットとデメリットを理解したうえで検討するようにしましょう。

関連記事

この記事に含まれるキーワード

多汗症(10) 原発性多汗症(4) 胸腔鏡下交感神経節遮断術(1) 続発性多汗症(2) 代償性発汗(2) 味覚性発汗(1) ホルネル現象(1)