記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/3/8 記事改定日: 2020/5/13
記事改定回数:1回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
腸と肝臓を繋ぐ血管・門脈に血栓ができたり、狭窄を起こしたりする「門脈血栓症」。合併症として発症することも多く、さまざまな消化器官や臓器に影響を与えるおそれがある病気です。今回はこの門脈血栓症について、症状や原因、抗凝固薬の服薬など治療法をわかりやすく解説していきます。
門脈とは、食べ物から栄養分などを消化吸収する胃腸と、栄養分を代謝したり分解したりする肝臓とを繋ぐ血管です。
門脈血栓症は、この門脈に血栓(血のかたまり)が詰まって塞がったり(閉塞)、血液の通り道が非常に狭まったりする(狭窄)症状をいいます。この症状によって、肝臓への血液の供給が大幅に減少することがあります。
一般的には、門脈に血栓ができただけで何らかの自覚症状があらわれることはありません。ただし一部の人に次のような症状があらわれる場合があります。
「腹水」が生じるようになると、膨満感が自覚症状として現れることがあります。
「脾腫」とは、門脈の血栓付近の血圧が上昇することで、門脈の手前にある造血器官である脾臓が肥大化して腫れる状態です。
「静脈瘤」は胃や食道などに発生し、破裂した場合は消化管内に血液が漏れ出して吐血や下血を引き起こすことがあります。
門脈に血栓が発生するのは、「血液成分の異常」「血行の異常」「血管壁の異常」などが生じているときと考えられています。
特に門脈血栓症が起きやすいとされるのは、次のような状態です。
肝臓内や門脈の血流が低下する場合があるため、それで門脈に血栓ができることがあります。肝硬変の患者が門脈血栓症を併発すれば容態が悪化しますので、細心の注意が求められます。
門脈血栓症は、お腹の手術の合併症として引き起こされることがあります。
とくに、門脈と太い血管でつながっている脾臓を摘出する手術を受けた後は、門脈の血流が低下しやすいため門脈血栓症を発症するリスクが高くなるとされています。
門脈血栓症は、がんなど全身の血液が固まりやすくなる病気によって引き起こされることも少なくありません。
また、門脈内の血流が低下しやすくなる特発性門脈圧亢進症、門脈に炎症が波及して血栓の形成を促す胆管炎など特定の病気でも門脈血栓症を併発することがあります。
妊娠したことで血流が滞りやすくなることで門脈血栓症を発症することがあります。
新生児の門脈血栓症は、ヘソの緒(臍帯)を切断したときに生じた臍静脈の炎症による発症が多いです。
幼児では、急性虫垂炎(盲腸)の感染が門脈にまで広がった結果、門脈血栓症を発症する場合があります。
門脈血栓症を血液検査によって発見することは困難です。肝硬変などの肝臓疾患にかかっていない限り肝機能自体は正常なため、肝臓の機能や損傷を確認する血液検査では門脈血栓症の発見が難しいといえます。
一般的にはドプラ(ドップラー)腹部超音波検査によって、門脈における血流の異常減少を読みとって診断します。読みとりづらい場合は、MRI検査やCTスキャン検査を併用して特定することもあります。
あるいは、門脈血管内に造影剤を注入し、X線(レントゲン)検査を行うことで、血栓の存在を明らかにすることもあります。
門脈血栓症の治療では、ワルファリンやヘパリンなどの抗凝固薬を、血液内に注射あるいは服用する薬物療法が一般的です。血管内に発生した血栓を薬で溶かしたり、血栓の発生を防ぎます。
同じく薬物療法として、すでにできた血栓を溶かすとされる組織プラスミノーゲンアクチベーターなどが投与されることもありますが、こうした血栓溶解療法の有効性はまだ明確になっていません。
臍静脈帯の炎症や虫垂炎など、原因となった病気や症状に対する治療も必要に応じて行います。
門脈血栓症になると、肝臓へ流入する血液が通る門脈に血栓ができて血管内に閉塞や狭窄を起こしてしまうことがあります。肝臓にダメージが生じることはあまりありませんが、静脈瘤の破裂で食道や胃に出血が発生することがあり、決して軽視することはできません。医師による適切な治療を受けるようにしましょう。