記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/2/16
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
自殺をしたり、自殺しようと思ったりする人が出てきてしまう理由はまだはっきりとわかっていませんが、精神病やうつ病、アルコール中毒といった精神的な問題を抱えていたり、絶望感や無力感が強くなると自殺に走る傾向があることがわかっています。
専門家の多くは、人が自殺願望を持ったり、自殺行動に走りたくなる要因があると考えています。たとえば、以下のようなものです。
幼少期に性的または肉体的虐待を受けたことがあったり、親からネグレクトされたりした経験を持っています。
普段から大量の酒を飲んだり、薬物を乱用したりしています。
社会的に孤立している、いじめを受けたことがある、あるいは同時に複数の恋愛関係を結んだことがあります。
就労満足度の低下、会社の倒産もしくは失業の不安を抱えていることが多いです。
統合失調症などの重い精神病を抱えていることがあります。
上記のほか、ストレスの多い出来事が続いたり、パートナーが亡くなったり、自分自身が末期がんと診断されたりなどといった出来事がいくつか重なってしまったときに、自殺願望や衝動が強くなってしまう可能性があります。
自殺を図る人のうち、90%は1つ以上の精神疾患を持っていることがわかっています。自殺の最大の危険につながる症状は以下の通りです。
重度のうつ病は、気分の落ち込みや周囲への関心の喪失、絶望的な気分を引き起こします。重度のうつ病を患っている人は、健康な人よりも自殺を図る可能性がとても高いです。
双極性障害は、ものすごく明るい時期が続いたかと思えば、突然ものすごく落ち込んでしまう時期がやってくるという、2つの両極端な感情で揺れ動いてしまう症状です。双極性障害患者のうち、3人に1人は、少なくとも1回は自殺を図ろうとします。
統合失調症は、典型的には幻覚(実在しない物や音を見たり聞いたりしてしまう)、妄想(真実でないことを信じる)、行動の変化を引き起こす長期的な精神障害です。統合失調症患者のうち、20人に1人が自殺を図ろうとします。特に、統合失調症患者の人がうつ病も併発すると、そのリスクがさらに高まります。
また、統合失調症患者は自傷行為(自分の体を意識的にまたは無意識のうちに傷つけてしまう行為)をするリスクが高いと言われています。
境界性人格障害の患者は幼児期に性的虐待の経験を持っていることが多く、不安定な感情、思考パターンの乱れ、衝動的な行動、および他人との強く、でも不安定な関係を持っていることが特徴です。境界線人格障害を持つ人の半分以上が、少なくとも1回は自殺を試みると言われています。また、自傷行為にも走りやすいと言われています。
神経性無食欲症(拒食症)は摂食障害のひとつです。自分は太っているという認識が強く、できるだけ体重を減らそうとするために、何を食べるかを厳密に管理するだけでなく、いったん食べたものを吐いてしまうこともあります。神経性無食欲症患者のうち、5人に1人程度が自殺を試みると言われています。
自殺願望が芽生えてしまうそのほかの要因として、以下のようなものがあります。
・ゲイ、レズビアンまたはトランスジェンダー
・借金がある
・ホームレス
・退役軍人
・刑務所で服役中、もしくは最近刑務所から釈放された
・自殺で命を落とす可能性がある人のそばにいる人(医師、看護師、薬剤師など)
・自殺行動を持っている人(特に親しい友人や家族)と接することがある
また、特に25歳以下の人について、初めて抗うつ薬を服用する人も自殺願望を持ちやすいといわれています。もし、抗うつ薬を服用中に自殺願望や自傷行為をしたくなったら、すぐに主治医に連絡し、診察を受けてください。
できれば、服用を始めたことを信頼できる家族や親しい友人にあらかじめ伝えておくのもお勧めです。その際、治療薬と一緒に渡されたリーフレットを読んでもらうことと、症状が悪化したり行動が変わったような気がしたときは声をかけて欲しいことを頼んでください。
自殺願望や精神疾患の症状は遺伝する可能性があり、ここから特定の遺伝子が自殺と関連している可能性が推測されています。
ただ、自殺に至る要因が複雑かつ広範囲にわたるため、「自殺遺伝子」があると結論付けるのはまだ早いです。現時点では、特に人がうつ状態にあるときに、遺伝的な要素が自殺に走るリスクを高める可能性がある性格的な問題(衝動的または積極的な行動をするなど)を刺激する、と考えるにとどめておいたほうがよいでしょう。
アメリカの心理学者トーマス・ジョイナーが、自殺の対人関係理論として知られる理論を開発しています。この理論によると、自殺に陥る原因となる3つの主な要因を述べています。
「誰も本当に自分のことを気にしない」という感覚です。
「他人にとって自分の存在は負担であり、死んだほうがましである」と思っています。
この理論では、時間が経つにつれて痛みと自傷行為に対する恐れがなくなっていくこと、そして、自傷行為と自殺には強い関連性があることを説明できると主張しています。
他人の苦しみや痛みに定期的にさらされている人は時間とともに恐れが薄れる、というこの理論は、なぜ医師や看護師など、このような状況にさらされる機会が多い職業に就く人の自殺率が高いのかを説明するのに役立ちます。
自殺を図ろうとする人は精神的な問題を抱えていることが多いものの、それだけがすべての理由ではないことがわかっています。また、最近では死や痛みへの恐れがなくなってしまうことも自殺に走るきっかけになるのではないか、という理論も登場しています。もし身近にそのような人がいたら、そばで見守ってあげたり、変化に気づいたら声をかけたりして、大事な人を失わないようにしましょう。