記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/10/15
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
人間の体は、食物に含まれる栄養素を体内でさまざまに分解し、体を作る原料にしたり、活動するためのエネルギーにしたりして生命活動を行っています。この過程を「代謝」と言いますが、代謝の過程に何らかの異常があると「代謝異常症」というさまざまな症状を引き起こします。
代謝異常症のうち、「有機酸代謝異常症」とはどんな疾患なのでしょうか?また、症状や対処法はどんなものがあるのでしょうか?
人間の体は食品から摂取した栄養素を体内で分解し、さまざまに活用しながら生きています。このうち、アミノ酸の代謝に必要な酵素が生まれつきうまく働かず、代謝の途中で産生される物質から「有機酸」と呼ばれる物質に変化して、体に溜まってさまざまな障害を引き起こす疾患の総称を「有機酸代謝異常症」と言います。
本来は「タンパク質や脂質→物質A」「物質A→エネルギー」と変換されるはずの経路のうち、「物質A→エネルギー」の変換が起こらなくなるため、「物質A→有機酸」という別の変換が起こってしまい、有害な有機酸がどんどん蓄積してしまうという状態になってしまうのです。
代表的な有機酸代謝異常症として、「メチルマロン酸血症」「プロピオン酸血症」などがあります。この疾患を抱える人の多くは新生児や乳児の頃に「代謝性アシドーシス(血液が酸性に傾く)」「高アンモニア血症」などの代謝にまつわる病態を発症し、結果として嘔吐や意識障害、けいれんなどの症状が現れます。
こうした発作は全身に有害な影響を及ぼしますが、とくに脳に非常に有害で、後遺症が残ったり、致命的な障害を引き起こすこともあります。
有機酸代謝異常症でみられる主な症状として、以下の5つがあります。
このように、有機酸代謝異常では急性・慢性のいずれも、意識障害や精神運動発達遅滞など、脳神経・筋肉系の障害が起こりやすいのが特徴です。急性発症型の場合はこれに加え、呼吸障害が起こることもあります。
その他、皮膚粘膜移行部の難治性湿疹、尿路結石・黒色尿・溶血性貧血、好中球減少などが起こることもあります。さらに、腎障害や心筋障害、膵炎、骨格筋障害など、より重篤な疾患として発症する場合もあります。奇形は一般的に起こりにくいですが、多発性嚢胞腎など、ごく一部の疾患に伴う特徴的な奇形が見られることもあります。
有機酸代謝異常症は、代謝そのものを正常な状態に戻すという意味での治療法はありません。そこで、食事療法などでそもそも有機酸が発生しないよう抑え、発作や合併症などが起こらないようにします。アプローチ方法としては、内科的治療または移植治療の2つの方法があります。
内科的治療の場合、あくまでも対症療法となりますので、発作を繰り返したり、経管栄養や入院を頻繁に行わなくてはならず、QOL(生活の質)が著しく低下することもあります。反面、移植の場合は非常に大きな手術を乗り越えなくてはならないほか、移植後の拒絶反応や免疫抑制剤を飲み続けなくてはならないリスクがあります。
また、腎障害を伴うメチルマロン酸血症の場合、腎臓だけの移植や、肝臓・腎臓を同時に移植する肝腎移植が有効だったという報告もあります。
内科的治療と移植治療のどちらが良いかはもちろん患者さん本人の状態や、家族も含めた希望によりますが、医師とよく相談し、メリット・デメリットを十分に考慮した上で選びましょう。
有機酸代謝異常症は、さまざまな代謝異常症の中でも脳に重大な影響を及ぼしやすいことがわかっています。意識障害やけいれん、精神運動発達遅滞などが起こる可能性がありますので、食事療法や薬物療法でアミノ酸の摂取を制限したり、有機酸の排出を促す必要があります。
また、外科的治療法として、肝臓移植という方法もあります。大きな手術であるため負担が多いですが、食事制限を緩和できるなど、QOL向上が期待できます。