記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/8/19
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
熱中症予防のためには、水分補給がとくに大切だとよく言われます。夏は気温が暑いため、とくに熱中症になりやすい季節ですが、この理由の一つに汗をかきやすく、体内から水分が失われやすいことが挙げられます。
水分不足による脱水症状を防ぐために、水分補給は欠かせません。さらに、ただの水を飲むよりも麦茶の方がおすすめだと言われています。それはなぜなのでしょうか?
熱中症になると、筋肉や血流・神経など、体のさまざまな部分に支障が出てきます。見た目にわかる、あるいは自覚症状として、以下のような症状があります。
通常、運動や作業など、活動をすると私たちの体の中では細胞が代謝し、熱が生まれます。しかし、人間の体には体温を調節し一定に保つ機能が備わっていて、体温が上がると自律神経の働きで末梢の血管が広がり、皮膚の表面近くに多くの血液が流れ込み、熱を体の外に発散するという仕組みになっています。これと同時に汗腺から汗が出され、汗が皮膚の表面で蒸発して皮膚の表面から熱が奪われます。こうして、効率よく体温を下げることができます。
しかし、あまりにも気温の高い環境に長時間いると、血管からの熱放出も、汗による熱放出もうまく働きません。すると、体内に熱がこもり、体温は上がり続けます。さらに、急激に大量の汗をかくことで、体内の水分と塩分が失われ、体液のバランスが崩れます。こうして、熱中症の症状に至るのです。
熱中症になりやすいタイプとして、以下のような人が挙げられます。
とくに、高齢者や乳幼児は体温調節機能が衰えていたり、未熟だったりして、体温調節機能が正常に働く成人と比べてうまく体外に熱を発散できず、体内に熱がこもりやすく、暑さや寒さを自覚するのも遅いため、熱中症のリスクが高いと言えます。さらに子どもの場合、身長の低さから成人と比べて地面に近いぶん、アスファルトの照り返しなどの影響も受けやすいです。
肥満傾向の人をはじめ、生活習慣病のリスク要因のある人や、心臓病・糖尿病・高血圧・腎臓病などの持病がある人も、血液循環や汗腺による体温調節機能が乱れやすいと言えます。精神神経疾患や皮膚疾患などは、自律神経が上手く働かなかったり、汗が出なかったり、皮膚表面から上手く熱が発散されなかったり、という可能性があります。
また、持病の治療のために服薬している人は、薬剤によっては発汗を抑えたり利尿作用を持っているものもあり、これらが間接的に熱中症を引き起こす要因となることもありますので、注意が必要です。心配な場合は、主治医や薬剤師によく確認しましょう。
麦茶には、血液をサラサラにする効果があることがわかっています。これは、農林水産省食品総合研究所とカゴメ総合研究所の報告によるもので、シリコンチップ上で血液の通過時間を計測する研究を行ったところ、麦茶を飲んだ血液は、飲んでいない血液よりも流動性が高くなる、つまりスムーズに流れやすくなることがわかったのです。
また、汗をかくと体内から塩分やミネラルが失われてしまい、この状態が長く続くと体温調節機能のバランスが崩れ、体内に熱がこもって熱中症を引き起こしますが、麦茶には体の熱を冷ます効果が期待できるだけでなく、多くのミネラルが含まれています。このことからも、熱中症対策として麦茶を飲むのは合理的と言えます。
ほかにも、麦茶特有の香ばしい匂いの成分「ピラジン類」に血流改善効果がある、抗酸化作用によって真夏の厳しい紫外線ダメージを軽減できる、胃の粘膜を保護する作用がある、など、研究からさまざまな麦茶の効能がわかってきています。ぜひ、熱中症予防に麦茶を飲みましょう。
ただし、状態によっては麦茶だけで対応できないこともあります。そもそも熱中症には以下の3つのタイプがあり、それぞれ対処法が違うのです。
一般的に、熱中症は水分摂取が大きく叫ばれますが、真水や麦茶などの水分摂取で症状が回復するのは主に2番目の「熱疲労」の状態です。この状態のときは脱水症状や体に熱がこもっていることが原因なので、水分を補給し体温を下げてやるのが最も効果的だと考えられます。また、3番目の「熱射病」の状態は体温が上がりすぎているうえ、体温調節機能が正常に働かなくなっているため、非常に危険な状態です。この場合はすぐに病院へ行きましょう。
問題なのは、1番目の「熱けいれん」です。熱けいれんは「大量に汗をかいたとき」に起こるとご紹介しましたが、例えば炎天下での長時間の仕事、スポーツ(野球、サッカー、テニス、ゴルフなど)などによって起こりやすいことが知られています。このとき、汗によって体内からは水分とともに塩分などの電解質も大量に失われています。
大量の汗によって体内の塩分が急激に少なくなると、血液中の塩分濃度も当然低下します。すると、電解質不足から太ももやふくらはぎ・腹部の筋肉などがけいれんを起こしやすくなります。この状態で水分だけを大量に摂取すると、血液中の塩分濃度がさらに下がり、「脱塩水症」という症状を引き起こし、症状がさらに悪化することも少なくありません。
そこで、炎天下で長時間の仕事をしたり、スポーツなどで激しく運動するようなことがあるときには、まず経口補水液でしっかり塩分を補給しましょう。スポーツドリンクも絶対にダメというわけではありませんが、スポーツドリンクは糖分が多いわりに塩分が少なく、したがって本当に補給したいナトリウムなど電解質の補給になりにくいのです。しかし、水や麦茶よりは塩分を含んでいるため、経口補水液がないときの代用には良いでしょう。
経口補水液は点滴と同じように、少しずつこまめに補給することが大切です。そのため、スポーツや仕事の前、休憩時、終わった後など、回数を分けて飲みましょう。熱けいれんは、塩分と水分を補給したのち、しばらく休んでいれば回復します。逆に、しばらくしても回復しない場合や、けいれんだけでなく体温の異常な上昇などを発症している場合、意識がはっきりしない場合などは、熱射病などを併発している可能性もありますので、すぐに病院で診察を受けましょう。
水分補給以外にも、日々のちょっとした工夫で熱中症を予防することができます。夏場はぜひ、以下のようなことに気をつけて過ごしましょう。
汗をかいたときの水分補給や塩分補給はもちろん非常に重要ですが、そもそも熱中症が多発するような暑い日に不要不急の外出はしない、炎天下を長時間歩き回るのを避ける、出かけるときは帽子や日傘を使う、体調が悪いときはすぐに休む、など、熱中症にかかるリスクそのものを下げることも重要です。
麦茶には体の熱を冷ます効果が期待できるほか、たくさんのミネラルが含まれているため、熱中症になる前に予防したり、日常生活でのどが渇いたときの水分補給としておすすめです。また、血液をサラサラにする効果もあるため、脱水症状からの熱中症にも改善効果が期待できます。
しかし、スポーツや炎天下の活動によって大量の汗が一気に流れ出た場合は、麦茶よりも経口補水液がおすすめです。場合によって使い分けましょう。