記事監修医師
前田 裕斗 先生
2017/11/15 記事改定日: 2019/3/13
記事改定回数:1回
記事監修医師
前田 裕斗 先生
停留精巣とは、本来陰嚢に収まるはずの精巣がお腹の中など別の場所に留まってしまうことです。そのまま放置していると、将来男性不妊になったり、精巣捻転の原因になる可能性があります。この記事では、停留精巣が身体にどのような影響を及ぼすかについて解説しています。
停留精巣とは、本来に陰嚢内に収まるはずの精巣が、お腹の中などに留まっている状態のことです。
精巣は胎児のときに腹部で作られ、それが生まれる少し前から段々と陰嚢へ下りていきます。この下りる過程で止まってしまったもの、まだ下りる途中であるものがいわゆる停留精巣ということになります。
ほとんどは生まれてから数か月で下り切り陰嚢に収まりますが、一部のケースでは下り切らずにお腹の中に留まった状態になってしまいます。
この状態が長く続くと、鼠径ヘルニアや精巣捻転症などの原因になるので注意が必要です。
停留精巣には、触知精巣と非触知精巣の2つがあります。
触知精巣は、手で触って精巣に触れることができる状態となっており、この場合は停留精巣か移動性精巣の可能性があります。
移動性精巣は刺激によって上に上がってしまうものであり、リラックスをしている状態であれば精巣が陰嚢に収まる状態であるのに対して非触知精巣は、手で触っても精巣に触ることができない状態です。
この場合、精巣は腹腔内に存在しているか、精巣が形成されていない精巣無形成の状態であることが考えられます。精巣無形成とは、最初から精巣がないような状態です。いずれにしても早急な対処が必要になります。
触知精巣では触診と超音波検査で診断を行います。鼠径管の外に精巣があれば触診が可能であり、この位置であれば精巣を固定させることは比較的容易とされています。
ただし精巣が鼠径管の内側にある場合には触診ができません。その場合には超音波検査を用いて、場所を確認します。
一方、非触知精巣の場合では超音波検査をしても位置が特定できないため、腹腔鏡で精巣の有無を調べることになります。
腹腔鏡により位置をしっかりと確認し、年齢に応じてどのような対処をすべきかを判断します。場合によっては摘除が必要になるような、一刻を争うような状況となることもあります。
停留精巣の状態は、精巣を高温の状態にさらしているということです。通常の精巣は外気に触れるところにあるため、周囲の温度が若干下がります。周囲の温度が高いと精子形成に影響し、将来的な男性不妊の原因となってしまいます。
また、停留精巣の状態のままいると悪性腫瘍ができやすいとされ、精巣捻転などの問題も引き起こします。そのため、停留精巣であれば一刻も早い治療が必要とされているのです。
現時点で最も効果的なのは手術による治療です。生後3ヶ月までは自然治癒が見込めるものもありますが、それ以降は期待できなくなります。
停留精巣の手術は、精巣を体表から触知できるタイプとできないタイプによって方法が異なります。
触知できるタイプのものでは、下腹部を切開して精巣・血管・精管を周辺の組織から丁寧に剥がして引き伸ばし、陰嚢内まで下げて固定する「精巣固定術」が行われます。手術時間は一時間ほどで身体への負担は比較的少ないとされています。
一方、精巣が触知できないタイプのものは、まずは腹腔鏡を腹腔内に挿入して精巣の位置を同定します。触知できないタイプの停留精巣は精巣が高度に萎縮していることが多く、将来的にがん化する可能性がありますので、手術によって切除されます。また、萎縮がなく正常な形態の精巣が発見できた場合には、触知できる場合と同じく「精巣固定術」が行われます。
精巣がお腹の中などに留まったままの状態にある停留精巣は、そのままにしておくと精巣捻転や男性不妊の原因になる可能性があります。ただし、移動性精巣であれば治療の必要はありません。いずれにしても、不安がある場合は早めに医師に相談し、適切なタイミングで治療ができるように備えておきましょう。