記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/10/6
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
消毒薬といえばアルコールが比較的安全で殺菌力も高いとして、さまざまな場所で使われています。また、医療機関では細菌やウイルスの種類によって消毒薬を使い分けています。
「次亜塩素酸水」も除菌を目的に使われるものですが、似たような名前の物質に「次亜塩素酸ナトリウム」があり、次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムは異なります。この記事ではこれらの違いや、次亜塩素酸水の使い方についてご紹介します。
次亜塩素酸水とは、「塩化ナトリウム」と「希塩酸」と「水」を混ぜて作った生成水です。さまざまな細菌やウイルスを除菌できますが、合成界面活性剤などの化学合成物質を使っていないため、人体への影響はなく、万が一目や口に入っても大きな問題がないされるのが特徴です。
もともと次亜塩素酸水は、塩化ナトリウム水溶液や塩酸水、塩酸と塩化ナトリウムの混合液などを電気分解して作られており、適切な濃度で使うぶんには人体への影響がほとんどないとされることから、医療機関での手術者や介助者の手指消毒、医療器具の洗浄・消毒、食品加工や関連機器、手指の消毒などに使われていました。
細菌やウイルスを不活化できる理由は、メインの殺菌力を発揮する次亜塩素酸(HClO)のほか、オキシドールとして古くから消毒薬に使われていた過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシラジカル(OHラジカル)などの成分が細菌やウイルスの細胞膜・タンパク質・核酸などに作用し、損傷を与えるからだと考えられています。
また、医療器具の洗浄・消毒に認められてから20年以上経っていますが、使い続けてもこれまで耐性菌の出現は認められなかったことがわかっているほか、今後も理論的には耐性菌の出現は考えられないと判断されています。しかし、有効塩素濃度が規定未満の場合は十分な殺菌効果を得られないため、使う前には必ず有効塩素濃度を確認したほうがよいでしょう。
とくに、アルコール(手指などの消毒)やポピドンヨード(うがい薬)では殺菌できないボツリヌス菌、ウェルシュ菌、破傷風菌などの菌や、ノロウイルスなどにも殺菌効果を発揮することから、人体への影響が少なく、有害な菌やウイルスを殺菌できるとして注目されています。
「次亜塩素酸水」と「次亜塩素酸ナトリウム」は、字面としては似ていますが、性質は全く違うものです。最大の違いは、次亜塩素酸水は人体への影響はないとされ安全性が高いものですが、次亜塩素酸ナトリウムは皮膚に触れると火傷のようなケロイド症状を引き起こすという非常に危険な薬剤であるということです。
その他にも、次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムには以下のような違いがあります。
項目 | 次亜塩素酸水(微酸性電解水) | 次亜塩素酸ナトリウム |
---|---|---|
主成分 | 次亜塩素酸 | 次亜塩素酸イオン |
pH | pH5.0~6.5(弱酸性)※ | pH12以上(強アルカリ性) |
使い方 | 原液のまま | 使用用途により、100~10000倍に薄める |
臭い | 基本的に無臭だが、反応時に塩素臭 | 強烈な塩素臭 |
用途 | 衣服・手指・器具・空間などの除菌・消臭 | 器具・容器などに限定して使う漂白剤 |
安全性 | 目や口に入っても害がなく、口腔衛生にも使える | 金属を腐食したり、トリハロメタンを生成するため取り扱いには十分注意する |
刺激性・毒性 | なし | 刺激性あり、酸と混ぜると有毒ガスが発生 |
殺菌力 | 効果あり。あらゆる微生物を不活化 | 100ppm以上の高濃度にすればあり |
消臭力 | 効果あり:臭いそのものを分解する | 効果小:塩素臭が残る |
※市販されているのは微酸性電解水であることが多いため、微酸性電解水の数値を表記しています
このように、次亜塩素酸水は除菌・消臭に大きな効果を発揮する安全な生成水ですが、次亜塩素酸ナトリウムは主に漂白作用をメインとする人体や生物には有毒な物質です。一般的に広く使われる次亜塩素酸水は食品添加物としても使われるレベルの80ppmや、医療機関で使われる200ppmのものが多いですが、原液と呼ばれる400ppmであっても皮膚に付着しても人体に影響はなく、安全であるとされています。
一般的に、医療関連施設では細菌の種類に応じ、アルコールやクレゾール、グルタールアルデヒドなど、さまざまな消毒薬を使い分けていることが多いです。しかし、次亜塩素酸水はこれらの消毒薬で除菌できるほとんどの菌に作用し、同じような除菌効果を発揮できることがわかっています。
次亜塩素酸水は、用途によって異なる濃度のものを使うと良いでしょう。
食品添加物にも使えるレベルの次亜塩素酸水は、厚生労働省の基準によって80ppmまでが安全な範囲内とされています。つまり、体内に直接入るものを除菌するのであれば、この濃度までの次亜塩素酸水を使うと良いでしょう。
ただし、感染症の吐瀉物・排泄物などの汚物処理に使う場合や、お風呂場のカビ取り、トイレの便器内清掃などは、確実に菌を除菌・滅菌したい状況です。この場合は、400ppmの原液をはっきりと水滴がついて垂れるくらいにたっぷり使いましょう。
次亜塩素酸水を使うときは、以下のような点に注意しましょう。
次亜塩素酸水は、微生物に直接触れることで除菌・殺菌作用を発揮します。しかし、反面、菌やウイルス以外でも、有機物に触れると反応してどんどん消費されていってしまいます。そのため、汚れが残っている場所に使用しても十分な殺菌効果は得られません。まず、その場所に付着している汚れは洗浄してから使いましょう。とくに、油汚れは次亜塩素酸水を弾いてしまうため、殺菌力はさらに弱まります。
同じ理由で、食材を殺菌する場合でも必要に応じて次亜塩素酸水の濃度を濃くしたり、調理器具をつけ置き洗いにするときは何度か撹拌するなど、微生物と次亜塩素酸水が直接触れるようにする工夫が重要です。
また、次亜塩素酸水は高温や直射日光、時間経過によってどんどん濃度が低くなっていってしまいます。このため、余った次亜塩素酸水の保管は冷暗所で行い、約3ヶ月以内には使い切るようにしましょう。そして、単体で使うには安全なものですが、他の洗剤や薬品と混ぜると思わぬ化学反応を起こす可能性もありますので、他の洗剤などと混ぜずに使いましょう。
次亜塩素酸水は、人体への影響がなく、80ppm以下なら口腔内や食品衛生にも使えます。また、400ppmの原液はノロウイルスなどの強い感染性を持つウイルスの除菌などにも使え、強力な殺菌力を発揮します。
反面、時間経過で濃度が下がっていって殺菌力もなくなっていってしまうため、長期保存には向きません。余った場合は冷暗所で保管し、早めに使い切るようにしましょう。