家族性高コレステロール血症を放置してはいけない理由は?

2019/11/22

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

遺伝性の原因から、血中のLDLコレステロール値が異常に高い状態が続いてしまう疾患を「家族性高コレステロール血症」と言います。今回は、家族性高コレステロール血症が恐れられる理由と代表的な症状、検査の方法、そして治療について解説します。

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家族性高コレステロール血症が怖いのはなぜ?

血中を流れるコレステロールには、大きく以下の2種類が存在します。

  • 血中のコレステロールを回収し、分解を助けるHDL(善玉)コレステロール
  • 血管壁に沈着しやすく、動脈硬化を誘発するLDL(悪玉)コレステロール

家族性高コレステロール血症の人は、全体のコレステロール値が普通の人の2倍ほど、特にLDLコレステロール値の値が非常に高くなると言われています。

このため、必然的に家族性高コレステロール血症の人は、コレステロールが血管壁に沈着することで血管を狭め詰まらせる動脈硬化も発症しやすくなります。

そして動脈硬化の進行は、突然死の原因となる心筋梗塞を引き起こします。つまり、家族性高コレステロール血症の人はそうでない人に比べると動脈硬化が原因で起こる心筋梗塞で突然死する可能性が高い、と言えます。実際、家族性高コレステロール血症の人の死因の約60%は心筋梗塞であり、そうでない人に比べ10倍近く高い割合となっています。

このように、放っておくと高い確率で動脈硬化、さらに心筋梗塞による突然死起こすことから、家族性高コレステロール血症が危険な病気だと言われているのです。

家族性高コレステロール血症が疑われる症状の特徴は?

家族性高コレステロール血症が疑われるべき代表的な症状として、以下のようなものがあります。

  • 肘、膝、手の甲などの関節部、アキレス腱周辺に黄色いツブツブができる
  • 黄色腫(黄色い粒状のもの)がだんだん大きくなり、コブのように成長していく
  • 50歳未満で角膜輪と呼ばれる白い輪が黒目の周りに現れる
  • LDLコレステロールの値が異常に高くなる
    (目安は成人・未治療の場合で180mg/dl以上、小児は220mg/dl以上)
  • 既に心筋梗塞、狭心症など、冠動脈疾患を発症している

家族性コレステロール血症の検査方法は?

一般的に、家族性高コレステロール血症かどうかの検査は、以下の流れで行われます。

問診

まずは問診で、本人の祖父母・父母・兄弟・子の二親等以内に、以下の条件に当てはまる人がいないかを確認していきます。

  • 既に家族性高コレステロール血症と診断された人がいないか
  • 若くして心筋梗塞、狭心症など冠動脈疾患を発症した人がいないか
  • 自身が若くして、既に心筋梗塞、狭心症など冠動脈疾患を発症していないか

黄色腫の有無、コレステロール値の確認

次に、本人に家族性高コレステロール血症の典型的な症状が現れていないかを確認します。具体的には、黄色腫が現れていないか、採血をして血中のコレステロール値がどのくらいかを調べます。診断のための血中のコレステロール値の目安は、未治療の成人であればLDLコレステロール値が180mg/dlであることです。

なお家族性高コレステロール血症には、大きくヘテロ接合体とホモ接合体の2種類がありますが、それぞれの患者の平均的なコレステロール値の目安は以下の通りです。

家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体
平均で320~350㎎/dlのコレステロール上昇がみられる
家族性高コレステロール血症ホモ接合体
平均で600~1200㎎/dlのコレステロール上昇がみられる

遺伝子検査

問診と血液検査の結果、ヘテロ接合体の平均よりもコレステロール値が高くホモ接合体が疑われる場合は、遺伝子検査を行うケースもあります。

治療を受ければ長生きできる?

家族性高コレステロール血症の治療は、LDLコレステロール値を100mg/dl未満、または治療前の50%未満まで下げることを目標に行います。治療は、以下の4つを段階的に行うのが一般的です。

食事療法

まずは以下のポイントに留意しつつ、コレステロール値を下げ、動脈硬化が起こりにくくなるよう食事の内容や量を調整していきます。

  • 高血圧を誘発しないよう、塩分の少ない食生活を心がける
  • コレステロール、脂質の多い内臓類や魚卵、肉の脂身や乳製品を控える
  • コレステロール値を下げる作用のある野菜類、キノコ類を1日350gを目標に摂る
  • 医師の指示に従い、暴食や高血圧の原因となるアルコール摂取を控える
  • 食事は規則正しく、1日3回ゆっくり噛んで食べるよう習慣を改める

スタチンを使った薬物療法

食事療法とあわせて、LDL受容体を増やしてLDLコレステロールの分解を助ける作用のあるスタチンという薬で投薬治療も行います。治療には効果の緩やかなスタンダードスタチンと、効果の強いストロングスタチンを患者の状態に合わせ医師の判断で投与していくのが一般的です。

ただし、生まれつきLDL受容体に関する重大な遺伝子異常を持つホモ接合体の患者さんの場合は、十分な効き目が期待できません。

エゼチミブ、レジンを使った薬物療法

スタチンの投与で十分な効き目が得られないときは、より作用の強いエゼチミブ、レジンなどを使った投薬治療に切り替えていきます。

エゼチミブ
小腸からのコレステロール吸収を抑制し、血中コレステロール値を下げる薬。特に食事から摂取されたコレステロールの減少に効果的
レジン
体内でコレステロールをため込むのを抑え、肝臓でのLDL受容体の合成を助ける薬。特に体内で作られるコレステロールに働きかけ、血中のLDLコレステロール値を減らす

LDLアフェレシス

別名「LDL吸着療法」とも呼ばれるもので、家族性高コレステロール血症治療の最終段階です。具体的には、食事療法や投薬で十分な治療効果を得られなかった患者に対し、器械を使って血液を体外に取り出し、LDLコレステロールを除去します。

イメージとしては、腎疾患患者に行う人工透析のような治療方法です。治療にかかる時間は1回あたり2~3時間で、いったん開始すると、1~2週間に1回の頻度で一生涯続けなければなりません。

家族性高コレステロール血症は、放っておくと確実に進行して動脈硬化を引き起こし、40代など若い段階での突然死を引き起こす恐ろしい病気です。しかし早期に発見し、その人に合った適切な治療さえ受けることができれば、この病気でない人と同じくらい長生きすることができます。

おわりに:家族性高コレステロール血症を放置すると、高確率で動脈硬化に

遺伝的原因により血中のLDLコレステロール値が高くなってしまう家族性高コレステロール血症は、動脈硬化から冠動脈疾患を発症させる恐ろしい病気です。このため放置していると確実に進行し、早ければ30~40代には動脈硬化や、心筋梗塞による突然死を引き起こします。しかし一方で、体質や原因に合った適切な治療さえ受けていれば、病気でない人と変わらないくらい長生きすることもできます。疑いを感じたら、すぐ医師に相談しましょう。

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