高齢者が転倒しやすい場所は?どうすれば予防できる?

2019/11/10

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

高齢者は若い頃と比べて身体能力が低下しているため、転びやすいと言われています。そのため、街中でも階段に手すりをつけたり、横にスロープを設置したりして、転ばないようなバリアフリーの工夫をしているところが増えています。この記事では、このように高齢者が転びやすい原因とその場所、転倒防止の対策などをご紹介します。

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高齢者の転倒を引き起こす原因は?

高齢者が転倒する原因は、本人の身体的・精神的な要因による「内的要因」と、外部の環境による「外的要因」の2つに大きく分けられます。

内的要因

身体能力の低下(力が弱くなる、感覚が鈍くなる)
  • 筋力や骨の衰えにより、身体のバランスが悪くなる
  • 視力が低下したり、視野が狭くなったりして、段差や障害物に気づかない
精神・心理面の問題
  • 焦りや不安、緊張、興奮などで注意力不足になる
服薬状況
  • 複数や多数の薬を飲んでいる、内臓の機能が低下しているなどにより、副作用が出やすい状態である
  • 薬を飲み始めた後で体調の変化があっても口に出さない

高齢者の転倒は、骨折などの重傷につながりやすく、その後の寝たきり状態などを招きやすいため、通路に障害物はできるだけ置かない、階段に手すりをつけるなどバリアフリーの工夫がされることは多いです。ただ一方で、薬が転倒の原因になることはあまり知られていません。

薬は病気や怪我の治療のために使われるものですが、副作用のリスクもあります。そして、薬による治療の利益が副作用のリスクを上回るとき、副作用があったとしても処方されることがあります。ただ、副作用が出ても、本人が周囲の人に遠慮して体調の変化を伝えなかったり、本人の自覚がないこともあったりするため、新しい薬の飲み始めにはある程度周囲が注意して様子を見る必要があります。

外的要因

  • 脱げやすい、滑りやすい靴やサンダルを履いている
  • でこぼことした床や地面、段差、つるつるとして滑りやすい場所がある
  • 夜間など、足元が暗く障害物に気づかない
  • 床にある電気コードやカーペットの折れ端、滑りやすいマットなどの障害物がある

1年に1回以上の転倒経験を持つ人は、70歳以上で3〜4割いることが明らかになっています。以前はつまずいたりぶつかったりしなかったのに、そういった行動が増えてきと気づいたら、転倒のリスクを念頭に置きましょう。

転倒しやすい場所は?

高齢者の転倒は、一般的に屋外よりも室内の方が多いとされています。室内には階段や玄関などの段差はもちろん、引き戸のレール部分やカーペット、敷居などの小さな段差も意外と多いためです。高齢者は身体能力が低下していえるため、すり足などほとんど地面から足を浮かせない歩き方をすることが多く、その結果、ごく小さな段差でもつまずいてしまうのです。

室内で転倒しやすい場所は、明らかな段差がある階段や玄関ではなく、居間やリビングです。居間やリビングには電源コードやカーペットといった障害物や滑りやすい敷物が多いこと、リラックスして過ごす場所なので油断しやすいことなどがその要因ではないかと考えられています。「平らな場所だから安心」と思わず、立ち上がるときや歩くときは周囲に注意しましょう。

なお、明らかな段差がある階段や玄関、そして滑りやすい浴室では、転倒時に頭を打ったり、骨折したりといったような重い怪我につながることもあります。高齢者がいる家では、必ずこれらの場所に手すりをつけ、転倒予防の対策をしておくと安心です。

高齢者の転倒を防ぐためにできることは?

内的要因と外的要因のそれぞれから、転倒防止のポイントをご紹介します。

内的要因

内的要因としては、日頃から筋力とバランス感覚を鍛えておくのがおすすめです。ウォーキングや散歩、簡単な筋力トレーニングを習慣づけたり、ストレッチで関節や筋肉の柔軟性を高めたりしましょう。とはいえ、運動習慣がない人が突然無理な運動をすると、かえって関節痛や骨折につながることもあります。そのような場合、以下にご紹介するごく簡単なトレーニングや軽い散歩から始めましょう。

大腿四頭筋のトレーニング
  • 背もたれに寄りかからないよう椅子に腰かけ、両手で椅子の端を軽く持つ
  • 片脚を上げて伸ばし、つま先は天井に向ける
  • そのまま、膝上から太ももに力を入れ、5秒キープする
  • ゆっくりと脚を下ろし、反対側の脚も同様に行う
ふくらはぎの筋力強化トレーニング
  • 椅子の背・テーブル・壁などに片方の手を添え、身体を安定させる
  • 足を肩幅くらいに開き、両方のかかとをしっかり上げ、またゆっくりとかかとを下ろす
  • 顔を前に向けたまま、お腹やお尻などの体幹部分に力が入るのを意識して行う

最初は5回程度から、無理せず痛みを感じないよう行いましょう。

外的要因

外的要因に対処するには、そもそも転倒しにくい環境を整えることが大切です。滑りやすい廊下や浴室、階段には手すりをつけ、床の段差をできるだけなくす介護リフォームを行いましょう。介護リフォームは、介護保険を利用すれば補助金の対象となりますので、リフォームの前に自治体の窓口で相談してみてください。また、安定した歩行や動作ができるよう、介護用品を活用するのもおすすめです。

そのほか、靴下や靴のつま先が自然と反り上がるような構造のものを選ぶと、筋力が低下してすり足になりやすい人でもつまずきにくくなります。また、靴底や足裏に滑り止めがついているタイプもおすすめです。つるつるとしたフローリングの床や階段などをリフォームするのは大変ですが、滑り止めのある靴下を履いてもらえば、コストを抑えて転倒防止対策ができます。

玄関で転倒する可能性を減らすために、脱いだり履いたりしやすい靴を選ぶのも大切です。革靴や紐のスニーカーでなく、マジックテープやファスナーのついた靴を用意してあげましょう。

おわりに:高齢者は屋外よりも室内で転倒しやすい。トレーニングと環境調整を

高齢者の転倒に限定すると、実は庭などの屋外よりも、室内の方が危険なのです。室内にはさまざまな障害物や階段、小さな段差が多くあるからです。日頃から散歩や簡単な筋力トレーニング、ストレッチなどを行うとともに、階段や浴室に手すりをつけるなどの介護リフォームや、滑り止め靴下を履くなどの対策を行いましょう。

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