消化管出血ってどんな病気?

2019/12/10

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

排便の際につよくいきんだり、便が非常に硬かったりして、肛門が傷ついて出血する「痔」を経験する人は少なくありません。痔を含め、小腸や大腸、あるいはその上の十二指腸や胃、食道のいずれかから出血が起こることを消化管出血と言います。

痔なら肛門のみを治療すればよく、重大な疾患ではありませんが、他の部位からの出血の場合、重大な疾患が潜んでいるかもしれません。今回は、消化管出血について詳しく見ていきましょう。

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消化管出血とは

消化管とは、文字通り食べ物を消化するための器官のうち、実際に食べ物が通過していく部分のことで、主に食道・胃・十二指腸・小腸・大腸のことを指します。この器官のいずれかから出血することを消化管出血と呼び、消化管出血が起こると血を吐いたり、便に血が混じったりします。原因によって出血する部位や出血量、出血の続く期間はさまざまです。

胃や十二指腸から出血する場合、原因は胃や十二指腸の潰瘍が多いですが、慢性肝臓病を患っている人では食道や胃の静脈瘤が破裂して出血することがあります。胃や十二指腸の潰瘍を引き起こす原因にはヘリコバクター・ピロリ菌や、他の疾患の治療で使っているアスピリンなどの消炎鎮痛剤、血液をサラサラにして固まりにくくする抗血栓薬などが考えられます。また、潰瘍のほか、がんをはじめとする腫瘍が原因となることもあります。

小腸から出血することはまれですが、潰瘍・腫瘍のほか、血管異形成と呼ばれる粘膜血管のわずかな異常がよくみられる原因です。また、胃や十二指腸の場合と同様、消炎鎮痛剤や抗血栓薬などが原因で小腸に潰瘍ができ、出血が起こるケースが増えています。

大腸からの出血は消化管出血の中でも最も多く見られ、大腸憩室という、加齢によって形成される大腸壁の異常から短期間でまとまった量の出血が起こるケースが最も多いです。もっと重大な原因としては、ポリープやがんなどの腫瘍からの出血があります。腸炎によって出血が起こる場合は強い腹痛を伴います。

また、痔による肛門出血の場合、正常な便とともに出血したばかりの赤い鮮血が大量に排出されるという特徴的な症状があります。胃や十二指腸・小腸からの出血の場合、その後の消化管を通ってくる過程で酸化されるため、便として排出される頃には茶褐色や黒っぽい色になっているのです。

消化管出血でみられる症状は?

食道・胃・十二指腸を「上部消化管」と呼ぶことがありますが、これらの部位から出血した場合、血液は食道を逆流して口から吐き出されることがよくあります。出血後、血液が胃に長時間留まっていると胃酸に酸化されて黒く変わっていき、血液が留まっている時間が短時間で、かつ大量な出血であるほど胃酸に酸化されにくいため、鮮やかな赤色に近くなります。

胃や十二指腸からの出血でも、量が比較的少ない場合は吐血になることは少なく、代わりに便に血が混じることが多くなります。このときの血はやはり酸化されて黒くなりますので、便も黒っぽくなります。

小腸や大腸からの出血は口に逆流することはなく、便に血が混じります。色は出血の部位と量によって変わりますが、酸化の影響を受けるほど黒っぽくなりますので、量が少なく短期間なら黒っぽく、少なくても持続的なら黒っぽい赤色、量が多いほど鮮やかな赤色に近い、と変化します。

また、排泄までに時間がかかる小腸からの出血の場合は酸化の影響を強く受けるため黒っぽく、排泄までの時間が短い大腸からの出血の場合はより鮮やかな赤色に近くなります。さらに、痔の場合は便と混じるのではなく血液と便が別々に排出されるように、肛門にごく近い部位からの出血の場合は、便と血液が別々に排出されます。

消化管出血を治療するには?

消化管からの出血は、大量になると血圧が下がってショック症状を引き起こすなど生命に関わる状態に進行することもありますので、発見され次第治療が必要です。止血が必要なのは食道・胃静脈瘤、難治性逆流性食道炎、胃・十二指腸潰瘍、大腸潰瘍、大腸憩室出血などの疾患が挙げられ、それぞれのケースに合った以下のような止血処置(手術)を行います。

止血手術後は基本的に入院が必要で、翌日・数日後になっても止血された状態が続いているか内視鏡検査で確認します。出血量が多い場合や、貧血が進行している場合には、輸血などの処置が必要になることもあります。

止血鉗子

出血している血管などの部位を鉗子ではさみ、高周波で熱を加え、血管を焼灼止血(焼いて止血)します。潰瘍の表面などにある、外側に露出している血管などに対して使える処置です。

クリップ出血

消化管の止血や小さな孔の縫合のために開発された特殊なクリップを使い、出血している部分を挟んで止血します。勢いよく出血している場合や、出血の原因となっている血管が明らかな場合に有効な処置です。

APC焼灼

主に潰瘍や逆流性食道炎などにより、じわじわと止まらない出血が続いている場合に行われます。アルゴンガスというガスを利用して広い範囲に浅く熱を加え、表面だけを焼いて止血する方法です。

EVL・EIS(内視鏡的静脈瘤結紮術・内視鏡的静脈瘤硬化療法)

内視鏡的という名前のとおり、内視鏡(胃カメラ)を使って主に食道や胃の静脈瘤に対し、緊急時や予防的に止血を行う方法です。既に出血している場合は、緊急治療として行います。EVLでは静脈瘤自体を小さな輪ゴムで止め、EISでは静脈瘤の血管内または静脈瘤の周囲に硬化剤を注入して、止血を行います。

消化管出血を予防するには?

最初にご紹介したように、消化管出血の原因は以下のようなことが主です。

胃・十二指腸
ヘリコバクター・ピロリ菌、消炎鎮痛剤、抗血栓薬
大腸
大腸憩室からの出血

胃や十二指腸潰瘍を引き起こす大きな原因であるヘリコバクター・ピロリ菌は、井戸水などかつての生活用水から感染することが多かったため、高齢者ではほとんどが感染しています。逆に、井戸水をそのまま飲むことが少なかった比較的若い世代では、感染している人は少ないと考えられます。

ピロリ菌に感染しているだけでは自覚症状がないため、自分が感染しているかどうかを人間ドックや胃カメラ検診などで一度調べておくと良いでしょう。必要に応じてピロリ菌の除菌治療を勧められますので、医師と相談の上、感染していた場合はできるだけ除菌治療を受けておきましょう。

また、他の疾患の治療のために消炎鎮痛剤や抗血栓薬を服用している人も、出血しやすくなることがわかっています。とくに、複数の内科的疾患を治療している場合、似たような作用の薬剤を二重に内服したり、相互作用で薬剤の効果が強まったりしてしまい、出血に至ることもあります。ですから、診察を受ける医師には必ず服用中のすべての薬剤を伝え、定期的に内科薬の調節をしてもらうと良いでしょう。覚えきれない人は、お薬手帳を常に持っていれば安心です。

大腸憩室からの出血は、便通の習慣が影響することもあるとされていますので、食物繊維や水分を十分に摂取し、腸がきちんと運動して便通がよくなるよう日頃から心がけておきましょう。その他の出血原因として、胃がんや大腸がんの場合、ピンポイントで予防することは困難ですが、便潜血検査などの検診を有効活用し、早期発見・早期治療を目指しましょう。

おわりに:消化管出血は潰瘍・腫瘍や薬剤の影響などがよく見られる

消化管出血とは、食道から大腸までの食物が通過していく器官から出血することです。中でも大腸からの出血が多く、加齢でできる大腸壁の異常から出血するケースが最も多いとされています。他には潰瘍・腫瘍や、胃・十二指腸潰瘍を引き起こす薬剤の影響なども原因として多いものです。

これらを予防するためには、便通の習慣を良くすること、ヘリコバクター・ピロリ菌の除去、原因となる内服薬の調整などが重要です。

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