記事監修医師
前田 裕斗 先生
2017/4/18 記事改定日: 2018/4/20
記事改定回数:1回
記事監修医師
前田 裕斗 先生
記事監修医師
東大医学部卒、セレオ八王子メディカルクリニック
二宮 英樹 先生
厚生労働省研究班は医療機関に対し、無痛(和痛)分娩の際の急変時に対応できる十分な体制を整えた上で実施するよう求める緊急提言を発表しました。
日本でもここ数年、無痛(和痛)分娩で出産する女性が増加しつつあります。耐えがたい陣痛の激しい痛みをそれほど感じることなく出産できる、というのが選ばれる理由と考えられるでしょう。
ここでは、厚生労働省発表についての簡単な解説及び、無痛(和痛)分娩で用いられる硬膜外麻酔の概要や効果、副作用などについてご紹介します。
2017年4月16日、厚生労働省研究班より、2010年1月から16年4月までに報告された298人の妊産婦死亡例のうち無痛分娩を行っていた死亡例が13人と発表がありました。しかし、これは必ずしも無痛分娩が直接関係したものではなく、このうち12人は大量出血や羊水が血液中に入ることで起こる羊水塞栓症が原因でした。
無痛分娩では陣痛促進剤の使用や吸引・鉗子分娩の使用が増えますが、これらが出血や羊水塞栓症のリスクになる可能性があるため、厚生労働省研究班は「無痛分娩を行う際には緊急時の対応ができるよう十分な体制を整えること」という声明を出したのです。
無痛分娩が直接死亡につながる事故を多く引き起こしたわけではありませんので、無痛分娩を予定している妊婦さん達は、どうか心配しすぎないでください。
麻酔薬が投与されると、発熱や頭痛、血圧の低下を感じる場合があります。このような場合、赤ちゃんに充分な量の血液が送られるように静脈内輸液で対処します。ただ、ごくまれに麻痺が胸部や首まで広がったり、呼吸困難になったりする場合もあります。このような場合、麻痺がとれるまで酸素マスクや呼吸のために管を通じて酸素が供給されます。
また、硬膜外麻酔は分娩第2期(子宮口が全開して、胎児が娩出されるまでの期間)の所要時間を延ばすことがわかっています。その効果は人によりますが平均1時間程度といわれています。
うまくいきめないことや陣痛が弱くなることなどが理由で陣痛促進剤の使用や吸引分娩・鉗子分娩が増える可能性も指摘されています。医者から処置を行うことを告げられた際には、しっかりと説明を受けてから希望するようにしましょう。
無痛分娩で生まれた子は自閉症になりやすいという噂がありますが、あくまで噂であり、科学的に証明されたものではありません。
そもそも自閉症とは、脳の先天的な異常によって引き起こされるものであり、お母さんのお腹にいるときからすでに決まっています。ですから、出産の方法によって発症のリスクが異なるということはあり得ないのです。
このような噂は、アメリカで自閉症発症者の分娩方法を調査したところ、自然分娩よりも無痛分娩の方が発症率が高いというデータが発表されたためです。しかし、アメリカでは無痛分娩が主流であり、80%以上の妊婦さんが無痛分娩を選びます。ですから、無痛分娩の方が発症率が高いというデータが出るのはその母数が異なるためです。
必ず無痛分娩を選んだほうがよい人は特にいません。単に痛いのが嫌だから無痛分娩を選ぶ女性もいれば、出産後、赤ちゃんのためにできるだけ体力を温存したいからという理由で選ぶ女性もいます。一方で、出産で薬を使いたくないという理由で無痛分娩を選ばない女性もいます。
メリット、デメリットをよく検討し、十分に相談した上で、どの出産方法を選ぶかを決めましょう。そして、自分で決めたことに自信を持ち、お産を楽しんでください。
無痛分娩は腰に針を刺して、硬膜外に管を入れて調節しながら麻酔を注入します。背骨の間に針を通すため、針の穿刺には高度な技術が必要です。
高度な肥満や低身長の人、過去に背骨の手術や骨折をしたことがある人、脳や脊髄に病気がある人などは、針が正確な場所に刺せないことがあり、避けた方よい場合もあります。また、麻酔液に対してアレルギーを持つ人は、重篤なアナフィラキシーを起こすことがありますので絶対的な禁忌となります。
さらに、血液の凝固能に異常があって出血しやすい人も無痛分娩をすることはできません。血をサラサラにする薬を飲んでいる人や血小板の数が少ない人は注意が必要です。
帝王切開を除く出産は保険適応にならず、自費負担となります。無痛分娩は、自然分娩に麻酔を加えたものですから、当然保険適応にはならず全額自己負担となります。
多くの病院では、無痛分娩は自然分娩の料金に麻酔管理料などが加算されますが、その金額は病院によって異なります。5~20万円の加算が一般的ですが、金額は出産を予定している病院に問い合わせましょう。
また、無痛分娩は分娩が長引いたり、うまくお産が進行しないと帝王切開に切り替えられることもあります。このような場合には入院期間が長くなり、別の薬や治療も必要になるため、出産費用は通常の無痛分娩より高くなることがあります。
無痛分娩で行われる一般的な方法として、硬膜外麻酔があります。この硬膜外麻酔とは、背骨の間から針を進め、硬膜外腔というスペース(背骨を包む靭帯と脊髄を包む硬膜の間)に直接麻酔薬を注射して鎮痛を行う麻酔法です。通常、注射してから10分から20分ほどで腰から下の部分の鎮痛が得られます。硬膜外麻酔は、無痛分娩を行うのに最も安全な方法とされています。
なお、無痛分娩も和痛分娩も同じ意味であり、呼称が日本ではまだ統一されていないために双方の呼び方は混在しています。
(このため、本稿ではすべて無痛分娩で呼称を統一しています。)
子宮口がまだそれほど広がっていなくても、準備が出来しだい、硬膜外麻酔を注射することができます。麻酔は、子宮収縮が収まっている間に注射します。
注射している間は横になって安静にしている必要があるため、陣痛が進行すればするほど注射しづらくなります。このため、陣痛が始まったばかりの段階で注射したほうが良いと考えられています。
少し前までは、硬膜外麻酔を早期に注射してしまうと陣痛が遅くなったり、帝王切開のリスクが高くなると考えられていました。しかし、最近の研究では子宮口が全開するまでの時間は硬膜外の有無による影響はなく、全開してから産まれるまでの期間のみが硬膜外麻酔を用いた群で長くなるという結果が出ており、硬膜外麻酔を開始する時期は分娩時間に影響しないとされています。また、帝王切開についても硬膜外麻酔はリスクを上げないという結果が出ています。
硬膜外麻酔で無痛分娩を受けると決めたら、まず最初に血圧の低下を予防するために、静脈内輸液が投与されます。
次に、麻酔の針を刺す前に、腰の低~中あたりを消毒液で滅菌した後、局所麻酔を注射します。麻酔がきいてきたら、より太い針が硬膜外腔に挿入されます。この間、看護師かパートナーの助けを借りて横になるように指示されると思います。このとき、何も感じない人がいる一方で、圧迫感やちくちくとした感覚、瞬間的な痛みを感じる人もいます。
針が無事挿入されると、麻酔医がカテーテル(薬が通る管)を挿入します。やがて針が出されてカテーテルが固定されます。段々麻酔が効きはじめると痛みも少なく、楽になってきます。
陣痛の痛みに鈍感にはなっているものの、子宮収縮は周期的に起きるため少しずつ子宮口が開いていきます。赤ちゃんの頭が十分出口の近くまで降りてきた後は、助産師に導かれながらしっかりいきむことができます。陣痛が進行しない場合は、子宮収縮を強く感じられるように麻酔の量が調節されるかもしれません。
脊髄くも膜下麻酔が併用されることもあります。これは硬膜外のさらに奥、くも膜下腔に薬剤を注入する方法です。硬膜外麻酔よりも効果発現までの時間が短いため分娩進行が早い方に適しています。
硬膜外のみの場合でも、脊髄くも膜下麻酔を併用した場合でも分娩の結果や安全性については変わりありません。どちらの方法を採用しているか、分娩を予定している施設に予め聞いておきましょう。
無痛分娩は、麻酔によって痛みを軽減して出産をスムーズにする方法です。最近は日本でも多く行われている出産法ですが、リスクがあることも事実です。どのような出産方法を選ぶかやリスクなど、事前に医師やパートナーと相談しながら方針を決めましょう。