記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/12/19
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
一般的にうつと言えば気分がひどく落ち込み、生活にも支障が出るような状態を指します。中でも、高齢者がうつを発症すると、認知症の初期症状と似ていたり、認知症の症状の1つに抑うつ状態があったりするため、見分けがつきづらいのが厄介です。そこで、この記事では高齢者に起こりやすいうつの原因や症状についてまとめました。
高齢者のうつと若年者のうつに医学的な違いがあるわけではありませんが、65歳以上の高齢者がうつ病を発症すると「老人性うつ」と呼ばれることがあります。高齢になると、自分を取り巻く環境の変化に加え、加齢に伴って身体能力が衰えたり、疾患を発症しやすくなったりするため、うつ病を発症しやすいと考えられています。
老人性うつも若年者のうつと同じように「1日中ぼーっとしている」「なんとなく元気がない」といった症状がみられますが、これらは認知症の初期症状でもみられるため、うつ病に気づかれにくいという問題があります。
老人性うつも若年者のうつと同様、早期に適切な治療を行えば寛解できる疾患です。ただ、認知症と見分けがつきにくいため、周囲も本人も気づかないうちにどんどん悪化してしまうケースが多くみられます。
老人性うつの原因として、環境的要因と心理的要因が考えられます。
よく、子どもがみんな家を出て独立してしまった後にすっかり気力をなくしてしまう「空の巣症候群」などと言われる心理状態がありますが、その状態が長く続くとうつ病に進行することも考えられます。同じように、ずっと仕事だけに全力で打ち込んできた人が、定年退職した後に趣味がなく、生きがいを感じられずに抑うつ状態になることもあります。
このような環境要因に加え、疾患にかかりやすくなったり、発症した疾患が治りにくくなったりすることが憂鬱や不安を引き起こし、うつ病へ進行していくケースもあります。夫婦としての性的なコミュニケーションがなくなったり、友人や親戚から嫌味を言われたりすることが抑うつ状態を引き起こしやすいのは、比較的想像しやすいのではないでしょうか。
他にも、疾患そのものがうつ病を併発しやすいケースがあります。高齢者にとくに罹患者の多いがん・脳卒中・認知症・パーキンソン病・糖尿病などの疾患がそれにあたり、高齢者がこうした疾患を発症した場合、うつ病と原疾患の双方を併せて治療していかなくてはなりません。
老人性うつ病の特徴は、多くの症例で「生きがいや興味がなくなる」「日々や将来への漠然とした不安感」などが主症状となっていることです。うつ病はかつて心の病とされていましたが、現在は脳疾患であることがわかっています。
その根拠のひとつとして、うつ病には上記のような精神的な症状のほかに、身体面での症状がみられることが挙げられます。具体的には「吐き気・めまい・食欲不振・肩こり・頭痛・耳鳴り・しびれ」などの体調不良を訴えることが多く、極度の疲労感や不眠・過眠、過食などが現れることもあります。しかし、内科や外科では一通りの検査を受けても異常が発見されず、原因不明となってしまうことも少なくありません。
こうした症状が出る理由は、うつ病を発症した人の脳内で神経伝達物質「セロトニン」や「ノルアドレナリン」の量が減り、情報伝達がスムーズに行われなくなってしまったことだとされています。セロトニンは安心感や愛情などをもたらすホルモンで、ノルアドレナリンはやる気に関係するホルモンであることがわかっています。
つまり、これらのホルモンの量が減るため、不安や焦燥感が強くなったり、落ち着きがなくなったり、趣味や好きだったことに関心を示さなくなったりしてしまうのです。それまで仕事やレジャーでよく外出していた人が急に出不精になるなど、行動面で大きな変化が出ることもあります。
また、高齢者に限ったことではありませんが、うつ病の症状は朝から午前中にかけて強く生じ、午後から夕方にかけて改善していく場合が多く見られます。ですから、上記のような症状に加え、お昼過ぎごろから元気になってくるようなら、一度医療機関を受診してみると良いでしょう。抑うつ状態のまま放置してしまうと、病状はどんどん悪化してしまい、最悪の場合自ら生命を絶ってしまうケースもありえます。早めに医師の診断と適切な治療を受けましょう。
うつ病は予測が極めて困難な疾患ですが、予防のためにできることはいくつかあります。まず、具体的に、そしてすぐにできる対策として、以下のようなことを生活に取り入れましょう。
特に、栄養バランスの良い食事は、高齢で買い物に行くのも食事を作るのも大変になってくると、なかなか実現が難しいです。しかし、脳の働きを活性化するためには、エネルギーとなる炭水化物だけでなく、肉・魚・野菜・豆・海藻など、さまざまな栄養素を摂取する必要があります。そこで、一人暮らしの高齢者向けの宅配サービスなどを利用するのもおすすめです。
また、新しいことにチャレンジしたり、積極的に人と関わって会話をしたりするなど、前向きに人生を楽しむことが最も重要です。定年退職後になんとなくぼーっとしてしまうなら、何か新しい趣味を始めたり、仕事や習い事に通ったりするのも良いでしょう。本人が自発的に思いつかないような場合は、周囲の人が声かけしてあげると本人も動きやすいと考えられます。
高齢者のうつも、若年者のうつと同じように、環境調整・薬物療法・精神療法の3つの面からアプローチして治療を行います。
このように、症状や本人の性格によってさまざまなアプローチ方法があります。しかし、もし症状が進行していて自殺のおそれがあったり、家族が介護に疲れきってしまって対処しきれなかったり、という場合は、薬物療法や精神療法だけにこだわらず、医師の判断に基づいて入院も検討していくと良いでしょう。
65歳以上の高齢者がうつを発症すると、一日中ぼーっとしていたり、意欲がなくなったりといった症状が認知症の初期症状と似ているため、誤解されやすいのが厄介なところです。しかし、若年者のうつと同様、早期発見して適切な治療を行えば、寛解することもできます。
原因としては、環境や身体能力の大きな変化が挙げられます。普段からバランスの良い食生活や適度な運動、趣味を持つなどしてうつ病の発症を予防しましょう。