記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/12/23
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
年を重ねていくと、だんだんと体の不調が起こってくるのは仕方がないことです。とくに目立った疾患などがなくても、各種臓器の衰えから不調を感じることもあります。
そうした体の不調の1つに、めまいがあります。めまいは若い世代でも起こりますが、高齢者がめまいを起こすと転倒からケガや骨折につながることもあって危険です。そこで、めまいの原因や予防法について知っておきましょう。
めまいとは、自分がぐるぐると回っているような感じがする(回転性)、体がふわふわと浮いているような感じがする(浮遊感)などが起こるもので、吐き気を感じることもあります。私たちは、通常、空間において自分の体がどんな状態になっているのか(立っているのか座っているのかなど)を目や耳などの感覚器からの情報で認識していますが、この情報が正確に入ってこなかったり、脳でうまく処理できなかったりすると、めまいが起こるのです。
そのため、高齢者ではめまいが起こりやすくなります。その主な理由は、以下の3点です。
このようにさまざまな原因が考えられますが、高齢者のめまいでは、原因が簡単にわからないものがほとんどです。例えば、若い人ではめまいとともに難聴や耳鳴りが生じれば、耳に原因があるとわかるのですが、高齢者ではもともと耳鳴りがあったり、以前から難聴だったりして、めまいとともに起こったものなのか、もともとの症状なのかがはっきりしないのです。
症状がはっきりしないことに加え、めまいの感じ方も典型的とは限りません。一般的には回転性のめまいを感じるような疾患が原因となっていても、それを揺れるようなめまいとして感じることもあります。こうした要因が重なり合い、高齢者のめまいの原因を正確に診断するのはとても難しくなっています。
しかし、高齢者のめまいになりやすい原因はいくつかわかっています。とくに多いのが「起立性低血圧」によるもので、次に「椎骨脳底動脈循環不全」「脳卒中」「暑さによる脱水」などが続きます。
起立性低血圧とは、座った状態から立ち上がったとき、最高血圧が20mmHg以上低下するものです。若い人や思春期の子どもにも起こりやすいめまいですが、若い人では急激に血圧が下がると顔が青ざめ、冷や汗をかいて倒れてしまうなど反応が強く現れるのに対し、高齢者では反応自体は弱く現れます。しかし、血圧が少し下がっただけでもめまいを起こすため、頻度としては高くなります。
めまいを感じるのは大脳皮質の頭頂葉、第2野と呼ばれる部位の周囲です。この第2野は「前大脳動脈」と「中大脳動脈」の境にあり、心臓から最も遠い部分ですから、血圧が下がって脳に血流が少なくなると、真っ先に障害されてしまい、めまいが起こります。とくに高齢者では血圧を調節する機能が衰えているため、急に立ち上がるとすぐに血圧が下がり、めまいを起こしやすくなるというわけです。
このような起立性低血圧が起こるのは、以下の4つが主な原因と考えられています。
本来、座った状態から立ち上がると、神経の末端から「ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)」という神経伝達物質が放出され、脚の血管を収縮させます。これによって脚に血液が溜まるのを防ぎ、上半身へも血液を流しているのです。しかし、高齢者ではこの反応が衰えてきますので、立ち上がったときに脚に血液が流れたまま戻りにくく、したがって脳の血流が少なくなってしまい、起立性低血圧を引き起こしやすくなっています。
ですから、対策としては急に立ち上がらず、ストレッチなどをしながらゆっくりと立ち上がること、立っていてめまいを起こしそうになったら足踏みをすること、弾性ストッキングを着用することなどが有効です。他の原因も、いずれも脚の血管がうまく収縮しなくなることで起立性低血圧を引き起こします。
その他のめまいの原因は、以下のようになっています。
脱水は、とくに高齢者にありがちな症状です。喉が渇いたと気づきにくくなるのが原因ですが、そもそも喉が渇く時点で体からは水分が足りなくなっています。そのため、喉が渇いたかどうかを目安にするのではなく、1時間おきや2時間おきにこまめに水分を補給しましょう。
就寝前は夜間にトイレに行きたくないなどの理由で水分を摂らない人も多いのですが、寝ている間は長時間水分補給が行われないことから、どうしても脱水を引き起こしやすいので、ぜひコップ1杯の水を飲んでから寝るよう習慣づけましょう。
まずはめまいのタイプ(回転性か浮遊感か)、発症の日時、継続しているのか繰り返しなのか、特定の姿勢で出るものか、他に耳鳴り・難聴・しゃべりにくい・手足の麻痺などの症状はないか、などを問診します。そのため、めまいが起こったら日時とタイプ、その時の症状を記録しておきましょう。さらに確定診断のため、CTやMRIなどの画像診断、聴力検査や血液検査などを行うこともあります。
めまいの原因が診断できたら、主に投薬治療やリハビリテーションなどを行います。めまいそのものを抑える薬では、耳の血流を良くしたり、耳のむくみを取り除いたり、神経の炎症を抑えたりします。その他に脳や耳などに原因となる疾患があれば、それらの疾患の治療を並行して行っていきます。リハビリテーションではバランス感覚を鍛えるなど、平衡感覚を整えます。ごくまれではありますが、手術によって治療することもあります。
高齢者のめまいとして多く見られる起立性低血圧は、起き上がるときや立ち上がるときに急な動きをするために起こりやすいです。ですから、起き上がるときや立ち上がるときには急がず、ゆっくりとした動きを心がけましょう。
内耳や脳の循環障害によるめまいは、血中のコレステロール値が高くなったり、高血圧になったり、不整脈になったりといった循環器系の症状から起こることがありますので、心血管系の疾患の予防と同様、普段から食生活や生活習慣に注意するとともに、定期的に検診を受け、値が高い場合は医師の指導を受けると良いでしょう。
また、メニエール病など内耳性のめまいの場合、自律神経が不安定になることも大きく関係しているとされています。自律神経の安定のためには、夜ふかしや暴飲暴食などの悪習慣を避け、規則正しい生活を送ることが大切です。自律神経は精神的なストレスでも不安定になるため、ストレスを溜めないことや、上手に発散できる方法を探しておきましょう。
ふらつきや転倒は、足腰の筋肉が弱ることが原因かもしれません。そこで、日常的によく歩いたり家事をしたりして、足腰を鍛えておきましょう。適度な運動は内耳や脳の刺激にもつながり、老化を予防するのにも役立ちます。
さらには、風邪がめまいに関係することもあります。とくに高齢者では免疫機能が低下していることから風邪をひきやすいので、マスクやうがい・手洗いをしっかりするよう心がけましょう。めまいの後は体を休めた方がいい場合と、体を動かした方がいい場合がありますので、病院にかかったときに確認しておくと安心です。
高齢者のめまいとして最も多いものは、起立性低血圧と言われています。急に起き上がる動作や立ち上がる動作をすると、下部の脚に血液が溜まってしまい、脳に血液が流れにくくなってしまうことで起こるものです。
他にもさまざまな原因がありますが、ゆっくり立ち上がること、生活習慣を見直すこと、足腰を鍛えておくことなどで予防できます。健康のためにも、ぜひこうした習慣を取り入れていきましょう。