高齢者がストレッチに取り組むと、どんなイイコトがある?

2019/12/29

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

ストレッチとは、身体の筋肉を引っ張って伸ばす体操のことを言います。以前は柔軟体操とも呼ばれていて、激しい運動をする前や後には筋肉を痛めないようストレッチをすることが推奨されています。

このように運動の前に行うことが多いストレッチですが、高齢者にとってはストレッチだけでも十分に適度な運動になるとされています。そこで、ストレッチが高齢者に良い理由や、おすすめのストレッチを見ていきましょう。

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ストレッチが高齢者に有効なのはどうして?

年を重ねていくごとに、筋肉は縮んで凝り固まり、弾力性がなくなっていってしまいます。これを「筋肉の老化」と呼んでいて、固くなった筋肉は動かしづらいだけでなく、血流も流れにくくなり、疲労・肩こり・腰痛などが起こりやすくなります。こうした症状を防ぐためにも、改善するためにも、ストレッチは効果的です。

ストレッチを行うと、筋肉が柔軟性を取り戻せるので、老化がそれほど進んでいない筋肉なら老化の予防になりますし、既に老化が進んでいる筋肉では血流を良くしたり、肩こりや腰痛を改善したりする効果が期待できます。また、普段使っていない筋肉を動かすことで、脳のその部位が活性化し、神経機能も正常化します。さらに、適度な運動にもなりますので、食欲の増進や体力の維持にもつながると考えられます。

ストレッチを行うと、筋肉の中でも動かしづらい部分と動かしにくい部分があることに気づけます。これによって自分はどの部分の筋肉が動かしづらいか、つまり身体が動きづらいかを知り、生活の中で段差を越えたり、階段を下りたりというときに気をつけられますので、転倒やケガの防止にも役立ちます。そもそも筋肉の柔軟性を上げておくことも、とっさの動きができるようになりますので、転倒やケガを防ぐのに良い効果をもたらすでしょう。

転倒によってケガや骨折をすると、そのまま寝たきりの生活になってしまう高齢者も少なくありません。そこで、ストレッチによって筋肉の柔軟性を高め、ケガをしにくい身体づくりを積極的に行い、健康寿命を伸ばしましょう。

腰痛や膝痛にも効くって本当?

高齢者の腰や膝の痛みは、加齢によって周辺の組織が老化したり、筋肉が老化したりすることが原因で起こっているものが多いことから、ストレッチで筋肉の柔軟性を高め、鍛えることで腰痛や膝痛が改善することもあります。しかし、腰痛や膝痛の種類によってはストレッチで症状が悪化してしまうこともありますので、腰痛や膝痛がある人は、医師と相談して痛みを悪化させないストレッチを行いましょう。

膝や腰は動くときに必ず使う部位ですから、ここを痛めていると、つい家事や外出がおっくうになってしまいがちです。逆に、腰痛や膝痛が改善されれば快適に動けるようになりますので、散歩やちょっとした買い物などの外出がしやすくなります。

また、ストレッチにはリラックス効果もあり、適度な運動によってほどよい疲れを生じ、さらに自律神経が整うことで睡眠のリズムも整うため、ストレッチを継続していけば毎日をより健康にいきいきと過ごせることでしょう。ウォーキングやランニングが辛いという人でも、ゆっくりとした動きのストレッチなら続けやすいのもメリットです。

高齢者におすすめのストレッチは?

では、高齢者におすすめのストレッチを3つご紹介します。どれもテレビを見ながら、会話をしながら簡単にできるものばかりですので、少しずつチャレンジしてみましょう。

膝を伸ばすストレッチ

高齢者の転倒で多いのが、ついよろけてしまった拍子に転倒し、腰や背中を打ちつけて腰椎を圧迫骨折してしまうというケースです。よろけないためには、膝を伸ばす筋肉をしっかり鍛えましょう。

やり方は簡単で、椅子に腰掛けてそのまま膝を伸ばし、伸ばしきったところで10秒止めるだけです。かかとを持ち上げたり、つま先を無理に手前に引き寄せたりする必要はありません。

大腿部の筋肉を鍛えるストレッチ

大腿骨頸部骨折も、転倒によって起こりやすい骨折の1つです。大腿骨頸部とは太ももの付け根部分のことで、骨盤と股関節でつながっています。ここを骨折してしまうと、関節内での骨折となるため、非常に治りが悪いという問題があります。

この骨折を予防するためには、太ももの筋肉を鍛えるストレッチを行うのが有効です。椅子に腰掛けて、左右の足を片方ずつ外に開きます。交互に開き、片側につき10回行いましょう。

つま先を持ち上げるストレッチ

転倒によって起こりやすい骨折は足や太ももだけでなく、転んだ拍子に手をついてしまい、手首を骨折するパターンもまた多いのです。この骨折は「撓骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)」と呼ばれるもので、予防するにはやはり転倒を防ぐしかありません。

そもそもなぜ高齢者が転倒しやすくなるのかというと、「足関節背屈筋(そくかんせつはいくつきん)」という筋肉の衰えによって、つま先がうまく持ち上がらなくなるからです。この筋肉は身体のさまざまな筋肉の中でもとくに早く衰えやすいため、高齢になるにつれ、つま先を持ち上げにくくなります。

高齢者が「すり足」と呼ばれるような足をあまり上げない特徴的な歩行になりやすいのもこのためで、引きずるようにしたつま先がごく小さな障害物に当たって転倒したり、何もないところで床につま先をひっかけて転んでしまったりするのです。

そこで、足関節背屈筋を鍛えるための訓練を行いましょう。椅子に腰掛けた状態から両足のつま先を持ち上げて、そのまま10秒止めます。かかとは床につけたままで構いませんので、この動きを何回か繰り返しましょう。

ストレッチに取り組むにあたっての注意点は?

高齢者がストレッチに取り組むときは、以下のようなことに気をつけましょう。

  • 頑張りすぎて心臓に負担がかからないよう気をつける
  • 転倒してケガをしないよう、何かにつかまるなどしながら行う
  • 立って行うストレッチでは、めまい・立ちくらみにも注意する

もし、一人で行うのが不安な場合は、介助者や看護師などに見守ってもらいながら行うのも良い方法です。体調に合わせて少しずつ、苦しさや辛さ・痛みなどが生じないよう、無理せず段階的に進めていきましょう。

おわりに:高齢者がストレッチに取り組むと、転倒防止や適度な運動になる

高齢になっていくにつれて、身体のさまざまな臓器や細胞と同じように、筋肉もだんだんと老化していきます。筋肉が老化すると固くなったり縮んだりして、うまく動かせなくなってしまいます。

ストレッチは老化して固まった筋肉をほぐして伸ばすだけでなく、激しい運動のできない高齢者にとっては、ほどよい運動となります。転倒防止にも役立ちますので、ストレッチの習慣がない人はぜひ取り入れていきましょう。

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