記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2020/2/14
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
てんかんは脳の神経細胞に突然電気的な興奮が起こってさまざまな症状が出るもので、発症すると手足をつっぱらせたり、体中をがくがくと震わせたりする症状がみられます。子供に多い病気と思われていますが、現代では高齢者にも多いことがわかっています。この記事では、高齢者のてんかんについて解説します。
てんかんは子供の病気というイメージが強いですが、高齢者でもてんかんを発症することがあります。海外の研究によると、てんかんの発症率は2000年ごろから高齢者が小児を上回るようになり、現在では高齢者の発症率が最も高いとの報告もあります。
日本では大規模な調査が行われていないため、高齢者のてんかんの患者数について詳しいことはわかっていません。そのため、てんかんを発症していても本人や身近な人が気づいておらず、未治療のままになっている高齢者が多い可能性があると言われています。今後、高齢化が進むにつれて母体数が増えるため、高齢者のてんかん患者数も増加すると考えられています。
男女で発症率に大きな差があるわけではありませんが、いずれも罹患率は20歳ごろをピークに低下し、60歳を過ぎるころから再び増加しています。
高齢者のてんかんは複雑部分発作が多いという特徴があります。複雑部分発作は単純部分発作(脳の一部が過剰に興奮して起こるもので、意識がはっきりしているもの)と異なり、意識が徐々に遠のいて周囲の状況がわからなくなる、という意識障害です。患者さん本人は記憶障害となりやすいです。単純部分発作と異なり、けいれんなどの運動障害が起こらないため、誤診に至るケースも少なくありません。
意識障害が起こっても倒れることはなく、意識減損発作(急に動作を止めて顔をぼーっとさせる)や、自動症(あたりをフラフラと歩き回る、手を叩く、口をもぐもぐさせるなどの無意味な動作を繰り返す)などがみられることもあります。
また、二次性全般化発作(一部から始まった興奮が脳全体に広がる発作に進行する)こともあり、多くは強直・間代発作(全身が硬直したり、手足の激しいけいれんが起こったりする発作)に進みます。数秒~数十秒で終わることが多いですが、ときには1分以上続くケースもあります。
てんかんの起こる部位としては「側頭葉てんかん」が約7割と最も多く、次いで約1割の「前頭葉てんかん」があります。側頭葉てんかんの症状としては前述の自動症が特徴で、本人の意思で体を動かしているわけではないため記憶障害を伴います。そのほか、以下のような症状がみられることもあります。
自律神経症状としては、上記のほか「前兆として、腹痛などお腹の症状が起こる」「発汗・立毛・心悸亢進・胸部圧迫感・なんとなく頭が重い」などの症状がみられます。精神症状としては「未体験なのに過去に体験したような感覚がある(既視感=デジャヴ)」「いつも体験していることが未体験のように感じる(未視感=ジャメヴ)」「昔の記憶が次々と頭に浮かぶ(フラッシュバック)」「恐怖感」などが現れることがあります。
高齢者がてんかんを発症する原因は「脳卒中」が最も多く、次にアルツハイマー病などの「神経変性疾患(脳内のさまざまな場所で神経細胞が変性して働きを失ってしまう病気)」、頭部の外傷、脳腫瘍などがあります。また、動脈硬化も原因のてんかんもありますが、原因がわからないてんかんもみられます。
脳卒中に含まれる脳血管障害には「脳出血・くも膜下出血・脳梗塞」などがあり、脳腫瘍には転移性脳腫瘍や神経膠腫などがあります。その他、脳炎・脳症などもてんかんの原因となることがあり、このように腫瘍や出血によって脳が圧迫されたり、外傷などが原因で脳に傷がついたりするとてんかんが起こりやすくなります。
特に、発作の起こりやすい部位に傷がつくと、てんかんを発症する可能性が高くなります。傷や圧迫の場所や大きさ、種類によっても起こる発作の種類が異なります。65歳以上で脳梗塞や脳出血を起こした場合、将来的にてんかんを起こすリスクは、大きな障害とは限りませんが、約50~75%と非常に高いことがわかっています。
神経変性疾患でよく知られているのはアルツハイマー病ですが、これは大脳の側頭葉の内側にある「海馬」という記憶を司る部位から神経細胞の変性が起こることが多いとされています。海馬はてんかんともつながりが深く、海馬を起点とするてんかんは側頭葉てんかんとして発病するため、アルツハイマー病の人が起こすてんかんは側頭葉てんかんが多いと言われています。
原因不明のてんかんは「特発性てんかん」と呼ばれ、CTやMRI検査などで大脳に異常が見られないにも関わらず、てんかんの症状が現れているものを呼びます。これらの多くは一度治ったてんかんが再発したというケースで、発作のタイプとしては部分発作ではなく全般発作であることが多いとされています。
高齢者のてんかんも一般的なてんかん治療と同じように、抗てんかん薬を使った薬物療法が中心です。特に高齢者の場合、薬剤の効果が高く、少ない量でも効果が現れやすいことがわかっています。さらに、抗てんかん薬による治療を長期間続けても、治療効果が落ちることは少ないと言われています。
一般的なてんかんの場合、最初の発作のときには抗てんかん薬を飲まないことも多いのですが、高齢者では初回発作後の再発率が高いため、脳波にてんかん波が見られたり、脳に原因と思われる病変が見つかったりした場合は、最初の発作後からすぐに抗てんかん薬による治療を行うことも少なくありません。
ただし、高齢者は若年者と比べて代謝機能が落ちているなど、臓器の機能低下により、副作用を起こす可能性が高いこともよく知られています。したがって、抗てんかん薬を飲み始めるときはごく少ない量から徐々に増やしていき、ちょうどよい量を探るのが非常に重要です。特に、腎機能障害や肝機能障害を持つ人の場合、抗てんかん薬の効果が非常に強く出ることもあります。医師とよく相談することが大切です。
また、すでに服用している薬がある場合、併用薬と相性が悪くないものや疾患を悪化させない薬を選びます。したがって、服用中の薬がある場合は必ず全て医師に伝えましょう。
てんかんというと、乳幼児や小児が発症する疾患とイメージしがちですが、高齢になって初めて発症する人もいます。海外の報告によれば、2000年ごろから高齢の患者数が小児の患者数を上回ったとするものもあり、高齢者のてんかんは決して少なくありません。
てんかんの原因は、脳卒中が最も多く、次いでアルツハイマー病などの神経変性疾患が多いです。高齢者のてんかんも一般的なてんかんと同様、抗てんかん薬による治療を行います。