スポーツ障害にはどんなものがある?発症した場合の対処法は?

2020/2/24

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

「野球肘」という言葉を聞いたことはありませんか?練習熱心な野球少年によく見られる怪我の1つで、慢性的に肘の関節を使いすぎて靭帯が剥がれたり、軟骨が壊死してしまったりするものです。

このように、スポーツによって起こる慢性的な損傷のことを「スポーツ障害」と言います。部活動に熱心な中高生に多いスポーツ障害ですが、具体的にどんなものがあるのでしょうか?

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スポーツ障害とは

「スポーツ障害」とは、スポーツを行うことで身体に過度の負担が繰り返しかかり、痛みなどの症状が慢性的に現れることを言います。一方、瞬間的に外力がかかって一時的な怪我(骨折・脱臼・捻挫など)が起こる場合は「スポーツ外傷」と言います。ただし、両者を厳密に区別せず、総称して「スポーツ障害」と呼ぶこともあります。

スポーツ障害は、スポーツ外傷と比べてすぐにスポーツに支障が出るわけではないものも多いことから、すぐに治療を行わない人もいます。しかし、早期に対処しないと気づかないうちにどんどん重症化していき、やがては関節が変形したり骨が分離したまま治らなかったりと、日常生活にも支障をきたすようになってしまいかねません。

スポーツ障害は一般的に中学生・高校生に起こることが多いとされています。これは男子では高校1~2年生ぐらいまで、女子では中学3年生ぐらいまでがそれぞれ成長期であることが関係しています。成長期にはまず骨が成長し、筋肉がそれを追って成長するという順番で身体が作られていくのですが、このときの骨は両端が軟骨になっていて、両端にほど近い部分にある「骨端線」という部分から骨が伸びていきます。

つまり、成長期の骨の両端やその間の関節は、成人の既に成長を終えて出来上がった骨や関節とは異なり、構造上やや弱いと言えます。そのため、過度な練習や無理なフォームなどで強いけん引力や圧迫力などが繰り返し加わると、傷ついたり変形したりしやすく、スポーツ障害につながりやすいのです。

スポーツ障害にはどんな種類があるの?

主なスポーツ障害には、以下のようなものがあります。

肘(野球)

内側側副靭帯損傷(内側型野球肘)
肘の靭帯が軟骨の付着部から剥がれたり、断裂したりする
離脱性骨軟骨炎(外側型野球肘)
肘の外側の骨と軟骨が壊死する。剥がれ落ちると、関節内を移動するため「関節ねずみ」と呼ばれる状態になる

肘(テニス)

上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
肘の外側の筋肉付着部に過度のけん引力が働き、炎症が起こる

膝(テニス、サッカー、陸上、バレーボール、バスケットボール、柔道、スキーなど)

オスグッド・シュラッター病
軟骨と骨の境目に小さな骨折を繰り返し、脛骨が隆起する
前十字靭帯損傷
足が地に固定された状態で膝にひねる力が加わり、靭帯が断裂する

腰(野球、サッカー、水泳など)

腰椎分離症
小さな外力が繰り返し加わることで、背骨の一部が疲労骨折する

指(野球)

マレットフィンガー
指の正面に衝撃を受け、第一関節の指を伸ばす腱が断裂する

足首(サッカー)

シーバー病
アキレス腱が絶えず引っ張られ、かかとの軟骨に障害が生じる

中高生のスポーツとして野球は非常にポピュラーなため、「野球肘」という投げすぎによる肘の障害がとくに多く、よく知られています。上記のように野球肘には内側と外側の2種類があり、内側の障害は靭帯が断裂するもの、外側の障害は軟骨が損傷するものです。

また、テニスやサッカーのように走るとともにジャンプするようなスポーツでは、膝蓋靭帯と呼ばれる膝の骨とその下の脛骨をつなぐ靭帯が剥がれてしまい、脛骨部分の骨が出っ張ってしまう「オスグッド・シュラッター病」がよく見られます。膝にひねる力が加わって靭帯を断裂する「前十字靭帯損傷」も非常に多く、とくに女子の場合はX脚が原因となって発症することもありますので、普段の姿勢にも気をつけましょう。

スポーツ障害になったらどうすればいい?

スポーツ障害は、軽度の段階では運動中に鈍い痛みがある程度なので、気づきにくいのが問題です。人によっては体力の低下を感じることもあります。さらに症状が進行すると、運動が終わった後にも痛みが残ったり、安静にしていても痛みを感じたりするようになります。場合によっては激痛が走ることもあり、現れやすい部位は前章でご紹介したように、スポーツによって異なります。

症状が出たら、まずはその部位を安静にすることが最も大切ですが、組織が変形したり、骨折していたりと外科的な損傷に至っていることも少なくありません。上記のような痛みや違和感を感じるようなら、できるだけすぐに整形外科を受診しましょう

もちろん、スポーツ障害と診断を受けた後もスポーツが全くできないわけではありませんから、医師の指導のもと、治療中は傷めた部位を使わない運動をしておきましょう。治療中も体を動かしておけば、治療が終わった後にスムーズに練習を再開できます。

スポーツ障害は予防できる?

スポーツ障害は、以下の4つのポイントに気をつけることで、ある程度予防することができます。

始める前:ウォームアップ
  • スポーツ障害や外傷による靭帯や骨の損傷を防ぐには、準備運動が重要
  • 体温や代謝を上げて関節を温め、柔軟にしておく効果が期待できる
  • 15分〜20分ほどストレッチやジョギングを行うのが良い
  • このときは動作に勢いをつけず、ゆっくり筋肉を伸ばすように行う
練習中:適度を心がける
  • 同じ動作を繰り返し行うと、関節・筋肉・腱などに続けて負担がかかる
  • スポーツ障害のほとんどはこうした「オーバーユース(使いすぎ)」によって起こる
  • 例えば、野球の全力投球であれば、中学生なら1日70球までで週350球、高校生なら1日100球までで週500球が限度
練習メニュー:体格に応じたものを
  • 中高生は成長期なため、体格や成長スピードに個人差が大きい
  • 指導者は年齢だけを見るのではなく、個人の発育状況に合わせたメニューを組む必要がある
  • 筋力トレーニングなら、筋肉が増えた時期を見計らって行う
  • 身体ができていないうちは、瞬発性を養う、身体の使い方を覚える、などメニューを変える
終わった後:クールダウン
  • 運動によって興奮した身体を鎮め、疲労回復を促す整理運動も重要
  • 急激に運動を停止するのではなく、軽いジョギングやウォーキングなどを行いながら徐々に動きを止める
  • 最後に、ストレッチやアイシングなどを行う

このように、スポーツを行う前後のウォームアップやクールダウンはもちろん、練習の内容を適度に抑えたり、練習メニューを体格に応じたものにしたりといった工夫が指導者には求められます。熱心な子の中には多く練習したいという子もいるかもしれませんが、身体のことを考えて限度を守れるよう、よく指導してあげてほしいと思います。

おわりに:スポーツ障害は使いすぎが原因!体格や成長に合ったメニューを

スポーツ障害のほとんどは、その部位を使いすぎること(オーバーユース)によって起こります。有名な野球肘やテニス肘のほか、サッカーやテニスのオスグッド・シュラッター病、前十字靭帯損傷も非常によく見られます。

スポーツ障害は軽度なうちは痛みも鈍いため、すぐに病院に行かない人も多いのですが、進行していくと、安静時にも痛みを感じるようになります。違和感や痛みを感じたら、早めに整形外科を受診しましょう。

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