ウイルスってどんな構造になっているの?変異するのはどうして?

2020/4/16

山本 康博 先生

記事監修医師

東京大学医学部卒 呼吸器内科医

山本 康博 先生

人間に感染症を引き起こす病原体には、ウイルスや細菌・真菌などがいます。とくに、毎年流行するインフルエンザウイルス、激しい吐き気や下痢を引き起こすノロウイルスなどはウイルスによる感染症として広く知られています。

では、ウイルスとはいったいどんな病原体なのでしょうか。その構造や性質、細菌や真菌との違いについて詳しく見ていきましょう。

ウイルスってどんな構造をしているの?

「ウイルス」を英語で書くと「virus」ですが、これはもともとラテン語の「virus(ウィールス)=毒液、粘液」に由来しています。ウイルス自体の構造は非常に単純で、DNAやRNAなどの核酸(遺伝子の本体)をタンパク質で包んだというだけのものです。つまり、自分で複製を作ることができず、エネルギー生産や代謝活動といった活動もできません。

また、生命の最小単位である「細胞」すらも持たないため、ウイルスを分類するときは非生物と位置づけることが多いようです。とはいえ、遺伝物質である核酸を持っていますので、他の生物の生きた細胞内に侵入し、宿主の細胞内で受動的に自己の複製を作ることができます。このとき、人間を含む多細胞生物に感染すると感染症を引き起こしたり、単細胞生物に感染するとウイルスの大量増殖によって宿主が死滅したりすることがあります。

ウイルスの大きさは20〜300nmで、大腸菌の大きさが2000〜4000nmであるのに比べると、約6分の1〜約200分の1と極小です。なお、1nm(1ナノメートル)は1mm(1ミリメートル)の100万分の1ですので、ウイルスは電子顕微鏡を使わないと観察できません。

ウイルスの各部分の構造は?

ウイルスの構造は非常に単純で、「核酸」「カプシッド」「エンベロープ」の3種類からなります。具体的には以下のようになっています。

核酸
  • ゲノム(遺伝情報)として、DNAまたはRNAどちらか一方を持つ
  • ウイルスの複製に必要な情報がコードされている
カプシッド(capsid)
  • タンパク質の殻で、核酸を包み各種の核酸分解酵素から核酸を保護する
エンベロープ(envelope)
  • 一部のウイルス粒子に見られ、ウイルス粒子が感受性細胞に付着するのに関わる
  • 脂質二重層からなる膜で、ウイルス粒子の最も外側に位置する
  • エンベロープを持つウイルスはアルコールや石鹸など脂質を溶解するタイプの消毒薬で不活化されやすい(逆に、エンベロープを持たないウイルスは不活化されにくい)
  • 経口感染するウイルスは、腸管内で胆汁酸に溶解されないことから、エンベロープを持たない

ウイルスが持つ遺伝情報は、そのDNAまたはRNAにコードされていますが、ウイルスはタンパク質を合成する仕組みを体内に持たないため、他の生物が自分のDNAを複製する際に使うrRNA(リボソームRNA)やtRNA(トランスファーRNA)などを持ちません。当然、これらのRNAをコードする遺伝子も持っていません。

ウイルスによっては、細胞に感染した後、自身のタンパク質を合成する前に核酸の複製が必要となる場合があります。このタイプのウイルスでは、核酸の複製に関わる酵素をウイルス粒子の中に保持しています。

エンベロープとは、ウイルスが感染した細胞内で増殖し、その細胞からまた放出される際に細胞膜や核膜などの生体膜を被ったまま、完全な子ウイルス粒子として出芽することで獲得されます。他にも、小胞体膜やゴルジ体膜がエンベロープとして奪われることもありますが、これらはそれぞれウイルスによって異なります。

エンベロープを持つウイルスでは、エンベロープタンパク質が細胞側の受容体(レセプター)に結合し、ウイルスのエンベロープと細胞膜が膜融合を起こしてエンベロープの内部に包まれていたウイルスの核酸やタンパク質が細胞内に送り込まれる、という仕組みのものが多いです。たとえば、水痘や帯状疱疹を引き起こすヘルペスウイルスはエンベロープを持つタイプのウイルスです。

ウイルスの性質は?

ウイルスは自分自身で増殖できないため、他の生物(宿主)の体内(細胞内)に感染(侵入)して以下のように増殖します。

  1. 宿主となる細胞の表面に付着し、侵入する
  2. 細胞内へ侵入すると、カプシドが分解され、核酸が遊離する
  3. 細胞の核酸複製能力によって、ウイルスの核酸が細胞内で大量に作られる
  4. 細胞のタンパク質合成能力によって、ウイルスのタンパク質が合成される
  5. 出来上がった核酸とタンパク質が集合し、再びウイルスとして元の形になる
  6. 成熟したウイルスは、宿主の細胞膜や細胞壁を破壊して細胞外へ脱出する

ウイルスは、宿主細胞の表面に露出しているいずれかの分子をウイルスの表面にあるタンパク質が標的として吸着します。この分子をレセプターと呼び、レセプターを持っている細胞はウイルスに感染しますが、レセプターを持っていない細胞はウイルスに感染しません。つまり、ウイルスが付着できる細胞は決まっているため、例えばHIVならヘルパーT細胞以外の細胞には感染しないのです。

細胞は、その細胞膜を通じて外部と物質のやり取りを行いますが、この物質の一部としてウイルスも細胞内に取り込まれ、侵入します。細胞自体はウイルスとその他の物質を区別できないため、付着したウイルスをそのまま取り込んでしまうのです。こうしてウイルスに感染し、代謝能力を乗っ取られた細胞は、不死化・がん化してしまうか、あるいは細胞死を迎えることになり、正常な細胞に戻ることはできません。

ウイルスと細菌・真菌との違いは?

細菌や真菌は一般的に生物であり、ウイルスは非生物に分類されることが多いです。これは、細菌や真菌は生物の最小単位とされる「細胞」の形態を持っているのに対し、ウイルスは細胞の形態を持たないためです。また、細菌や真菌は遺伝情報をDNAに記載し、DNAを含むタンパク質の合成の際に機能する核酸としてRNAを持っていますが、ウイルスはこのどちらかしか持っていません。

DNAウイルスは増殖の際、一度DNAをRNAに変換してからタンパク質を作るため、丈夫で壊れにくい反面、ウイルスの増殖速度は遅いです。一方、RNAウイルスはRNAが遺伝子の役割を兼務するため、もろく壊れやすい反面、ウイルスの増殖速度は速いです。それぞれ一本鎖と二本鎖があり、二本鎖DNAウイルスにはアデノウイルスなど、一本鎖RNAウイルスにはインフルエンザウイルスなどがあります。

細菌は細胞膜と細胞壁を持ち、細胞の外に鞭毛(べんもう)や線毛(せんもう)を持っています。鞭毛は細胞の外に出ていますが「細胞小器官」の一種で、細菌の遊泳に必要な推進力を生み出します。線毛は「細胞外構造体」の一種で、タンパク質が重合して繊維状になったもので、その構造や働きは多種多様です。

細菌はその細胞の形態が特徴的で、球形の球菌、棒状の桿菌、らせん菌、糸状細菌などがあります。名前にも入っているレンサ球菌や、グラム陽性桿菌の一種である納豆菌、グラム陰性桿菌の一種である大腸菌、らせん状のピロリ菌などが有名です。真菌も概ね細菌と同様の細胞と考えて構いませんが、大きな違いはDNAなどの遺伝情報が「核」と呼ばれる膜に包まれていることです。このため、細菌よりも真菌の方がよりヒトの細胞に近い構造と言えます。

ウイルスの構造が変異するのはどうして?

ウイルスと言えば、やはり代表的なのは毎年大規模流行を引き起こすインフルエンザウイルスですが、これほどまでに研究が進んでいるウイルスなのに、なぜ毎年たくさんの人に感染を引き起こしたり、一度かかった人が繰り返し何度もかかったりするのでしょうか。それは、ウイルスの特徴である変異が関係しています。

ヒトの免疫がウイルスを認識し、攻撃するためには、ウイルスの表面にあるタンパク質(抗原)の情報が必要です。ヒトの免疫はこの「抗原」の情報をある程度記憶しておくことができるため、全く同じ抗原を持つウイルスが次に体内に入ってきたときは、より早いスピードで対応して感染症の症状が出ないようにしたり、出たとしてもごく軽いものにとどめることができます。予防接種の仕組みは、この免疫が抗原を記憶できる性質を利用しています。

しかし、インフルエンザウイルスの表面にある「抗原」は毎年少しずつ変わってしまうため、ヒトの免疫機能では対応しきれませ ん。そのため、同じ人が何回もインフルエンザにかかったり、毎年たくさんの人に感染したりするのです。このようにタンパク質が変化する理由は遺伝子の「変異」によるものですが、ヒトを含めた有性生物であれば、生殖の際に遺伝子の変異が引き起こされます。一方、ウイルスは生殖を行いませんので、変異の起こり方は以下の2通りと考えられています。

コピーミスや破壊による突然変異

一般的な生物と同じように起こる遺伝子の変異で、遺伝情報を複製するときに起こるコピーミスと、紫外線や化学物質による遺伝情報の破壊によって起こる変異の2通りあります。一般的な生物の場合、このようなコピーミスや破壊が起こっても遺伝情報を修復する機能が備わっていますので、ほとんどの場合は正常な遺伝情報に修復され、突然変異が実際に遺伝情報として残る確率は100億分の1にまで抑えられています。

一方ウイルスの場合、遺伝情報のコピーミスや破壊が起こっても、それをチェックしたり修復したりする機能はありません。そのため、ウイルスでは突然変異が遺伝情報として残ってしまい、その確率は30%にものぼります。

複数のウイルスの混ぜ合わせによる変異

こちらの変異はウイルス特有の遺伝情報の変異で、ある2種類のウイルスAとBが同じ細胞に感染した場合、それぞれのウイルスの遺伝情報が混ぜ合わされ、全く新しい別のウイルスCが発生するというタイプの変異です。このようにして誕生したウイルスCは、ウイルスAとBの両方の遺伝子を持つことから、ウイルスを包むカプシッドもやはり両者の特徴を併せ持っています。

このとき問題になるのは、ウイルスAは非常に強い感染力を持ったウイルスだが人類には感染しないのに対し、ウイルスBは感染力がごく弱いものの人類に感染する場合です。これらのウイルスが混ぜ合わさって誕生したウイルスCは、人類に感染できてその感染力は非常に強い、となり、爆発的な感染(パンデミック)を引き起こす可能性が高くなってしまうのです。

たとえば、「鳥インフルエンザ」として猛威をふるった「H5N1ウイルス」はこのタイプだと考えられています。初めは鳥類に病原性を持たなかったものの、カモ、水鳥、ニワトリ、カラスとどんどん感染力や病原性を高め、ネコ科やマウスなどの哺乳類にも病原性を持つ株が出現しています。インフルエンザウイルスはもともと変異しやすい一本鎖RNAウイルスであることもこの伝染性に関わっていると考えられます。

ウイルスが変異しやすいのは、有性生物のように変異がミスとなるのではなく、変異してもウイルスとして存在できること、また、たくさんの変異が起こることでどんなに環境が変化したり、宿主の免疫によって攻撃されたりしても、生き残る可能性が増えることが理由として挙げられます。

つまり、ウイルスはそもそも自身の遺伝情報がどんどん変異していくことが前提だと言えます。遺伝情報とそれを包むカプシッド、そしてエンベロープのみしか持たないウイルスは、遺伝情報が大きく変異したとしても、多くの生物のようにそれだけで個体が死滅することはありません。これがウイルスという構造体の最大の特徴なのです。

おわりに:ウイルスは遺伝情報とそれを包む「殻」からなる単純な構造体

ウイルスは、DNAまたはRNAに記載された遺伝情報と、それを保護するタンパク質の殻「カプシッド」からなるごくシンプルな構造体で、一般的に非生物とされることが多いです。一部のウイルスはエンベロープという脂質二重層の膜を持っています。

細菌や真菌のように細胞を持たず、遺伝情報が変異してどんどん新しいタイプのウイルスが生まれやすいのが大きな特徴です。この点も一般的な生物の特徴とは大きく異なります。

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