記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士 呼吸器内科専門医
山本 康博 先生
2020/7/2
細菌性赤痢は世界中でみられる感染症です。日本での発症数は低いとされますが、二次感染による保育園や福祉施設での集団感染発生のおそれは否定できません。細菌性赤痢にかからないためにどんなことに注意すべきか、予防法などを紹介します。
細菌性赤痢の原因は赤痢菌です。赤痢菌を経口摂取すると、赤痢菌は大腸上皮細胞に侵入し、隣接細胞へ再侵入を繰り返します。すると上皮細胞の壊死や脱落が起こり、血性下痢の症状があらわれます。感染者や保菌者の便に含まれた赤痢菌に汚染された食物水が主な感染経路となります。そのほか、次のような感染経路が考えられます。
細菌性赤痢は感染力が強いのが特徴です。汚染された水や食品を感染経路とした二次感染を引き起こし、保育園や学校、福祉施設などで集団発生のおそれが考えられます。日本国内では赤痢患者数が減少していますが、途上国からの帰国者から感染する輸入感染症例や、輸入食品を原因とする発症例がみられます。
細菌性赤痢の主な特徴を紹介します。
発熱は1~2日程度で治まることがほとんどです。基本的に急性腸炎の症状がみられます。腸管外に症状があらわれることはあまりみられません。
日本で発症した場合、症状は軽症であることが多く、数回の下痢や軽度の発熱で症状が治癒する患者さんが多いとされています。無症状の場合もありますので、感染に気づかない患者さんもいます。重症に至った場合は、脱水症状による電解質異常、腎機能障害があらわれることがあります。
健康な方の場合、治療しなくても4~7日間で症状が改善します。ただ、もし治療が必要となった場合、対症療法と抗生物質による治療が行われます。
乳酸菌、ビフィズス菌などの生菌整腸薬を使用します。下痢を止める薬で、強力な止瀉薬は使用しません。
解熱剤は脱水症状を悪化させることがあるため、使用するかどうかは慎重に検討します。抗生物質のニューキノロン薬も、併用できない薬剤が多いので使用は慎重に検討します。脱水が強くあらわれている場合、静脈内あるいは経口輸液を行います。この場合はスポーツ飲料でかまいません。
成人に対してはニューキノロン薬を使用します。適応がある小児にはノルフロキサシン(NLFX)、適応がない5歳未満の小児にはホスホマイシン(FOM)を使用します。
常用量で5日間内服投与をします。服薬治療終了後、48時間以降に24時間以上の間隔で2~3回、糞便の培養検査をします。検査の結果、2回連続で陰性になったら除菌されたとみなされます。
下痢が続くと体内が水分不足になり、脱水症状を引き起こすことがあります。脱水症状が強くあらわれたら医療機関を受診してください。
細菌性赤痢の予防は、感染経路の遮断が基本です。個人ができる対策として、石けんでの手洗いを心がけて清潔を保ちましょう。食事の前、調理前後、トイレ使用後の手洗いは特に大切です。
環境面では、上下水道の整備など細菌の繁殖を防ぐことが基本となります。途上国では下水道の整備が不十分な地域がありますので、赤痢の発症が多い地域での生もの、生水、氷などは飲食しないようにしてください。
細菌性赤痢の予防ワクチンはありません。赤痢の発症が多い地域を訪ねた場合は、できるだけきれいな水で、こまめに手を洗うことをおすすめします。帰国した際は、高齢者や子供に二次感染させないように注意しましょう。
排便後は十分に手洗いしてください。感染者が要介護者などで排泄介助をする場合、感染を防ぐために対策を必ずとりましょう。
細菌性赤痢は国内での発症数の少ない感染症ですが、感染力が強く集団感染を引き起こした事例があります。予防ワクチンがありませんので、感染予防のために手洗いなどできることを徹底しましょう。
※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。