記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2021/2/23
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
認知症は徐々に脳の機能が低下することで、さまざまな症状を引き起こす病気です。なかでも代表的な症状として挙げられるのが「記憶障害」です。今回は認知症の症状として起こる記憶障害について、その特徴や適切な対応をメインに解説していきます。
自分が体験した、または見聞きした過去の出来事を、自覚しないまま忘れてしまうことを記憶障害と言います。認知症においては、代表的な中核症状です。なお記憶障害の症状は、記憶の種類ごとに以下5つに分類できます。
数秒から1分以内の、短期のみ留めておくべき記憶を忘れてしまう障害です。新しいことを覚えられなくなるため、たとえば今日の日付や今後の行動、さっきまで持っていたものをどこに置いたかなど、直近の小さな記憶から忘れていきます。
数分から数日間にわたって残る近時記憶、数日以上の長期にわたって残る遠隔記憶を、忘れていってしまう障害です。祝日の名前や地名などの一般的な知識や、自分や家族に関する思い出や出来事などを、認知症の進行とともに少しずつ忘れていきます。
自分が体験した出来事を、関連するエピソードごと忘れてしまう障害です。通っていた学校のことや勤めていた会社、従事していた仕事のことなど、特定の出来事全体が抜け落ちたように記憶からなくなります。
言葉やものの意味を忘れてしまう障害です。指し示したいものの意味や名前がわからなくなり、「あれ」や「それ」と言った代名詞で表現することが増えるため、次第に意思の疎通を困難にしていきます。
本人が無意識に記憶していること、または繰り返し行ってきた経験や習慣で身に着けた技術や知識を、忘れていってしまう障害です。自転車に乗る、泳ぐ、ピアノを弾くなど、以前は普通にできていたことができなくなっていきます。
脳のうち、海馬という記憶を司る部位が破壊されて生じる認知症の症状としての記憶障害には、以下のような特徴がみられます。
認知症による記憶障害の場合、まずは直近の短期記憶から失われていき、症状が進行すると数年・数十年単位の過去など長期記憶にも影響が及んでくるのが特徴です。このため、いま住んでいる場所の記憶を失くしていても、子どもの頃に住んでいた場所や周辺の地理については覚えているケースも見られます。
遠い過去の記憶である長期記憶と並び、一般的な知識である意味記憶、体で覚えた手続き記憶も、認知症による記憶障害では失われにくいです。
認知症による記憶障害では、体験した記憶を丸ごと失ってしまうケースも多いです。たとえば旅行に行った場所だけでなく、旅行を計画し、出かけたこと一連の記憶を失くしてしまう、と言った特徴がみられます。
認知症による記憶障害を起こしている人には、以下のような対応が求められます。
自覚のないまま記憶を失っている認知症の人は、自身の認識する世界と周囲が認識する世界にズレを感じると、多大な不安や恐怖を感じます。記憶がないために本人の言っていることが正しくないとしても、それを周囲が訂正しようとすると、より不安をあおられてしまいます。まずは否定するのではなく、本人の言っていること・記憶を受け入れて、安心してもらえるよう努めてください。
認知症による記憶障害は、少しずつですが確実に進行していきます。このため記憶障害との付き合いが、十年以上の長期にわたることも珍しくありません。記憶障害と付き合わざるを得ない状況で、認知症の人のために周囲ができることは、症状と共存して生きていける環境を整えることです。
以下のような対策をして、特に短期記憶障害を補助できる環境を整えましょう。
代表的な認知症の症状である記憶障害は、直近の短期記憶から失われ、その後進行するにつれてエピソード記憶や、長期記憶の領域にも及んできます。ついさっきの行動や今後の予定を忘れる、前後の出来事もあわせ体験を丸ごと忘れているなら、認知症による記憶障害かもしれません。認知症による記憶障害に気づいたら、まずは本人を安心させ、記憶を失くしていることへの不安を和らげるとともに、今後の対策を考えていきましょう。