記事監修医師
聖マリアンナ医科大学 病理学
長宗我部 基弘 先生
2017/5/15
記事監修医師
聖マリアンナ医科大学 病理学
長宗我部 基弘 先生
糖尿病は、一度発症すると治癒(ちゆ)することがなく、治療を受けず放置すると合併症を併発し、末期には失明や透析治療を余儀なくされる病気です。なかでも「糖尿病性神経症」「糖尿病性網膜症」「糖尿病性腎症」は三大合併症とされています。ここでは糖尿病の合併症について解説します。
糖尿病による神経障害は、糖尿病性ニューロパチーとも呼ばれ、糖尿病を患っている人の約半数にみられます。糖尿病の合併症では最も早期に現れるとされています。糖尿病の病歴が長い人ほどなりやすく、手足のしびれなどの自覚症状はごく初期の段階からあらわれます。
糖尿病性神経障害は、末梢神経障害と自律神経障害の2つに分けられます。
末梢神経障害は、手や足のチクチク感、痛み、無感覚、脱力感を引き起こし、自律神経障害は、身体のすべてをコントロールする自立神経に影響を与えることから、さまざまな症状があらわれます。また、低血糖から重症化することもあります。
血糖値を目標値にキープすることができれば予防したり神経障害を遅らせることができます。すでに神経障害がある場合も、血糖値を管理することで、さらなる神経障害の予防やその発生を遅らせることができます。
糖尿病性網膜症は、糖尿病が原因で起こる網膜疾患です。網膜は眼球の最も後ろに存在し、光センサーの役割を持つ神経細胞が敷き詰められています。ここが障害を受けることで視力に影響を与えることになります。糖尿病性網膜症では、網膜の血管に障害が起き、これを補おうとする脆弱な新生血管が形成されます。この新生血管が形成される前段階を「非増殖網膜症」、新生血管が形成された状態、または硝子体(しょうしたい)・網膜前出血のいずれかを認める「増殖網膜症」に分類されており、眼底所見によって、次のように重症度が分類されています。
網膜症なし:異常所見なし
軽症非増殖網膜症:毛細血管瘤のみ
中等症非増殖網膜症:毛細血管瘤以上の病変が認められる重症非増殖網膜症よりも軽症のもの
重症非増殖網膜症:眼底4象限で20個以上の網膜内出血2象限での明瞭な数珠状拡張、明確な網膜内細小血管異常のいずれかを認め、増殖網膜症の所見を認めないもの
(参考:日本糖尿病眼科学会 http://www.jsod.jp/member/guideline.html)
このほか、我が国では福田分類も多く用いられています。
網膜症の病期に関係なく黄斑が腫れあがる状態を「糖尿病黄斑浮腫」と呼びます。視野がぼやけ、完全に視力が失われることもあります。黄斑浮腫の治療は、失明しないように進行を止めたり、もしくは失明から視力を回復させることを目的としています。
糖尿病から数年後に網膜症が進行し、重症化するものが「増殖網膜症」です。増殖網膜症では、血管がひどく傷つき、閉じてしまった状態になるため、網膜内の新生血管ができ始めます。この新生血管は脆く、血液が漏れ出す硝子体出血を容易に引き起こしてしまいます。また、新生血管は瘢痕組織を形成し、網膜剥離(はくり)を起こします。増殖網膜症は、硝子体出血や網膜剥離を引き起こすまでは何の症状もないことから、気づいたときには既に重症化していることも多く、定期的に眼科医による眼底検査を受けることが必要です。
糖尿病性網膜症は、眼科治療技術の進歩によって光凝固手術、局所光凝固手術、網膜硝子体手術などの治療によって失明を防いだり、視力を回復することができるようになってきてはいますが、依然として成人の中途失明原因の2位であり、予防が重要な疾患と言えます。
糖尿病によって高血糖状態が長く続くと、腎臓の200万個ある糸球体という毛細血管がフィルターとしての機能ができなくなるのが糖尿病性腎症です。進行すると透析や腎移植に頼らざるを得なくなります。我が国では,透析導入原因の第1位が糖尿病性腎症となっています.
病期は5段階にわけられ、第1期はほとんど症状がありません。第2、3期では、血糖値と血圧を管理し、低タンパク食によって治療できますが、第4期以降になると透析治療が必要となり、第5期では腎臓はまったく機能しなくなって腎移植の対象になっていまいます。
厚生労働省の調査によれば、日本の糖尿病患者数は300万人を超え、年々増え続けています。糖尿病は、ただの生活習慣病ではありません。糖尿病そのものが死亡原因ではなくても、糖尿病の合併症は日本人の死亡原因の上位に名を連ねています。糖尿病による合併症を予防するためには、食習慣を見直し、定期的に運動することが大切ですね。