高齢者の急な混乱に気づくためのせん妄ケア

2026/8/15

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

急に様子が変わったときは認知症と決めつけない

高齢者が突然つじつまの合わない話をする、落ち着かなくなる、昼夜が逆転する、家族の顔が分からないように見えるといった変化があると、認知症が進んだと考えてしまうことがあります。しかし、数時間から数日の短い期間に急に現れ、時間帯によって良くなったり悪くなったりする混乱は、せん妄と呼ばれる状態の可能性があります。せん妄は、病気、手術、薬、脱水、感染、痛み、睡眠環境の変化などをきっかけに起こり、高齢者では特に注意が必要です。認知症がある人にもせん妄は重なることがあります。国立がん研究センターも、入院や治療の影響でせん妄が生じることがあり、高齢化を背景に認知症を併存する人も増えていると説明しています。

せん妄では症状の波がみられることがある

せん妄では、注意が続かない、話がまとまらない、場所や時間が分からない、幻覚のような訴えがある、夜に興奮して眠らないなどの変化がみられることがあります。一方で、興奮するタイプだけでなく、眠そうで反応が乏しくなるタイプもあり、後者は疲れているだけと見過ごされることがあります。症状が一日の中で変動しやすい点も特徴です。介護者は、何時ごろから変化したか、普段と何が違うか、発熱や痛み、排尿・排便の変化がないか、新しい薬が始まっていないかなどを確認します。本人に繰り返し質問して正そうとすると不安が強まる場合があるため、まず安全を確保し、落ち着いた声で短く話しかけることが大切です。

介護では原因になり得る変化を探す

せん妄はそれ自体だけを抑えるのではなく、背景にある身体的な原因を探す必要があります。発熱や咳、排尿時の痛み、便秘、強い痛み、食事や水分摂取の減少、睡眠不足などは確認したい項目です。入院や施設入所など環境が急に変わったときにも混乱が起こることがあります。眼鏡や補聴器を普段使っている人では、見えにくさや聞こえにくさが不安を強めることもあるため、使用できる状態に整えます。日中はカーテンを開けて時間の感覚を持ちやすくし、夜は刺激を減らすなど、生活リズムを整える工夫もあります。ただし、せん妄が疑われるときは環境調整だけで様子を見続けず、原因となる病気や薬の評価が必要なため医療者へ相談します。

本人を強く訂正せず安心できる関わりを

混乱している人が家に帰る、誰かが部屋にいるなどと訴えたとき、事実と違うことを何度も訂正すると、不安や怒りが強くなることがあります。介護者は訴えをすぐ否定せず、不安な気持ちを受け止めながら安全を確保します。時計やカレンダー、なじみの写真などが安心材料になる人もいます。家族の声や普段の生活に近い環境が落ち着きにつながる場合もありますが、刺激が多すぎるとかえって疲れることもあります。本人の反応をみながら調整しましょう。転倒や点滴の自己抜去などの危険がある場合は、医療・介護職と対応を相談します。安易に身体を拘束することは身体機能や精神面への負担が大きいため、まず原因と環境を見直すことが重要です。

急な混乱は早めの医療相談が必要

せん妄が疑われる急な変化がある場合は、できるだけ早く主治医や医療機関へ相談します。特に、高熱、呼吸困難、強い胸痛、激しい頭痛、けいれん、意識がほとんど戻らない、片側の手足が動かしにくい、言葉が出にくいなどがある場合は、感染症、脳卒中など緊急性の高い病気の可能性もあるため、救急要請を含めた対応が必要です。転倒後や頭を打った後に急に混乱した場合も速やかな評価が必要です。また、新しい薬を飲み始めた後や薬の量が変わった後に変化が出た場合は、その情報を医師や薬剤師へ伝えます。処方薬を自己判断で中止すると別の問題が起こることがあるため、変更は医療者と相談して行います。

家族や介護職の観察記録が診療に役立つ

せん妄では、診察する時点では一時的に落ち着いていることがあります。そのため、日常を知る家族や介護職が、昨日までは会話が成り立っていた、夕方になると急に落ち着かなくなるといった変化を伝えることが重要です。症状が始まった時刻、体温、食事と水分、排尿や排便、睡眠、痛み、転倒の有無、薬の変更などを簡単にメモしておくと、原因の検討に役立ちます。入院中であれば、普段の認知機能や生活リズム、使っている眼鏡や補聴器、落ち着きやすい声かけなどを看護師へ共有します。本人をよく知る人の情報は、認知症による普段の状態と急な変化を区別するためにも大切です。

まとめとして急な変化を身体からのサインと考える

高齢者の急な混乱は、年齢や認知症のためと決めつけず、身体の不調を知らせるサインとして捉えることが大切です。まず転倒や事故を防ぎながら落ち着いて関わり、発熱、痛み、脱水、排泄、睡眠、薬の変化などを確認します。本人を説得して正常に戻そうとするより、不安を減らし、普段に近い環境を整えることが介護の基本になります。同時に、せん妄は原因の治療が必要なことがあるため、早めに医療者へ情報を伝えましょう。家族や介護職が普段の状態を知っていることは大きな手がかりになります。急激な悪化や意識障害、呼吸困難などがある場合は緊急性を考え、速やかな医療につなげます。

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