記事監修医師
産業医科大学第1外科
佐藤 典宏 先生
2017/3/15 記事改定日: 2018/3/26
記事改定回数:1回
記事監修医師
産業医科大学第1外科
佐藤 典宏 先生
自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された子供が、成長する上でカギとなるのが治療です。自閉症スペクトラムの障害そのものをなくす治療方法はありませんが、その後の生活を送るために必要な能力を訓練したり、影響を及ぼす要因を取り除いたりすることは可能です。この記事では、自閉症スペクトラム障害の治療法について解説します。
自閉症スペクトラム障害(ASD:Autism Spectrum Disorder)とは、広汎性発達障害などの総称で、周囲の人とコミュニケーションをとることが難しかったり、特定の分野にだけ強いこだわりや関心を持ったり、相手の意図や気持ちをくみとることが苦手といった症状がみられるものです。また、知的障害や言語障害を伴うこともあります。
現時点では、自閉症スペクトラムの原因は解明されていませんが、生まれつき何らかの脳機能障害を持っていることが原因ではないかと考えられています。また、赤ちゃんや幼児のときはこの障害があることに気づかず、大人になってから診断を受けて自閉症スペクトラム障害だったことに気づく人もいます。
自閉症スペクトラム障害を完治させる方法はありませんが、専門的な発達プログラムを受けることは、自閉症スペクトラム障害の子供にとって大きなメリットとなります。
発達プログラムは、以下のような能力の発達に焦点を絞って行うことが大切です。
・コミュニケーション能力(通常、発話能力や語学スキルは大幅に遅れやすいため)
・社会的相互作用の能力(他人の気持ちを理解し、それに反応する力を養う)
・学習能力(読み書き、計算に必要な力を養う)
ただ、どのプログラムが自分の子供に最適なのかを決めるのは難しいこともあります。また、訓練の中には長時間の集中的な作業が必要なプログラムもあるため、場合によっては金銭面で継続的に訓練を受けることが難しくなる可能性もあります。
自閉症スペクトラム障害の子供を抱える親は、子供の支援と能力の向上に重要な役割を果たします。自閉症スペクトラム障害の症状について学び、症状についてできるだけ知っておきましょう。
自閉症スペクトラム障害を抱える子供にとって、周囲の人とコミュニケーションをとることはとても困難なことです。子供がコミュニケーションをとるのを手助けすることで、不安を減らしたり、行動を改善したりすることができます。
子どもがコミュニケーションを行う際、以下について意識してみましょう。
・自分が話しかけられていると認識できるように、子供の名前を呼ぶ
・雑音を最小限に抑える
・話すときは簡単な言葉を使う
・言葉と言葉の間は区切り、ゆっくり、はっきり話す
・簡単なジェスチャーをまじえながら話す
・子どもが話を整理(理解)するための時間を十分とる
自閉症スペクトラム障害の子供が不安などの精神的な問題を抱えている場合、病院では心理療法が行われることがあります。子どもの行動について、身体的健康状態、精神的な問題、環境要因などの原因について調べることができます。
また、認知行動療法などの心理療法は、思考や感情について専門家と話し合いながら、自閉症スペクトラム障害が行動や健康にどのような影響を与えるかをみていきます。
自閉症スペクトラム障害に関連する症状を治療するために、薬が処方される場合もあります。以下に、薬物療法の一例をご紹介します。
・メラトニン(睡眠障害の治療に使う)
・選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)(うつ病の治療に使う)
・抗てんかん薬(てんかんの治療に使う)
・メチルフェニデート塩酸塩を含む薬(注意欠陥多動性障害(ADHD)の治療で使う)
・抗精神病薬(かんしゃくや自傷行為といった攻撃的な行動の治療で、心理療法では対処しきれない場合に使う)
ただし、これらの薬には副作用があるため、症状ごとに専門医が処方します。また、薬の効果を確認するために、定期的な検査を受ける必要があります。
最近は、自閉症スペクトラム障害治療をうたった代替治療が多く提唱されています。ただその効果がほとんど証明されていないだけでなく、リスクもあるため、あまりおすすめできません。
以下に、代替治療の一例をご紹介します。
グルテンやカゼインを含まない食事を摂れば治る、という療法です。
自閉症スペクトラム障害の人の頭に電極を置き、その人に脳の活動をチェックしてもらいます。治療を受ける人は画面で脳活動を見ながら、脳活動の変え方を教わります。
音色、音程、音量が異なる音楽を聴くことを含む療法です。
・キレーション療法
薬物や他の薬剤を使って身体から金属(特に水銀)を取り除きます。
高気圧の部屋での酸素を使用した治療法です。
コンピュータのキーボードやマウスなどを使用している間、セラピストや他の人が人の手や腕をサポート、ガイドします。
子供が自閉症スペクトラム障害と診断された場合、その子に合った成長ができるよう、適切な治療や訓練を受けたり、子どもが不安に思う部分などを取り除いてあげたりすることが必要です。不安がなくなれば、コミュニケーションや精神面でも健やかな生活を送ることができます。そのためにも、適切な治療方法を選んであげましょう。