記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
一時期話題になった脳トレーニングですが、認知症に効果があるっていうウワサを耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか? そんな認知症と脳トレーニングの関係をみていきましょう。
「使わないと失う」は、通常、運動の重要性を意味しますが、脳を運動させることも同様に重要で、脳は定期的な運動が必要です。
65歳以降、認知症発症のリスクはおよそ年を5歳重ねるごとに倍になっていきます。
認知症は病気ではありません。記憶、人格、意思決定能力に影響を与える、脳細胞の損傷から生じる症状です。脳の損傷は、頭部外傷、脳卒中、またはアルツハイマー病のような疾患から生じ、2型糖尿病のような疾患が血管性認知症を引き起こすこともあります。
血管性認知症は、脳への血液供給が不十分であることによって引き起こされ、記憶、人格、意思決定能力に影響します。
認知症のいくつかのタイプは治すことができませんが、研究では、脳を活性化させ、健康的な食事、身体運動で活発に保つことが認知症に効果を発揮することが確認されています。脳トレーニング活動も早期でればあるほど、より良い効果が出ます。
65歳未満の健康な人は、すでに認知症関連の疾患を発症したり、脳卒中や頭部外傷を患っている場合を除いて、脳を刺激することで晩年も脳機能を鋭敏に保つことができます。今現在、何らかの認知症を抱えている場合も、ゲームによる脳のトレーニングやアクティブな知的活動は脳機能にいい効果を与えます。
現在は無料のオンラインゲームやアプリがたくさんあります。 将棋、囲碁、チェス、ジグソーパズルなどのゲームには脳にいいものがあります。雑誌や新聞によくあるクロスワードも脳にいい効果があります。
オンラインゲームやアプリを検索するのも、記憶、注意力、言語、論理力、反応時間、手の運動、視覚に刺激をあたえる活動になります。以下の事項も参考にして、日常生活でできるトレーニングを考えてみてください。
・予定リストを書いて、記憶する
・新しい歌を聞いて、フレーズをいくつか書き留める
・家から図書館までの地図を描く
・新しいトピックを研究する
脳機能を高めるに方法には以下のようなものもあります。
・生活動作のルーチンを変える。 右利きなら、左手でコーヒーかき混ぜてみる
・ハウツーものの本を読む
・新しい言語を学ぶ
・新しい趣味に挑戦する
・楽器に挑戦する
・オープン講座に参加する
健康的な生活習慣で脳活動を補うことも重要です。次のようなことを心がけてみましょう。
・体重を維持し、健康的な食事をする
・歩くことを心がける
・喫煙しない
・アルコールを制限する
・十分な睡眠を取る
・けがをしないようにする
・ストレスを減らす
・医師に従ってきちんと病気や病状の管理をする
・本をよく読む
・友達と過ごしたり、ボランティア活動や地域のクラブに加わり、積極的に社会と関わる
運動は予防に効果があるというのが一般的ですが、アルツハイマー病の進行を遅らせるためにも必要になります。反対にいえば、運動をしないことで症状がどんどん進行していってしまいます。
まだ運動をしていない場合は、週5回の適度な活動を一回30分程度行ってください。 中程度の活動には、心拍数を上げるものが含まれます。 歩く、ハイキング、自転車に乗る、水泳などの方法が良い選択肢です。
ほかの人と一緒に行う活動は、脳を刺激するのに役立ちます。 社会的活動は、友人と昼食を取ったり、隣人と一緒に散歩したりするのと同じくらい簡単です。 地域のボランティアなどを行ったりするのは非常によい方法です。脳細胞を健康的に保つためには、精神的に活発な状態を保つことが重要です。 新しいものを学ぶ機会を確保しましょう。
食事も予防の方法として一般的ですが、運動と同様にアルツハイマー症に効果があります。また、アルツハイマー症を持っている人は、口腔機能や嚥下機能に障害を持っている場合も多く、低栄養になりやすくなっています。そのため、さらにアルツハイマー症が進行していくという悪循環に陥ります。
また、研究によると、地中海料理は、特に運動と組み合わせると、多くの健康上の利点があることがわかっています。体重を減らし、血圧、血糖値、コレステロール値をコントロールするのに役立ちます。高齢者の場合、(脳がそれまでと同じように機能しない場合)認知機能の低下を遅らせることができます。
脳のトレーニングやライフスタイルの変更は大変なので、無理に一度にすべてをやろうとしないでください。 ゲームを1つ選び、ゆっくりと始めましょう。 ゲームの数は多いほど効果が上がります。 飽きた場合は、別のゲームにして続けてみてください。
また、生活のルーチンを変更してみてください。 たとえば、歯を磨いてから髪をとかす場合、順序を逆にする、揚げ物はグリルにするといったことです。
ほかにも、毎年の健康診断を欠かさず、友人とは定期的に会ってください。
残念ながら、脳トレーニングや生活習慣の変化が認知症を予防できるというわけではありませんし、アルツハイマーなどによる認知症を治療することはできません。 しかし、医薬品や健康的な生活で病気を管理することで、糖尿病などの病気から発症する認知症を改善することができます。
認知症は自分で見つけるのは難しく、たいていの場合、異変に気づくのは家族や親友です。特定の医薬品やうつ病が記憶障害に結びついている可能性もあり、医師の判断も容易ではありません。
脳トレを早く始めると、より良い効果があります。時折、記憶障害があっても、それは正常なので心配しないでください。しかし、認知症に関連する記憶喪失は、時間とともに悪化し、進行スピードは非常に速いです。認知症の可能性がある徴候として、以下のサインがあります。
ご自身やご家族にこれらがみられたら、できるだけ早めに病院に行ってください。
・最近の出来事や情報を記憶しておらず、同じ質問を繰り返す
・運転、調理、入浴などのいつもの方法を忘れる
・正しい単語を使用しないといった言語の問題がある
・どの道順で行くか、どのようにして来たかなどを覚えていない
・左右の足に別々の靴を履くなど、簡単な判断を誤る
・奇妙な行動(冷蔵庫に衣服を入れる)があり、物をよく失くす
・気分の変化が大きい
・友人や家族や趣味の時間など、かつて重要だったものに対して興味がない
・何かを選択・決定することが難しくなる
脳トレーニングは認知症に大きな効果があるわけではありませんが、脳に刺激を与えて健康的な生活を心がけることは、認知症の予防に少なから役立ちます。
元気な老後のために、または脳機能を少しでも長く維持するために、脳トレーニングを行ってみましょう。