記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
がんは遺伝するという話を聞いたことがある人もいると思います。しかし、 本当にがんは遺伝するのでしょうか? また、胃がんはどんなことが原因で発症するのでしょうか?
もし家族の中にがんの人がいるという場合、きちんとした知識を持っていないと過剰に不安を感じてしまうでしょう。この記事では、胃がんの原因やリスクを高めるものについて、詳しくみていきます。
胃がんは、胃の細胞の変化が原因とされていますが、なぜこれらの変化が起こるのかははっきりとわかっていません。
がんは、細胞のDNA構造の変化(突然変異)から始まり、細胞の成長に影響を与えます。細胞が制御不能に増殖し続けることで、腫瘍と呼ばれる組織の塊が産生されます。放置しておくと、リンパを介してがん細胞が体中に広がっていき、血液、骨および、器官など体のさまざまな部位に転移します。
胃がんにつながるDNAの変化を引き起こすのは何か、そしてなぜ少数の人だけがこの状態を発症するのかは、解明されていません。
しかし、胃がんの発症には、さまざまな要因が影響している可能性があることは事実です。これらについては以下で説明していきましょう。
胃がん発症リスクは年齢とともに増加し、症例を見る限りでは、55歳以上の人に多く発症していることがわかっています。
また、理由はわかっていませんが、男性は女性に比べて、胃がんを発症する可能性が2倍高いとされています。
喫煙者は、非喫煙者と比較して胃がんを発症する可能性が約2倍高いといわれています。
吸い込んだタバコの煙は、血管を介して最終的に胃の中行き着きます。たばこに含まれる有害な化学物質が胃の細胞に損傷を与えることが、胃がんリスクを高める原因と考えられています。また、喫煙すればするほど、そして喫煙している期間が長くなればなるほど、リスクは大きくなるとされています。
ヘリコバクター・ピロリH. pyloriは一般的な細菌です。H. pylori感染は胃潰瘍、消化不良の発作を繰り返し、胃の内膜の長期的な炎症(慢性萎縮性胃炎)などの問題を引き起こす可能性があります。
研究では、重度の慢性萎縮性胃炎を有する人は非常に小さな差ではありますが胃がんを発症するリスクが高いことがわかっています。
ピクルスや、塩漬けの魚などの塩分の高い食品、パストラミやスモークビーフなどの燻製の食品は、胃がんのリスクを高めるといわれています。
日本ではこのような食生活が普及しているため、イギリスよりも胃がん率がはるかに高い傾向があります。
1日に5種類以上の果物と野菜を含む高繊維食を取ることは、胃がんの予防に役立つとされ、脂肪や加工食品、赤身の多い食事は胃がんになる危険性を高めるといわれています。
親や兄弟、姉妹が胃がんにかかったことがあれば、自分自身も胃がんを発症する可能性が高くなります。
胃がんが家族の中で引き継がれる理由は、完全には明らかにはなっていません。同じような食生活やH. pylori感染症のリスク要因、両親から継承した特定の遺伝子が原因である可能性が示唆されています。
約50例の胃がん患者を調べたところ、Eカドヘリンとして知られている遺伝子の変異を共有して持っていたことが判明しています。
家族性大腸腺腫症(FAP)と呼ばれる遺伝的な疾患も、胃がんを発症するリスクを高める原因となります。 FAPは、ポリープが消化器系に形成され、そのことで大腸がんの発症リスクが高まるとされています。
また食道がんや非ホジキンリンパ腫(白血球に発生するがん)など、他のがんにかかっている人は、胃がんを発症するリスクが高くなります。
男性の場合、前立腺がん、膀胱がん、乳がん、精巣がんの後に胃がんになるリスクが高まります。女性の場合は卵巣がん、乳がん、子宮頸がんになった人は、胃がんを発症するリスクが増加するとされています。
胃がんの転移には3つの可能性があります。
がんは、胃から、膵臓、結腸、小腸および腹膜(腹腔の内側の内層)などの近くの組織および器官に広がることがあります。
リンパ系は、血液循環系と同様に、体全体に配置された一連の節です。リンパ節は、感染と戦うために免疫システムに必要な特別な細胞を作り出します。リンパ系に転移すると、がんが全身に広がるリスクもあります。
血液を介しての転移は、一般的に肝臓に転移するケースが多いです。
体の他の部分に広がる胃がんは、転移性胃がんとして知られています。
今までみてきたように、胃がんの直接の原因ははっきりしませんが、リスクが高いものもかなりあります。例えば、胃がんの発症リスクの高い喫煙の習慣などがある人は、なるべくやめるようにしましょう。