記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
腰痛があるときは、体を動かしてはいけないと思い、自宅にこもりがちになってしまう人もいるのではないでしょうか。しかし、腰痛の状態にもよりますが、重篤な状態でなく医師から運動を禁止されていないのであれば、適切な運動をすることで腰痛が緩和できるといわれています。ここでは、腰痛緩和に役立つとされる運動について詳しく紹介します。
これまでは「腰痛が起きたら安静にしたほうがいい」「腰痛持ちなので運動は控える」といった考えが常識でした。しかし、近年では腰痛の研究が進み、腰痛のときはむしろ運動をしたほうが改善しやすいという考えが主流になっています。実際、諸外国の診療ガイドラインでは数々の研究の結果から、ぎっくり腰のような腰痛が起こった場合、3日以上の安静は良くなく、可能な範囲内で動いたほうが、腰痛の緩和や予防につながるとしています。
実は、慢性腰痛の痛み自体は、多くの場合3ヶ月程度で消えるといわれています。しかしその時期を過ぎても腰痛が続く場合は、「恐怖回避思考」が原因と考えられます。恐怖回避思考とは、「また腰痛になったらどうしよう」と過剰に心配するあまり、腰をかばいすぎることです。しかし、これによって運動しなくなると体は硬くなり、さらに痛みに敏感になってしまうことがわかっています。
それでは、どのような運動が腰痛に効果的なのでしょうか?例えば、 筋力トレーニングやストレッチといった運動は、筋肉、関節、靭帯、椎間板の柔軟性を保ち、健康的な状態に維持する効果が期待できます。
実際、ある研究によると、慢性的な腰痛がある人でも、週4日ウェイトトレーニングで運動している人は、あまり運動をしていない人よりも痛みがおよそ3割少なく、筋肉や関節の損傷もおよそ3割少なくなっていることが報告されています。
筋力トレーニングは、腰痛を和らげる効果が期待できる運動でしょう。
腹筋、腰、骨盤および臀部などの背中を支える重要な筋肉を鍛える筋力トレーニングは、体を動かしやすくしてくれることにも役立つので、腰痛の軽減効果が期待できます。
筋肉トレーニングといっても、ウェイトリフティングのように激しいトレーニングである必要はありません。筋肉に負荷をかけて鍛えることができるのであれば簡単な運動でもある程度の効果は期待できます。とくに、筋肉の長さを変えずに行うトレーニング(たとえば、腕を壁に押し付けて数秒維持するなど)である「アイソトニック・エクササイズ」は、腰痛を抱える人でも簡単にできるエクササイズなのでおすすめです。
また、エクササイズボールを使っての運動を日課に加えると、体幹が安定しやすくなるでしょう。
ストレッチは、筋肉や関節をより柔軟に保つので、けがの防止に役立ちます。また、硬くなっている筋肉や関節をやわらかくすることで、背中や腰などの可動域を広げる効果も期待できます。ストレッチをするときは、呼吸を止めずに体をゆっくりと動かし、少なくとも姿勢を5秒間キープするようにしましょう。また、決して限界を超えて伸ばそうとせず、痛い場合は止めましょう。
水中は浮力が働くため、陸上の運動よりも比較的腰の負担が少なくて済みます。胸まで浸かった状態であれば体重は1/10程度になるため、筋肉や関節への負担が軽減し、腰の痛みも軽くなり、陸上よりも簡単に体を動かすことができます。
腰痛の人におすすめなのは、腰への負担が少ない後ろ歩きです。背筋を伸ばし、片足をまっすぐ後方に引いて重心を移動させましょう。重心が移動したら前に残した足のつま先を上げ、今度はつま先からかかとへ重心を移動させるようにして後方へ下がります。これを繰り返しましょう。
ただし、水中は体が冷えるため、特に脊柱管狭窄症の人は腰痛が悪化するリスクもあります。
ヨガは、ストレッチと筋力アップを組み込んだ一連のポーズがあり、腰痛のよい運動になります。
ヨガのクラスを受けた人は、腰痛が改善し普通に治療するだけのときよりも調子がよくなるという研究結果もあるそうです。また、腰痛で気分が落ち込んでいる人にとっては、ヨガは気分転換にも役立つでしょう。
ウォーキングは、肺、心臓、血管の健康を高め、体全体を健康に保つ効果が期待できます。腰を伸ばして姿勢良く、ゆっくり歩きましょう。
腰痛改善のために運動を始めるときは、まず理学療法士に相談して、あなたに合った運動プログラムを作成しましょう。自己判断で運動を始めてしまうと、腰痛がさらに悪化するリスクが伴います。
理学療法士は、正しい鍛え方を指導してくれるだけでなく、緊張や痛みを防ぐ立ち方や座り方など、日常生活での過ごし方も教えてくれます。普段の過ごし方で疑問がある人は、質問してみてはいかがでしょうか。
運動を始めるときは、次に挙げる項目に注意しましょう。
・毎日10分間の軽い運動から始め、徐々に長く、負荷を増やしていく
・限界を常に意識し、限界がきそうになったときはすぐに運動を中止する
・脚をまっすぐに伸ばしたシットアップ(あお向けに寝て、上半身を持ち上げる運動。通常の腹筋運動)、あお向けの状態で脚を持ち上げるレッグリフト(あお向けに寝て、両脚を持ち上げる運動)、腰のあたりでウェイトを持ち上げるといった、腰の痛みを悪化させる運動は避ける
・痛みが出たら運動しない
運動の種類ややり方によっては、かえって腰痛を悪化させる恐れがあります。例えばマラソンやジョギング、ダンスなどの飛んだり跳ねたりする運動は関節への負担となり、腰が余計に痛くなる恐れがあります。腰痛の人はウォーキングに留めるようにし、また長時間歩くのではなく、10分程度にしてください。
また、ゴルフやテニスといった腰を同じ方向にねじる運動もNGです。何度も繰り返すうちに脊柱管が狭くなり、神経が圧迫されて腰痛が悪化する可能性があります。
上記で紹介したように、腰痛の緩和に効果のあるとされる運動はさまざまです。どの運動を選ぶかについては、自身の腰の状態やライフスタイル、筋力などで変わります。まずは、無理なくできそうな運動を試してみましょう。腰痛緩和の運動で大切なことは、長く継続することです。必要に応じて医師や理学療法士などの専門家に相談しながら、無理のないプログラムを組んでください。