記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/7/26 記事改定日: 2018/5/9
記事改定回数:1回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
痔とは、トイレでいきむと痛い、おしりから出血する、排便が苦痛でなかなか便が出ないなどの症状が現れる病気です。この記事では痔の症状や治療方法、予防方法など、痔の基礎知識を紹介しています。
悪化させないためにも、この機会にきちんと理解しておきましょう。
痔は、直腸の下部と肛門付近の静脈が腫れた状態です。特に排便時は、血管の壁が薄く伸びることがあるので、静脈がふくらんだり、炎症を起こしたりします。
痔は、直腸からの出血の大きな原因のひとつです。致命的な問題になることはめったになく、たいてい2~3週間でおさまります。しかし、おしりからの出血は重大な病気が原因のこともあるので、確認のために医師の診察を受けることをおすすめします。
痔は、できている場所で「内痔核」と「外痔核」の2種類に分けられます。
内痔核は、肛門より内側にできるものなので目で見ることができません。直腸は痛みを感じる神経の数が少ないので内痔核に痛みを感じることはあまりなく、内痔核ができていることに気づかないこともあります。
内痔核による自覚症状は、出血が主になります。
内痔核が肛門から飛び出てくることはありますが、軽いものであれば肛門の内側へ自然に戻っていきます。自然に戻らない場合でも、通常は優しく押し戻すともとにもどります。
ただし、進行すると内痔核が外に出てきて戻らなくなり、肛門の括約筋の外まで腫れ、周りよりもピンク色の濃い湿ったできものを目で確認することができるようになります。ここまで進行すると強い痛みが起こることが多く、特に排便時に痛みを感じやすいです。
外痔核は、痛みを感じる神経が多い肛門付近の皮膚の下にできるので、出血だけでなく痛みも感じやすくなる傾向があります。
外痔核の中では、血餅が形成される可能性があり、そのときは紫色や青色に変色します。これは血栓症と呼ばれており、強い痛みとかゆみを発生させ、出血を引き起こす可能性もあります。
血餅がなくなった後も、炎症を起こす可能性のあるできものを残すことがあります。
裂肛は肛門周囲の皮膚が排便時の衝撃によって切れ、出血が生じたものです。主な原因は慢性的な便秘で、硬くなった便を無理やり排出したときに肛門周囲の皮膚が裂けてしまうことで起こります。
一度裂肛が生じると、次の排便時に更に傷口が広がったり、炎症が起こってしまうので治りづらく、潰瘍を形成することも稀ではありません。強い痛みが起こるので便意を我慢して便秘が悪化することも多く、これがさらに裂肛を悪化させる原因となり、負のスパイラルを引き起こすこともあります。
症状の特徴としては、排便時に非常に強い痛みや出血が起こるために便器が真っ赤になるなどがあります。
痔瘻は、直腸内に細菌感染が起こり、肛門周囲に炎症が広がって膿が溜まり、皮膚から膿が流れ出る状態になったものです。直腸内の感染部分と肛門周囲の皮膚がトンネルのようにつながり、慢性的に膿が排出されます。
症状の特徴としては、痔瘻周囲の皮膚に腫れや赤み、熱感などを生じて強い痛みが現れます。また、炎症が強い時には発熱や倦怠感などの全身症状が現れることもあり、手術によって痔瘻のトンネルを塞ぐ必要があります。
両親など、家族に痔の患者がいると、痔になりやすい傾向にあるといわれています。
体重が重くなったとき、たとえば妊娠期や肥満になったときは、直腸の下部の圧力が高まり血流に影響し、近辺の静脈が膨らむため、痔になりやすくなると考えられています。
その他、なかなか改善しない便秘や下痢があるときは痔になりやすいとされ、咳、くしゃみ、嘔吐は痔を悪化させる要因になるといわれています。
痔は非常にありふれた病気ですが、多くの場合は初期に適切な対処を行うことで特別な治療を必要とせずに改善するものです。
痔ができた場合には、市販の座薬や軟膏などで症状を緩和させ、痛みがひどい場合には冷やしたり、円座クッションを使用するとよいでしょう。また、便通を調え、食物繊維を多く含んだ食事を心がけ、便を柔らかくすることも大切です。
市販の座薬では、プリザエースやVザックエースなどが有名で、内痔核に有効です。また、ボラギノール®A注入軟膏なども内痔核に注入することができる塗る薬であり、内痔核にも害痔核にも使用することができます。プリザエースなどの塗り薬は外痔核にのみ使用可能です。
市販薬にも様々なタイプのものがありますので、痔のタイプによって使い分ける必要があります。
野菜、フルーツ、全粒穀物、ナッツ、種子類、豆類などを積極的に摂るようにして、食物繊維をたっぷり摂取しましょう。
水を飲むことで、便が硬くなることや便秘を防ぐことができます。その結果、排便時の負担が小さくなり、痔を防ぐことができます。食物繊維を豊富に含むフルーツと野菜には、水分もたくさん含まれているので、便秘予防や痔の予防効果が期待できます。
毎日30分ウォーキングするなど、適度な運動をすることは、血液の流れや腸の動きを良い状態に保つことに役立つといわれています。
便意を感じたら、すぐにトイレに行くようにしましょう。
病院では、視診を行い痔の状態を確認します。その後、手袋をはめ指を肛門から挿入し、内側に痔がないか触診で確認することもあります。
大腸内視鏡検査や肛門鏡を使って検査することもあるでしょう。
内痔核や外痔核は、薬や生活習慣の改善などの保存的な治療で改善することがほとんどです。
薬は主に座薬や塗り薬が使用されますが、抗炎症作用や鎮痛作用のある成分を含んだもの、痛みを取り除く麻酔成分のあるものなど様々なタイプのものがあります。
薬物療法や生活習慣の改善によっても改善しない場合には、痔核を切除するための手術が行われますが、最も多く行われるのは痔核を縛って切除する結紮切除法で、手術による出血や合併症が少なく日帰り手術で行うのが一般的です。近年では、痔核に硬化剤を直接注入して痔核を固めて脱落させる硬化療法も注目されていますが、特別な資格を保持した医療機関でしか行うことはできません。
裂肛は、便秘の予防や硬い便の改善などを行うことでほとんどのものは改善します。しかし、便通の改善によっても繰り返す裂肛には、肛門括約筋を緩めるための塗り薬や、手術によって肛門を広げたり、裂肛を切り取る治療が行われることがあります。これらの手術は体への負担が大きいため、入院期間や完治までの時間が長くかかることが多いです。
痔瘻にまで発展した場合には、薬物療法などによる保存的な治療での完治を望むことは難しく、手術が必要になります。
手術の方法はいくつかありますが、古くから行われているものは、皮下にできたトンネルを切り開いてトンネル自体を広く切除する「切開開放術」です。この方法は、トンネルを完全に切除するため根治率は高いですが、肛門括約筋や周辺の神経などを大きく傷つけることもあります。
切開開放術によってトンネルが肛門括約筋や神経を大きく損傷する可能性がある場合には、トンネルをくりぬいていき、膿の入り口と出口を取り除く「括約筋温存術」が行われます。これは、術後の肛門機能の温存率が高いですがトンネルの一部は残した状態であり、再発しやすいのが特徴です。
また、手術を行わない「シートン法」という治療方法も行われています。これは、電気メスでトンネルの一部を切除し、トンネルに特殊なゴムを通し、徐々にトンネルを浅く小さくするという方法です。術後の肛門機能障害が最も少ないですが、長期にわたる治療が必要になります。
痔は、排便時にいきむことでひどくなります。便が硬くなると余計に出にくくなり、痔も悪化してしまいます。運動や食生活を変えることで、便秘を緩和し、痔の症状を出さないようにしましょう。