記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/2/1 記事改定日: 2018/5/23
記事改定回数:1回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
心的外傷後ストレス障害(PTSD)となるトラウマは、ひとりでは受け入れることは難しいでしょう。その感情に直面し、専門的な助けを求めることは、PTSDを治療する唯一の方法です。
PTSDは、発症から何年経過していても、適切な治療で改善が期待できるといわれています。ここでは、PTSDの主な治療法と、治療中の注意点について解説します。
PTSDの症状が4週間以上続いていたり、症状がひどい場合は、精神神経科医や心理学士、精神保健福祉士による評価と治療を受けることになりますが、PTSDの症状が軽度、またはその症状が4週間未満のときは、経過観察が推奨される場合があります。
PTSDの症状のある3人に2人が数週間のうちに治療しないで改善するといわれています。
PTSDの主な治療法には、以下の方法があります。
治療が必要なPTSDの場合は、最初に心理療法が行われます。重症または持続性のPTSDでは、心理療法と薬物療法の併用が行われます。
心理療法では、カウンセラーが話を聞き、問題を解決するために効果的な方法のアドバイスを行います。
心理療法には、主に以下があります。
トラウマとなった場面をあえてイメージしたり、これまで避けていた記憶を呼び起こすきっかけにあえて身を置くようにする治療法です。トラウマに焦点を当てた持続エクスポージャー療法(PE)は、PTSD治療では効果があるとされています。
認知行動療法(CBT)は、考え方や行動を変えることによって、問題にうまく対処することを手助けすることを目的とした療法の一種です。トラウマに焦点を当てたCBTは、トラウマ的出来事を受け入れることを手助けするためのさまざまな心理的技法を用いたものです。
この過程では、トラウマ経験を詳細に考えることでトラウマの記憶に立ち向かい、起こったことについて自分を責める気持ちやその出来事が再び起きるのではないかという不安に対処します。そうすることで、交通事故にあった人が再び車の運転をするなど、PTSDのきっかけになっていた活動を徐々に再開できるようになると考えられています。
トラウマに焦点を当てたCBTは、週1回、8〜12週行われます。1回は60~90分ほどです。
眼球運動による脱感作および再処理法(EMDR)は、PTSD症状を軽減することがわかっている最近開発された新しい心理的技法です。これは、セラピストの指の動きに追随してトラウマ的出来事を思い出しながら左右の眼球運動を確認します。指を叩いたりすることもあります。
EMDRがどのように機能するかははっきりわかっていませんが、トラウマ的な経験について患者の否定的な考え方を変えるのに役立ちます。
PTSDのほか患者と自己の体験について話すグループ療法は、自分のPTSDの症状を管理し、自分の状態を理解するのに役立つ方法としても推奨されています。
眠れない、不安が強い、うつ状態がある、自殺を考えるなどの症状があるときは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)をはじめとする抗うつ薬や抗不安薬、気分安定薬を症状にあわせて使われます。
薬物療法は、以下のような場合に行われます。
PTSDの治療に投薬が有効なときは、12カ月間継続してから、4週間もしくはそれ以上の期間をかけて徐々に投薬を減量していきます。また、場合によっては用量を増やすこともあります。
薬を処方する前に、投薬中可能性のある副作用と投薬が中止されたときの禁断症状について、必ず医師から説明を受けてください。
子供のPTSDは、トラウマに焦点を当てたCBTが推奨されています。これには、子供の年齢、環境、発達のレベルに合わせて調整された8~12回のコースが推奨されます。その場合、子供の家族の参加も含まれます。子供のPTSDでは、薬物療法は推奨されません。
PTSDは症状によって治療期間が大きく異なります。
一般的には、半数の患者は治療を行わなくても一年ほどでPTSDによる諸症状が改善するとされていますが、治療を行わないと症状が悪化したり、うつ病などの重篤な精神疾患に移行することもあります。
発症してから治療開始まで半年以内のケースは治療効果が出やすく、適切な治療を行うことで半年ほどで症状が改善することが多くあります。一方で、発症してから治療までに長い時間がかかった場合や、発症原因となった出来事が非常に重大な精神的負担になるような場合には治療を行っても症状が改善せず、数年にわたって様々な症状に悩まされることがあります。
このように、PTSDの治療効果は人によって大きく異なります。焦らず、確実に地道な治療を続けていくことが症状改善への近道なのです。
PTSDの治療中は、患者の精神状態は乱れやすく、一時的にフラッシュバックなどの症状が起こりやすくなります。このため、治療中には患者本人の努力だけでなく家族を始めとした周囲の協力が必要になります。
まず、PTSDの人は過去の辛い体験について自分を責める場合があります。これは抑うつ傾向にもつながり、うつ病などを併発する可能性が高くなります。特に、目の前で親しい人の事故現場を目撃したり、犯罪に巻き込まれたことなどが原因となっている患者によくみられる傾向です。
このため、PTSDの治療中には、患者を孤立させることなく、常に寄り添って患者の「声」を聞くようにしましょう。
また、過覚醒による睡眠障害は気分や体調の悪化を招きます。眠れなくても決まった時間になったら就寝するなどの生活習慣を徹底することも大切です。
強い精神的衝撃を受けるPTSDは、さまざまな日常生活活動に影響します。その症状に早めに気づき、診断を受け、適切な治療を受ければ改善します。医師や精神保健の専門家とともに、ゆっくり治療していくことが重要です。