「予測遺伝子検査」でがんをみつける

2017/3/7

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

予防医療の前段階として予測医療があります。人間はだれでも、身を守るための特別な遺伝子をもっています。細胞分裂が起きるときに遺伝子に欠陥が生じると、それを正しく修復します。しかし何らかの原因で欠陥遺伝子や変異遺伝子が遺伝すると、ダメージを受けた細胞を修復することができずに集まって腫瘍となることがわかっています。

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がんのリスクが高い欠陥遺伝子

がんは、通常は遺伝しません。しかし、乳がん、卵巣がん、大腸がん、前立腺がんなどの特定のがんは遺伝子による影響が強く、遺伝する可能性があることがわかっています。
乳がん感受性遺伝子であるBRCA(BRCA1、BRCA2)が欠陥遺伝子となると、女性の乳がんと卵巣がんの発症率を高めます。これらの欠陥遺伝子は、男性の乳がんと前立腺がんの発症率も高めます。
BRCA遺伝子だけががんになるリスクが高いというわけではありません。最近の研究によって、100種類以上の新たな欠陥遺伝子が乳がん、前立腺がん、卵巣がんと関連しているということがわかってきました。こうした遺伝子は、単独ではほとんどがんに発展しませんが、いくつかの欠陥遺伝子が組み合わさることで、がんのリスクが高くなります。

予測医療の遺伝子検査

家族でがんにかかっている人が多く心配なときは、医師に相談してみましょう。
予測遺伝子検査は、結果が陽性となるとがんを発症するリスクが非常に高いことから「予測」という名がついています。それは、がんであることを意味するものでも、絶対に発症することを意味しているわけでもありません。

予測遺伝子検査を受けることのメリットとデメリット

すべての人が予測遺伝子検査を望むわけではありません。あなた個人で決める必要があります。遺伝カウンセリングや、検査に関する説明をきちんと受けたうえで、どのように感じ、どのように対処するかを話し合ってから決めることが必要です。

メリット

・結果が陽性の場合、がんの発症を予防するための措置を講じることができる
・がんのリスクを低下させるために生活様式を変えたり、定期的にスクリーニングを行うなど予防的治療を受けることができる
・結果を知ることは、知らないことから生じるストレスや不安を軽減することができる

デメリット

・遺伝子検査の結果から必ず結論が出るとは限らない
医師は遺伝子の変異を特定するかもしれませんが、それによってどのような影響があるのかまでわからないことがあります。
・結果が陽性だと、一生不安と闘わなければならなくなる可能性がある
がんのリスクについては知りたくない人もいます。実際に発症したときにだけ知りたいと思う人もいます。

検査はどのように行われますか?

予測遺伝子検査には、次の2つの段階が必要となります。
①がんにかかったことのある親戚に血液検査を受けてみらって、がんになる可能性のある遺伝子があるかどうかを調べます(これを行う親族は健康でなければなりません)。結果は4〜8週間でわかります。
②親戚の検査が陽性であれば、同じ欠陥遺伝子をもっているかどうかを予測するための遺伝子検査を受けます(親族の検査結果のコピーが必要です)。血液検査で、血液サンプルを採取してから結果が出るまでに2週間ほどかかることがあります。
また、がんに罹患した家族がいない場合でも、少なくとも10%の欠陥遺伝子を有する可能性があります。BRCA1およびBRCA2の遺伝子検査が必要です。

結果が陽性であるとは何を意味しますか?

予測遺伝子検査の結果が陽性の場合、がんになるリスクを高める欠陥遺伝子をもっているということです。必ずがんになるという意味ではありません。遺伝子が将来の病気に与える影響は一部です。がんになるリスクは、病歴、生活様式、環境などが起因します。
BRCA遺伝子に欠陥があるということは、それが子どもに遺伝する確率は50%で、その兄弟姉妹も同じように欠陥遺伝子をもっている確率も50%です。
家族も欠陥遺伝子をもっている可能性があるため、検査結果について家族に相談しましょう。遺伝子検査では、検査結果がその人と生活と家族関係に与える影響についても相談に乗ってくれます。

がんのリスクに対処するには

検査結果が陽性の場合、さまざまな方法でリスクに対処することができます。病気のリスクを減らすための手術だけが対処法というわけではありません。
定期的に検査やスクリーニングを受けることが大切です。年に1回は、マンモグラフィーや核磁気共鳴画像(MRI)検査を受けましょう。また、生活様式を改善することは、がんのリスクを減らすことになります。よく運動し、バランスの取れた食生活、禁煙することを心がけましょう。

リスクを減らすための手術

乳房や卵巣などがんになる可能性のある組織をすべて摘出します。BRCAの欠陥遺伝子をもつ人の中には、乳腺切除術を考える人もいます。乳腺切除術は、乳がんの発症を90%抑えることができます。ただし、乳腺切除術からの回復は身体的にも精神的にも大変であることを覚えておいてください。
更年期になる前に卵巣摘出術を受けると、卵巣がんを発症するリスクが大幅に減るほか、乳がんを発症を50%減らすことができます。ただし、これによって早期閉経してしまうため、卵子を保存していない限り妊娠することはできなくなってしまいます。

おわりに

最近、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが乳がんと卵巣がんの予防のために乳房を切除し卵巣を摘出したのは、この予測遺伝子検査によるものでした。遺伝子を調べることでがんがみつかる! それはすばらしいことですが、メリットの裏には必ずデメリットもあります。手術をするかどうかは個人の意思ですが、予測遺伝子検査は生活習慣をあらためるいいきっかけになるのではないでしょうか。

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