記事監修医師
前田 裕斗 先生
2017/9/7 記事改定日: 2018/4/3
記事改定回数:1回
記事監修医師
前田 裕斗 先生
妊娠、出産により、女性の体はさまざまな面で変化します。その中で、実は多いのが妊娠中や産後の痔です。ここでは、産後に発症する痔の症状や原因、治療方法について解説します。痔はデリケートな悩みなので、長患いしがちです。早期改善に役立ててください。
まず考えられるのは、妊娠中からの痔の継続です。妊娠中は便が硬くなりやすいうえ、運動不足も重なって便秘になりやすくなります。それによって痔となり、産後もそれが継続します。さらに、出産時に強くいきんだときに切れ痔になることも多いのも、痔になりやすい原因といえるでしょう。
産後は分娩時の陰部裂傷のため力が入れづらく、便秘が続くことでさらに便が硬くなりやすい状態です。そのうえ、赤ちゃんの世話をするため生活のリズムが狂います。それによる疲れや、ストレスがたまることで痔になりやすくなるのです。
帝王切開で出産した人でも痔になることがあります。
帝王切開の人も自然分娩の人も妊娠中の経過は同じであり、妊娠中のひどい便秘や、子宮の圧迫が原因の痔は帝王切開の人でも生じます。
また、帝王切開後はお腹の痛みが長く続くため、十分な腹圧をかけることができず、便秘になりやすいことも産後に痔が悪化する原因の一つです。
出産後に痔が治るまでの時間には個人差がありますが、多くのお母さんは半年から一年の長い時間をかけて回復していきます。
産後は授乳による水分不足やストレスなどから便秘になりやすく、痔を悪化させる原因となります。しかし、このようなことが原因で起こる便秘は一時的なものであり、大部分は出産から半年から一年ほど経った頃に改善します。
また、子宮による圧迫が原因で引き起こされた痔は、出産後に子宮の圧迫がなくなるとすぐに改善するわけではなく、徐々に痔核が縮小して回復していくものです。
中には痔が改善せずに持病となってしまうお母さんもいますが、大部分は自然によくなりますから、焦らずゆっくり治していきましょう。
大切なことは、便秘を改善することと肛門を清潔にしておくことです。
便秘のときは排便にも時間がかかるため、肛門に必要以上の圧力がかかります。それによって肛門周辺の血流が悪くなり、よけいに痔が悪化することもあります。
ですので、繊維質の食べ物や水分を多めに摂るといった食生活の改善や、適度な運動、バスタイムをゆっくりとるなどして、便秘の改善を図りましょう。
また、肛門を清潔にしておくため、排便後は強くふき取らず、できるだけウォシュレットを使いましょう。
なお、市販薬を自己判断で使用する際は、事前に医師に相談したほうがよいでしょう。成分によっては、母乳に影響を与えることが考えられるからです。
痔の症状があまりにひどく、塗り薬にも効果がない場合には、手術が行われることもあります。手術では麻酔を使うため、妊娠中に行うことはできませんが、出産後であればどの時期でも行うことが可能です。
ただし、使用する麻酔や痛み止めによっては母乳に影響を与えることがあるため、一時的に授乳を中止する必要があります。また、入院が必要になることもあり、入院中に赤ちゃんのお世話を誰かに頼むというハードルが生じます。
手術による治療は痔を治すことができますが、いくつかの問題も生じるため、医師や家族とよく話し合い、最も良い時期に行えるようにしましょう。
痔の種類には、いぼ痔、切れ痔、あな痔があり、このうち出産後に多いといわれているのが、いぼ痔と切れ痔の2つです。
いぼ痔は、肛門周辺の血流が悪くなってうっ血し、いぼ状に腫れ上がってしまう痔のことです。いぼが肛門の外に出てくる外痔核と直腸内部にできる内痔核の2種類があります。
妊娠中に発症するいぼ痔と比べると、産後のいぼ痔は会陰切開の痛みと勘違いしやすく、治療が遅くなってしまう特徴があります。
内痔核は、いぼが肛門の外にどの程度出てきているかによってI度からIV度の段階に分けられます。初期の段階では、いぼは自然と肛門に戻ったりったり、自分で押し戻したりできますが、進行して戻らなくなると出血や痛みといった症状も現れます。
内痔核は目視したり触れることができず、神経も通っていない場所にできるため、認知が遅れる傾向にあります。排便のときの出血で気づくことが多いといわれています。
硬い便を無理やり出そうといきんだときに、肛門が裂けてしまうことで起こるのが切れ痔、医学的に言う「裂肛」です。
排便時の痛みや出血などの症状が現れます。たとえば、いぼ痔(内痔核)と違い切れ痔ができる肛門管上皮には知覚神経がかなり密集しているため、その部分が切れると排便時に激痛を感じるようになります。
また、切れ痔の人は便秘症であることが多く、痛みを我慢することで便秘が悪化し、ますます便が硬くなり、結果としてさらに便秘を悪化させる悪循環にはまってしまうことが多いのです。
その他、血栓性外時核という肛門の外側にできる痔になると肛門周囲の血流が悪化して血まめとなり、激しい痛みが現れます。
最近は、女性医師に診てもらえる女性専門の肛門科も開設されており、女性が受診しやすい環境が整っています。
食生活の改善や、排便の調整をしても治りが悪いなと思ったら、可能であれば市販薬を飲み始める前に、医師に相談しましょう。