記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
適応障害とは、大きな人生の変化や人の死、重大な出来事など、特定のストレス要因に対処する、もしくは適応することが非常に困難になった時に起こる、短期的な病気です。誰にでもなりうるものです。ここでは、適応障害についてまとめました。
適応障害は、性別や年齢、人種、生活スタイルにかかわらず、誰にでも起こる可能性がありますが、思春期や中年期、高齢期など、人生で大きな変化が起こる時期に起こりやすいといわれています。
ストレス要因(例えば、離婚など)もしくは複数のストレス要因(仕事や結婚生活の問題など)に対する反応として発症し、適応障害ではストレス要因に対する反応が典型的なもの、もしくは通常予期されるものよりも大きくなります。さらに、睡眠や仕事、勉強などができなくなるほど、体の機能や能力に問題を起こす場合もあります。
適応障害は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは異なります。PTSDは、一般的に命にかかわる出来事に対して発症し、長引く傾向にあります。その一方で、適応障害は短期的であり、半年以上続くことはめったにありません。
適応障害の人は、涙もろさや絶望感、仕事や活動への関心の薄れなど、うつ病のような症状が現れることが多いです。この障害は「場面性うつ病」と呼ばれることがあります。しかし、うつ病とは異なり、適応障害はうつ病ほど身体症状や情動性症状(たとえば、睡眠や食欲、精力の変化など)を含みません。
適応障害には、その人の普段の様子の変化という幅広い症状があり、それらには次のようなものが含まれます。
・絶望感
・悲しみ
・頻繁に泣く
・不安(緊張感)
・心配
・頭痛や腹痛
・動悸(不愉快な、不規則もしくは力強い心臓の拍動)
・人や社会活動と距離を置いたり、孤立したりする
・喧嘩やむちゃな運転、破壊行為など、危険もしくは破壊的な行為
・食欲不振もしくは過食など、食欲における変化
・睡眠における問題
・疲れたり、気力がなかったりする
・アルコールやその他の薬物の使用の増加
子供や十代の若者における症状は、学校をずる休みしたり、喧嘩をしたり、感情をあらわに出したりなど、行動に関するものが多く、大人では悲しみや不安など、感情的な症状が現れる傾向があります。
適応障害を引き起こす可能性のあるストレスの種類は人によって異なりますが、次のようなものが原因になっている可能性が考えられます。
・恋愛関係や結婚生活の終わり
・失職もしくは職の変化
・大切な人の死
・重い病気の発病(自分自身もしくは大切な人)
・犯罪の被害者になる
・事故に遭う
・大きな人生の変化を経験する(結婚する、出産する、もしくは退職する)
・火事や洪水、台風などの災害を生き延びる
適応障害はうつ病の発症につながる恐れがあり、さらにストレスや不安神経症に対処するためにアルコールや薬物に走ってしまうと薬物乱用問題へと発展してしまう危険性もあります。
適応障害の治療法を以下に挙げます。
心理療法(カウンセリングの一種)は、適応障害の治療法として最も多く利用される方法です。心理療法では、ストレス要因がどのようにして自分の人生に影響を及ぼしているかを患者本人が理解するための手助けをします。また、その人が必要とする対処技能を身につけるための手助けもします。
支援グループに参加することも、自分と同じストレスを抱えている人と不安な気持ちを分かち合える良い場となるでしょう。
うつ病の症状や不安神経症の症状が出ている場合は、抗うつ剤や抗不安薬が処方されることもあります。
適応障害を完全に予防することはできませんが、家族や身の回りの人に助けを求めることでストレスのもとになる環境や出来事に対処できる場合があります。また、症状がひどくなる前に早めの治療をすることも、予防につながります。
精神疾患である適応障害は、ストレスが原因で起こる病気です。決して、甘えているわけではありません。周囲が理解し、サポートすることが必要になります。適応障害になってしまっても、あまり自分自身を責めないで、優しい気持ちで受け入れて治療を行いましょう。