記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/10/18
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
「多発性硬化症」という病気をご存知ですか?脳や脊髄などに病巣ができ、さまざまな症状を引き起こす難病の一種です。以降で詳しい症状や原因、治療法を解説していきます。
多発性硬化症とは、脳や脊髄に硬い病巣が幾つも出来ることで、手足の麻痺や視神経の異常など様々な症状が出てくる病気です。
普段、脳や脊髄、視神経にある神経線維は、ミエリンという絶縁体に覆われています。しかし、多発性硬化症ではミエリンが障害され、神経伝達がうまくいかなくなってしまいます。
多発性硬化症の症状は病巣ができる部分によって変わってくるのですが、溶解(症状が治まる)と再発(症状が出ること)を繰り返しつつ徐々に進行していき、回復はほぼ見込めないのが特徴です。そのため、いかに早く病気を発見して、治療を開始し病期の進行を止めるかが重要になってきます。
多発性硬化症は原因が明確にわかっていません。しかし、本来は体を守るはずのリンパ球などの免疫機能が、神経線維を覆うミエリンを攻撃・破壊して炎症が起きた(脱随)結果、引き起こされるのではと考えられています。
では、なぜリンパ球がミエリンを攻撃してしまうのかというと、それは不明です。過労、ストレス、ウイルスや細菌の感染は、再発の引き金になりえるものですが、そもそも最初に免疫機能に異常をもたらすものが何かはわかっていないのです。
多発性硬化症は遺伝によって起きるものもありますが、家族が多発性硬化症であってもすべての人に発病するわけではありません。
多発性硬化症では、病巣のある場所によって出てくる症状が変わってきます。例えば視神経に病変があった場合には、視力が低下したり、一部の視野が欠落したりします。
脳の場合は大脳と小脳で症状が分かれており、大脳では記憶したり学習したことが思い出せなかったり、言語に関する能力が失われる失語症が起きたり、疲労感・倦怠感に襲われます。小脳では言葉を発しようと思っても発声が上手く出来ない構音障害、上手く歩くことが出来ない、手足が震えるといった運動機能障害が現れる事が多いです。
脳幹では、顔面の麻痺やめまい、嚥下障害、排尿・排便障害などが起きます。脊髄では体のバランスが取れなくなる歩行障害、排尿障害などが現れます。
多発性硬化症は、劇的に回復することはありません。ただ、症状を予防したり止めたりすることはできます。病院で行われる治療としては、暴走する自己免疫を抑える免疫抑制剤や炎症を抑えるステロイドを投与することで脱髄を予防します。
症状が悪化していたり、ステロイドなどが使えないときには血液浄化療法といって、血液を抜いて炎症の原因となる血漿成分を取り除き、代りのアルブミン製剤を混ぜて体に戻す治療が行われます。
症状が収まっている寛解期の場合には、リンパ球の攻撃を止めるフィンゴリモド塩酸塩という薬を投与したり、免疫系のコントロールをするインターフェロンβという薬を注射して再発を予防します。
さらに、多発性硬化症ではうつ病や様々な痛みが出てくることもあります。そういった症状を軽減するために抗うつ薬や痛み止めを処方することもあります。
原因不明で、治療法も確立されていない多発性硬化症。今後の研究が期待されますが、現在の治療法でも、症状を緩和することは可能になっています。医師と連携をとりながら、症状に合わせた治療を行っていきましょう。