記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/11/1 記事改定日: 2019/12/17
記事改定回数:2回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
妊娠中の女性は風邪やインフルエンザなどさまざまな感染症に注意する必要がありますが、注意すべき感染症のひとつとして、「トキソプラズマ症」が挙げられます。
この記事では、トキソプラズマ症の症状や予防法、妊婦さんが感染した場合のリスクについて解説していきます。
トキソプラズマ症とは、トキソプラズマという原虫によって感染する病気です。この原虫はごく小さな単細胞生物で、ほぼ全ての哺乳類や鳥類に寄生することができます。
に、感染が多く見られます。最終的な宿主はネコ科の動物で、最終宿主の体内で生殖を行って繁殖します。トキソプラズマ症は感染した動物の肉を生食したり、猫の糞便に触れることによって人間に感染します。
最近は土壌や水の中に生息するトキソプラズマによって感染が起きたという報告も近年は増えていて、妊娠中に初めてトキソプラズマに感染すると、胎盤を経由して胎児に伝染し、先天性トキソプラズマ症を引き起こすおそれがあります。
トキソプラズマは健康な成人に感染しても、大抵の場合は症状が出ることはなく、症状が出たとしても
など、軽い風邪程度の症状で治まることがほとんどです。
また、1度感染すると抗体ができるため、再び感染することはほぼありません。
しかし、胎児や幼児、エイズ患者など免疫不全状態の人に感染した場合は、脳炎や肺炎などの重篤な症状を引き起こすことがあります。
脳炎を引き起こした場合は、頭痛や言語障害、痙攣、錯乱、昏睡といった症状を引き起こし、最悪の場合は死に至ることもあります。
ほかにも心臓・肝臓や眼球へ影響を及ぼすことがあります。
妊娠中の女性がトキソプラズマに初めて感染してしまうと、胎盤を通して胎児へ感染し、先天性トキソプラズマ症を発症させるおそれがあります。
胎児に感染する可能性は妊娠初期は低く、後期になるほど上昇しますが、感染した際の重症化のリスクは妊娠初期ほど高くなります。
そのため、妊娠中の女性はトキソプラズマの感染には、とくに注意が必要です。
先天性トキソプラズマ症の代表的な症状は
で、妊娠初期には流産や死産を引き起こす原因にもなります。
また、トキソプラズマ症は他にも胎児の臓器に種々の影響を及ぼし、リンパ節の腫脹や黄疸、貧血、肝脾腫、肝機能障害、血小板の減少などの症状を発生させる場合があります。
妊娠後期の感染だと大きな症状が出ないこともありますが、出生から数年後に眼に病変が見つかる場合もあり、先天性トキソプラズマ症による眼への影響のリスクは思春期頃まで持続すると言われています。
妊娠中にトキソプラズマに感染しているかどうかは、抗体を検査することによって分かります。妊婦が感染していることが判明した場合は、さらに詳しい検査を行い、感染の時期を特定します。
妊娠後の感染が考えられる場合は、アセチルスピラマイシンという薬の服用によって胎児に感染するリスクを減少させることができます。
投薬で胎児への感染リスクをゼロにすることはできませんが、重篤な症状を起こす可能性を大きく減少させることができます。
妊娠が判明したら早めに抗体検査を行い、トキソプラズマの感染が疑われたら、指示通りに薬を服用しましょう。
日本においてトキソプラズマに感染する機会には次のようなものが考えられますが、それぞれに対策が必要になります。
トキソプラズマは豚肉や鶏肉などに潜んでいることがあります。このため、鳥刺しやユッケなどの生肉や生ハム、サラミなどの加工肉を食べると感染することがあります。
肉類を食べるときはよく火を通し、妊娠中の人は生ハムやサラミなどの摂取は控えるようにしましょう。
また、生肉に触れた調理器具はしっかり洗浄し、サラダなどの生食する食材に移らないように注意して下さい。
トキソプラズマは猫に寄生していることが多く、猫の糞に触れることで感染することがあります。糞の処理をするときには使い捨ての手袋をするなどの対策をしましょう。
土には猫の糞によって排出されたトキソプラズマが潜んでいる可能性があります。猫を飼っていない家庭でも、庭に猫が入り込むことがありますので、注意が必要です。ガーデニングを行うときには、手袋を着用するようにしましょう。
猫の糞便を介して感染するトキソプラズマは、トキソプラズマの中でも「オーシスト」と呼ばれる成長段階のものです。
このオーシストには一般的なアルコールやハイターなどの消毒薬は効かないとされています。
猫の糞便と共に排出されたオーシストが人に感染する能力を持つには24時間ほどかかるとされていますので、糞便の処理はできるだけ早く、少なくとも24時間以内に行うようにしましょう。
また、国立感染症研究所ではトイレに使用する容器も一日に一度は熱湯消毒することが望ましいとしています。
妊婦などトキソプラズマに感染すると重大な影響を引き起こす可能性のある人は、できるだけけ猫の糞便には触れないようにして、ほかの家族が行うようにしましょう。
妊娠中にトキソプラズマに感染すると、胎盤を通じて赤ちゃんが先天性トキソプラズマ症を発症し、視力障害になったり、あるいは流産を引き起こしたりする恐れがあります。妊娠中は、生肉の摂取や猫の糞便の掃除など、感染の要因となる行動を避け、予防に努めましょう。