記事監修医師
前田 裕斗 先生
2017/11/7 記事改定日: 2020/7/15
記事改定回数:3回
記事監修医師
前田 裕斗 先生
乳頭から突然血や分泌液が出たとき、原因として「乳管内乳頭腫」が考えられます。乳管内乳頭腫のしこりが大きくなった場合に乳がん化の疑いはあるのでしょうか?この記事では乳管内乳頭腫の原因や特徴的な症状、治療法などを解説していきます。
乳管内乳頭腫とは、女性の乳房に発生するイボのような良性の腫瘍のことです。
成人女性の乳房は、主に乳腺と脂肪組織から成り立っています。乳腺は15~25の乳腺葉に分かれており、乳頭を中心に放射状に並んでいます。そして、脂肪組織はその乳腺を包み込むように保護しています。
乳腺葉はそれぞれ乳管を持ち、その先は多数の小葉(しょうよう)と呼ばれるぶどうの房に似た細胞に分かれます。分娩後にはこの小葉で乳汁が作られ、乳腺を通って乳頭から出るようになります。この小葉同士は乳管と呼ばれる管で互いにつながっています。
そして、この乳管内にできた乳頭状や樹枝状の構造を持つ良性の腫瘍のことを乳管内乳頭腫といいます。
乳管内乳頭腫は30~50代、特に40~50代に最も多くみられる病気です。発症原因はまだ明らかになっていませんが、ほとんどの症例でホルモン受容体陽性(女性ホルモン受容体を持っているということ)であること、乳腺症を合併することが非常に多いことから、エストロゲン(卵胞ホルモン)が影響しているのでないかと考えられています。
女性ホルモンによる長期、あるいは過剰な影響を受けて発症する症状です。胸にしこりや痛みを感じたり、乳頭からの分泌液が出たりします。ただ、月経前に症状が強くなって、月経が始まると同時に軽減することが多いため、生理的変化の一つとみなされており、病気として扱われていません。
乳首に近いところにできた場合は黄色がかった透明の分泌液が多いですが、茶褐色や赤い血性のものもあります。量も下着に少量付く程度から、乳汁のように大量に出るものまでさまざまです。
赤い血性の分泌液が付いていると驚く方も多いですが、乳頭から血性の分泌液が出る場合、乳管内乳頭腫の可能性が高いといわれています。
張りや痛みが乳房に出ることがあります。しこりを感じることはほとんどなく、まれに分泌液が乳腺内にとどまってしこりになることはありますが、無症状であることが多く、検査で初めて分かったというケースもあります。
良性の腫瘍とはいえ、乳管内乳腺腫の診断は難しく、乳がんとの鑑別が必要です。そのためにマンモグラフィーや超音波検査(エコー)、必要に応じて乳房生検を行います。
乳がん検査でも頻繁に使用され、乳房をはさんでレントゲン撮影をするものです。痛みを伴うイメージがありますが、圧迫される時間は数秒ですので、イメージするほどつらい検査ではないでしょう。
専用のゼリーを塗り、超音波で撮影するもので、痛みはありません。腫瘤(分泌液や血液の塊)が見つかった場合は、局所麻酔をし、乳房生検を行います。多少の痛みを伴うことがありますが、確定診断をする上でとても有効です。
なお、乳管内乳頭腫と診断された場合、基本的には経過観察となります。悪性化することは極めてまれとされていますが、乳がんとの区別は生検だけでは難しいことからも慎重な経過観察が必要です。
乳管内乳頭腫は無症状のことが多く、がん化する可能性が極めて低いため、上で述べた通り基本的には定期的な検査を行いながら経過を見ていくことがほとんどです。
しかし、定期検査でしこりが急激に大きくなっている場合、乳頭から血液が混ざった分泌液が出る場合などはがん化の可能性がありますので手術が必要になることもあります。
また、しこりが大きく、乳房の痛みやツッパリ感がある場合、外見上の違和感などがある場合も、患者さんの希望によっては手術で切除することがあります。
手術方法は皮膚を切開してしこりを摘出する方法が一般的ですが、がん化しているケースなどでは乳房全体を切除するケースもあります。
乳管内乳頭腫は良性の腫瘍ですが、切除しても再発するケースがあります。とくに、腫瘍を完全取り切れず、組織の一部が残っているような場合には再発しやすくなるといわれています。
また、乳管内乳頭腫は良性腫瘍であるものの、乳がんとの関連も高いとされているため、切除した場合でも再発の有無を確認するために定期的な検査が必要となります。
突然の乳頭からの出血にびっくりされる方も多いですが、乳管内乳頭腫は基本的には良性腫瘍のため、発見されても心配いりません。ただし、乳がんとの正確な区別は難しいため、定期的な検診を欠かさず行うようにしましょう。