HTLV-1関連脊髄症(HAM)の症状とは?どうやって治療するの?

2017/11/1 記事改定日: 2020/4/30
記事改定回数:2回

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

HTLV‐1関連脊髄症(HAM)はHTLV-1ウイルスに感染することで発症する難病です。
感染者のほとんどは発症することはありませんが、発症した場合には下半身の麻痺など、深刻な神経症状が現れます。この記事ではHTLV‐1関連脊髄症(HAM)の症状と治療について解説しています。

冷凍宅配食の「ナッシュ」
冷凍宅配食の「ナッシュ」

HTLV‐1関連脊髄症(HAM)は何が原因なの?

HTLV‐1関連脊髄症(HAM)とは、成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスであるヒトリンパ球向性ウイルス1型(HTLV-1)感染者の一部に、慢性進行性の両下肢麻痺、排尿排便障害を示す病気であり、日本で発見されました。

HTLV‐1関連脊髄症を引き起こす原因は、HTLV-1というウイルスの感染です。
これは、ヒトのリンパ球に潜在感染し、おもに母親から子供への母乳を介して、あるいは性交渉を介して夫から妻へ伝搬するといった形で感染していきます。

感染者の大多数は問題なく健康に過ごしていますが、一部の感染者は脊髄に慢性の炎症がおこり脊髄が傷害されることで、両下肢のつっぱり感、歩行困難、しびれ感、排尿障害や便秘などといった症状が現れ、徐々に進行します。

感染者のごく一部にのみ発症する理由は分かっていません。また、HTLV‐1関連脊髄症は成人T細胞白血病(ATL)とは別の病気であり、ATLが脊髄を傷害しているわけではありません。

HTLV‐1関連脊髄症の症状の特徴とは?

HTLV‐1関連脊髄症の自覚症状のなかでとくに多いものは、徐々に進行する歩行障害です。
HTLV‐1関連脊髄症を発症すると、まず両下肢につっぱり感が生じ、足がもつれて歩きにくくなり、その結果歩幅が狭くなり内股で歩くようになります。
また、走ると転びやすく、階段の上り下りでは下りにくさを感じることもあります。

両下肢の筋力低下がみられるようになると、特に大腿や腰回りに力が入りにくくなり、つっぱり感も加わって、すばやいスムーズな動きができなくなって階段の上りも困難になり、痙性が強い場合は筋肉の硬直や痙攣を伴い、自分で膝・足関節や股関節を曲げることができなくなります。

また、排尿障害として、

排尿困難
尿意があってもなかなか出ない
残尿感、頻尿
尿を全部出し切れずに残った感じがしてまたすぐにトイレに行きたくなる
尿失禁
尿意を感じたら我慢できないで漏らしてしまう

などの症状が現れることもあり、男性では勃起不全になる人もいます。
また、便秘症になる人も多いです。

そのほか、自律神経症状が現れることも多く、排尿困難、頻尿、便秘などの膀胱直腸障害は病初期から見られます。
起立性低血圧や下半身の発汗障害などになることもあり、これらの症状があるときは発汗低下による鬱熱のため、夏場に微熱、倦怠感が続き、室温管理が必要となることもあります。

HTLV‐1関連脊髄症では、どんな検査が行われるの?

HTLV‐1関連脊髄症が疑われるときは診断のために次のような検査が行われます。

血液検査

診断のためにはHTLV-1に感染していることを調べるための抗体検査や血液中に含まれるウイルス量を調べる検査が必要です。また、その他にも体内の炎症の程度を調べるためにも血液検査が行われます。

髄液検査

髄液中の細胞やウイルスに対する抗体の有無を調べるために行う検査です。髄液は腰から長く太い針を刺して採取しなければならないため血液検査に比べて身体への負担が大きな検査となりますで。ですが、脊髄の炎症の程度などを調べるのに優れた検査であるため、診断のためだけではなく病状の変化を評価するためにも用いられます。

MRI検査

脊髄や脳の状態を調べるために行われる検査です。また、HTLV‐1関連脊髄症と似たような症状を引き起こす脳や脊髄の病気との鑑別を行うこともできるため、HTLV‐1関連脊髄症の診断のために広く実施されています。

HTLV‐1関連脊髄症はどうやって治療するの?

ウイルスの増殖を抑制する抗ウイルス療法を中心に治療が行われますが、残念ながらウイルスの増殖を完全に抑制する薬剤は見つかっていません。
しかし、いくつかの薬剤は症状を軽減したり進行を遅らせる効果があるといわれており、ステロイド薬の内服によって、約7割の患者に何らかの治療効果があったとされています。

しかし、感染症の誘発、糖尿病の悪化、骨粗鬆症による大腿骨頸部骨折などのトラブルが少なからずあるため、長期の連用が難しく、投薬の中止によりしばしば再燃がみられています。

インターフェロンαは唯一有効性が確かめられ保険適用となっている薬剤ですが、うつ症状や肝障害、白血球減少などの副作用があります。

日常生活では、どんなことに注意すればいい?

歩いているときや立ち上がるときに、転倒して大腿骨頸部骨折などを起こし、そのことがきっかけで寝たきりになってしまうこともあります。筋力を維持するためにも、家庭で定期的にできるリハビリを積極的に取り組んでいきましょう。

また、ほかのHTLV-1関連疾患を発症する可能性があるため、医療機関への定期的な受診が必須となります。

リハビリ

HTLV-1関連脊髄症では足や腰などの筋力が徐々に低下していき、転倒などを引き起こしやすくなります。このため、なるべく運動をしないようにしているという人も多いですが、筋肉は適度な運動をしないとどんどん萎縮していきます。
HTLV-1関連脊髄炎を発症した場合でも、転倒によるケガに注意しながら積極的に運動を行うようにしましょう。

とくにリハビリでは足や体幹の筋力を維持するため、歩行訓練や背筋を強化する訓練などが行われます。また、筋肉が過度にこわばっている場合にはマッサージやストレッチを行うことも大切です。

自分で安全にできるリハビリとしては、座った状態で足首を回したり、足首を反らしてキープする、背筋を伸ばして腰を前屈・後屈させるなどの訓練を続けていきましょう。

おわりに:HAMは発症の原因がわからない難病。筋力維持のためにリハビリが重要

HTLV‐1関連脊髄症(HAM)は原因がわかっていない難病であり、完治が困難です。そのため家族の協力のもと日常生活の中にリハビリをうまく取り入れる工夫が必要になります。医師と相談しながら、適切な治療とリハビリを続けるようにしましょう。

関連記事

この記事に含まれるキーワード

HTLV‐1関連脊髄症(HAM)(1) 抗ウイルス療法(3)