糖尿病で末梢神経障害になるのはなぜ?症状と治療方法は?

2017/11/22 記事改定日: 2019/3/22
記事改定回数:1回

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

糖尿病性神経障害とは、糖尿病の三大合併症のひとつに挙げられるもので、糖尿病が原因で起こる末梢神経障害です。発症すると、手足のしびれや痛み、筋肉のこわばり、排尿や発汗の異常などがみられます。
この記事では、糖尿病で末梢神経障害が起こるとどんな症状が出てくるかや、どんな治療薬を服用するかなどについて解説します。

糖尿病の末梢神経障害ではどんな症状が出る?

人間の体にある神経には、中枢神経(脳や脊髄にある神経)と末梢神経(脳や脊髄から枝分かれしている神経)がありますが、糖尿病によって障害が起こりやすいのは末梢神経のほうです。

末梢神経は、感覚神経、運動神経、自律神経の3つに分類されます。糖尿病で末梢神経障害が起こると、感覚神経が影響を受けると手足のしびれや痛みが、運動神経が影響を受けると手足に力が入りにくくなる症状が、そして自律神経が影響を受けると便秘や下痢、立ちくらみ、尿意を感じなくなるといった症状があらわれます。

また、糖尿病が原因で起こる末梢神経障害は、しびれや痛みが出ている部位によって多発性末梢神経障害と単末梢神経障害に分類することもできます。

多発性末梢神経障害

多発性末梢神経障害とは、末梢神経がほぼ左右対称に、末端からしびれや痛みが出てくるものです。多くの場合、両手・両足の先から痛みやしびれ、もしくは足の裏の感覚が鈍くなり始め、徐々に膝やひじなど、体の中心に向かって症状が広がってきます。

単末梢神経障害

単末梢神経障害は、一本の神経が単独で影響を受け、その神経が支配する部分にしびれや痛みが起こるものです。たとえば、顔面神経が影響を受けて顔の筋肉を動かしにくくなったり、動眼神経が影響を受けて、一方の目が開かなくなったりする症状がみられます。

糖尿病の人が末梢神経障害になる原因とは?

糖尿病で末梢神経障害が起こる仕組みは完全に解明されているわけではありませんが、糖尿病によって血管がダメージを受けることが発端ではないかと考えられています。

そのほか、アルコールの過剰摂取やビタミンの欠乏、有毒物質による中毒、全身の代謝異常、遺伝などが末梢神経障害を引き起こす原因になります。これらは多発性末梢神経障害を引き起こす原因になります。

そして、ストレスも大きな原因の一つです。自律神経は交感神経と副交感神経のバランスが大切ですが、ストレスによってこの2つのバランスが崩れてしまうことがあります。

糖尿病による末梢神経障害の診断方法は?

糖尿病による末梢神経障害が発症しているかどうかの診断基準として、以下のようなものがあります。

  • 手先・足先に痛みや感覚に違和感がある
  • アキレス腱反射で反応がみられない

上記2つの条件に当てはまる場合、糖尿病による末梢神経障害が疑われます。

アキレス腱反射

アキレス腱反射とは座って足首の力を抜いた状態でアキレス腱を叩くと、ふくらはぎの筋肉が収縮して足が底屈する反射です。
アキレス腱反射は、脊髄から分岐した末梢神経によって引き起こされる反射であり、糖尿病によってこれらの神経にダメージを生じると反射の低下が生じることがあります。

糖尿病の末梢神経障害の治療法は?

糖尿病による末梢神経障害を治すためには、糖尿病の進行を抑えることが大切です。糖尿病性神経障害は、初期の段階から自覚症状が出てくることが多いので、初期の段階で血糖値をできる限り厳密にコントロールできれば、症状を改善することが可能だからです。

血糖値のコントロールに加えて、ビタミン剤(特にビタミンB1、B12など)の投与や、アルドース還元酵素阻害薬なども使われます。このほか、対症療法として神経障害性疼痛治療薬や血流改善薬、整腸剤など、症状に応じて薬が処方されることがあります。また、リハビリやマッサージなどを行うこともあります。

アルドース還元酵素阻害薬

アルドース還元酵素阻害薬は、神経障害を起こす原因物質であるアルドース還元酵素の働きを抑えるために使われる薬です。この酵素の働きを抑えることによって、糖尿病性神経障害の原因と考えられているソルビトールの生成を抑えることができます。

リハビリ

糖尿病が原因の末梢神経障害では、糖尿病の進行を呼ぼするために薬物治療を徹底するだけでなく、食生活や運動習慣の改善を行っていく必要があります。

また、リハビリとしては、障害を受けていない神経の機能をいかに温存するかが重要になりますので、関節を動かす訓練などを行って関節可動域や筋力を維持するように努めましょう。その他にも、指先がしびれるなどの症状がある場合には、緻密な動作を繰り返すリハビリが必要になるケースもあります。

ただし、糖尿病の末梢神経障害は足先の小さな傷などから重篤な感染症を引き起こして足壊疽を発症することも少なくありません。リハビリを行う際には小さな傷であっても怪我には十分注意しましょう。

末梢神経障害を予防するには

糖尿病が原因の末梢神経障害を予防をするためには、血糖値のコントロールが欠かせません。血糖値コントロールは、食事療法、運動療法、薬物療法を組み合わせて行われます。ただし、これらをどのように組み合わせていくかは、症状や合併症の有無などで異なりますので、医師の指導のもと行うようにしましょう。

ただし、末梢神経障害の原因は糖尿病だけではなく、ほかの病気が原因でしびれや痛みが起きていることもあります。原因となる病気を見つけ、それにあった治療を受けるためにも、しびれや麻痺、身体が動かしにくいなど、疑わしい症状があるときは必ず病院で検査してもらいましょう。

おわりに:糖尿病が原因の末梢神経障害は血糖値のコントロールで予防・改善できる

糖尿病が原因の末梢神経障害は、血糖値のコントロールや薬の服用で症状を改善することができます。ただし、糖尿病以外の病気が原因で末梢神経障害が起きることもあります。自己判断で決めずに、病院で検査を受けて、原因に合う治療を受けるようにしましょう。

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