記事監修医師
前田 裕斗 先生
2017/11/10 記事改定日: 2020/1/7
記事改定回数:1回
記事監修医師
前田 裕斗 先生
先天性横隔膜ヘルニアとは、生まれつき横隔膜に穴があいていて、そこから胃や腸などの内臓が胸腔に飛び出し肺を圧迫してします病気です。
この記事では先天性横隔膜ヘルニアの治療や症状などの基礎知識を紹介しています。
先天性横隔膜ヘルニアとは、体内でお腹と胸を境界にある横隔膜という薄い筋肉の膜に生まれつき穴が開いている状態で、この穴から以下の「腹腔内の臓器」が胸腔内に脱出してしまう病気です。
出生前の超音波検査で発見されることが多く、胎児の胸部に本来腹腔内にある腸などの臓器が見られることで診断されます。
臓器が胸腔内に入りこむと、肺が圧迫され肺の低形成を起こします。その程度によって出生後の赤ちゃんの状態が変わるため、妊娠中からMRIや染色体検査を行い詳しく病状を調べます。
一般的に妊娠8~10週頃に横隔膜が形成されますが、その過程で横隔膜に裂孔ができ横隔膜ヘルニアを発症すると考えられています。
レチノイン酸合成経路の障害によって横隔膜の形成段階で形成不全を起こし裂孔が生じるのではないかという説があるものの、完全に立証されたわけではありません。
また、病因遺伝子が関係しているのではないかという説もあります。
先天性横隔膜ヘルニアは単独で起きる場合もありますが、染色体異常との合併率が30%、先天性心疾患との合併率は40%というデータがあり、その他の疾患や症候群、構造以上との合併を起こしている例も多く見られており、まだ解明されていない部分が多い疾患です。
先天性横隔膜ヘルニアは重症度によって症状の現れ方が異なります。
多くは生後24時間以内に肺が圧迫されることによって呼吸困難を引き起こしますが、横隔膜に開いた穴が大きいと生後間もなくの頃から腸管などが肺や心臓を強く圧迫して呼吸困難、徐脈などを引き起こし死に至るケースもあります。
一方、横隔膜に開いた穴が小さい場合は、乳児期には腸管の脱出が生じず無症状の場合もあり、成長とともに腸管などが肺や心臓を圧迫して呼吸困難を引き起こします。また、このようなケースでは嘔吐や腹痛などの腹部症状を訴えるようになることも少なくありません。
赤ちゃんは母親の胎内では胎盤によって酸素が供給されていますが、出生後は肺の低形成のため自発呼吸では酸素供給が十分ではないケースが多く、出生直後から人工呼吸での厳重な呼吸管理が行われます。
赤ちゃんの状態が安定していれば手術を行い横隔膜を修復します。
胸腔内に移動している内臓を腹腔内へ戻し横隔膜を修復しますが、横隔膜の欠損部分が小さければ直接縫合閉鎖を行い、横隔膜の欠損部分が大きければ人口布を用いてパッチ閉鎖を行います。
ただし、手術で横隔膜を修復しても肺の大きさがすぐに戻るわけではないので引き続き厳重な呼吸管理が必要です。
先天性横隔膜ヘルニアは出生前に超音波検査などで発見されることの多い疾患なので、早くから準備をしておくことが大切です。
治療後も症状によっては長期的なケアが必要になることがあります。医療チームに相談しながら、赤ちゃんを見守っていきましょう。