記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/12/5 記事改定日: 2019/3/13
記事改定回数:1回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
高齢者などに多くみられる病変のひとつに、「鼠径ヘルニア(脱腸)」があります。
今回はこの鼠径ヘルニア(脱腸)の自覚症状や治療法、発症リスクの高い人などを解説していきます。治療のタイミングを逃さないよう参考にしてください。
人体でもかなり大きな筋肉である腹直筋には、腹部の臓器を外的な衝撃から守れるほどの強度がありますが、中には構造的に弱い「鼠径管(そけいかん)」という管があります。この鼠径管に張っている腹直筋が緩んでしまい、腹部を満たすガスの圧力を支えきれず腸などを伴って鼠径管が出てきてしまうのが、鼠径ヘルニア(脱腸)です。
鼠径ヘルニアは、肉眼的には鼠径部に出来た皮下腫瘤のように見えますが、これは腸の一端です。なお、鼠径ヘルニアは病態によって、「外鼠径ヘルニア」「内鼠径ヘルニア」「大腿ヘルニア」の3種類に分類されます。
鼠径ヘルニアにはこれと言って特徴的な症状はなく、多少の違和感や不快感を感じる、といった程度に症状は留まります。見た目が少し不思議に見えてしまう点を除けば、概ね自覚症状はなく急速に悪化することもありません。
ただ、脱腸によって腸の内容物が通過障害を来たすだけでなく、腸そのものが狭い管腔構造内に押し込められることによって捻じれ、虚血になってしまう恐れがあります。
こうなった場合は激痛を伴います。腸は非常に虚血に弱い臓器であり、ものの数分虚血状態が持続した程度で腐ってしまいます。その過程で激痛を生じるのですが、この症状が現れた場合は緊急手術を要します。
以下のような症状や身体の変化が見られた場合は、なるべく早く病院を受診して適切な処置を受けるようにしましょう。
鼠径ヘルニアによって、腹部の臓器を腹腔内にとどめておけなくなってしまう最大の原因は、筋力の低下です。そのため、筋力の弱い子供や高齢者に鼠径ヘルニアの患者は多い傾向があります。
また、排便の際の力みや、女性であれば分娩時のいきみなどお腹に力を込めて踏ん張る癖のある方も、筋肉が耐えきれる強度を上回った圧が腹壁にかかるため、ヘルニアを形成する可能性があります。この場合、健康で筋力に問題のない若い人でもヘルニアになってしまうことがあります。
鼠径ヘルニアの治療は原則外科手術です。普段は脱腸の症状についてそこまで自覚することはありませんが、鼠径管や大腿輪を通ってはみ出した腸が捻じれて戻れなくなった場合、虚血となって激痛を伴い命の危機に直面することになります。そうならないように予めヘルニアの治療を行っておく必要があります。
ただ、鼠径ヘルニアになってしまった人の多くは筋力が弱まっているため、ただ腹腔に腸を戻してもまた腹圧に押されてはみ出してくる可能性があります。そのため、ガーゼのような人工物を腹壁の弱いところに合わせることで強度を補強する治療が行われることもあります。
どの治療方法がとられるかは年齢や原因、状態によって変わってきます。また、合併症のリスクは少ないとされていますが、再発のリスクや治療後に気をつけなければいけないこともあります。治療内容などは事前に説明をしてもらい、納得したうえで治療を受けるようにしましょう。
鼠径ヘルニアは初期の頃はそこまで支障はないものの、悪化すると激痛や虚血症状に発展することがあります。症状が出たときには緊急手術が必要になることも多いので、太ももの付け根に膨らみがある人や下腹部に差し込む痛みがあるひとは、早めに病院へ相談しましょう。
鼠径ヘルニアの主な原因は筋力の低下ですが、若い方でも排便時などの過度の力みが原因で、脱腸してしまうケースもあるとされているので注意してください。