記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
糖尿病の三大合併症のひとつである「糖尿病神経障害」。足の壊疽にもつながる恐れのある重大な症状ですが、糖尿病神経障害かどうかを調べるにはどうすればいいのでしょうか?検査や治療方法をご紹介します。
糖尿病は血糖値が異常に高くなる病気ですが、この病気の恐ろしいところは合併症が起こりやすいということです。糖尿病の三大合併症といわれているものは糖尿病神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症です。これらは個々によって起こる合併症は違いますが、一般的には糖尿病を発症してから数年を経過した後に糖尿病神経障害が起こることが多いです。それから糖尿病性網膜症が起こり、最後に糖尿病性腎症が起こるといった流れになります。
そして糖尿病神経障害は高血糖の状態が長く続くことで、最初は手足のしびれや痛みという症状があらわれます。徐々に自律神経系の症状が出てきて勃起不全、立ちくらみ、発汗障害、便秘などが起こります。さらに重症化した時には足の壊疽といったことが起こることもあります。神経症状は多様な症状を持つため、個人によってかなり症状には差があります。糖尿病神経障害は多くの糖尿病の患者さんが体験するもので、合併症の中では最も頻度が高くなります。
糖尿病神経障害の検査方法には、以下のようなものがあります。
まずひとつは腱反射テストです。ゴムのハンマーでアキレス腱や膝の下を叩いて反射をみます。ほかに、振動を起こした音叉をのせて振動の感じ方を調べる振動覚検査や、皮膚を細長い繊維で軽くつついて、つついた感じがわかったかどうかを調べる知覚検査などがあります。
神経伝導検査とは、刺激を与え、それがその後神経に伝わる時の波の大きさや早さをみる検査です。電気的な動きを調べる特殊な検査で、客観的なデータとして神経の状態を把握できます。
心電図を取りながら呼吸による心拍の変動を調べるのが心拍変動検査です。自律神経に障害が起こってくると、呼吸による心拍の変動が少なくなるので、それがあるかどうかを見ます。これも客観的なデータとなります。
他には足の動脈拍動のチェックをして血液の循環がスムーズにいっているかを確認したり、超音波検査で足の血液の流れを見たりすることがあります。
糖尿病はそれだけで怖い病気ですが、合併症を起こすことでさらに体への被害が大きくなります。糖尿病神経障害は、血液中の血糖値が高い状態が続いたために自律神経に障害が起こり、しびれが起こるだけでなく痛みを感じにくくなったり、熱さがわかりにくくなったりします。
糖尿病性神経障害を起こしていると気付かずにいつも通りの生活をしていると、足の先に靴ずれなどの傷があっても痛みを感じづらいため、いつの間にか傷が悪化して化膿していたという事態に陥ることがあります。そこから感染がひどくなり壊疽を起こしてしまうと、壊疽を起こした部位は切除しなくてはいけなくなります。
また、痛みだけでなく温度も感じづらくなるため、低温やけどを起こしやすくなります。通常なら異常な熱さを感じた時点で皮膚から離しますが、熱さを感じにくくなっているとそのまま皮膚に当て続けてしまうことで低温やけどを起こします。そこから感染を起こし足の切断をするということもあります。
糖尿病神経障害は、重度でない限り、血糖コントロールでの回復が望めます。神経細胞内に蓄積したソルビトールを除去し、血流をよくして神経細胞へ酸素や栄養が届くようにするには、血糖コントロールの改善が欠かせません。
なお、糖尿病神経障害の治療では、血糖コントロールに加え、神経障害による痺れなどを緩和するアルドース還元酵素阻害薬などによる薬物治療が行われます。日本ではエパルレスタット®という薬が認可されており、症状が中等度以下かつ罹患期間が3年以内の患者さんに有用性が認められています。
糖尿病神経障害を発症すると、手足の感覚が鈍くなることで、足の壊疽を引き起こすリスクがあり、重度になると治療も難しくなります。糖尿病神経障害かどうかはさまざまな検査方法で調べることができるので、糖尿病患者さんは定期的に検査を受けるようにしましょう。