記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/12/26
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
非常に有名な感染症である「エイズ」ですが、エイズを引き起こすウイルス「HIV」は主に性感染によって広がっていくと認識されています。では、母子感染の可能性はあるのでしょうか?
エイズとHIVはしばしば混同されますが、HIVはヒト免疫不全ウイルスというウイルスのことで、エイズは後天性免疫不全症候群という病気のことです。HIVに感染すると急性感染期から無症候期、エイズ発症期というステージへ進んでいきます。
まずHIVに感染すると、2週間ぐらいでウイルスが体内で急激に増えていくのですが、ウイルスの増殖を抑え込もうとする免疫反応によって発熱や喉の痛み、リンパ節の腫れなど風邪のような症状が出ます。これが急性感染期です。
この急性感染期を過ぎると、ウイルスの量は増えも減りもしない、特に症状が出ない無症候期となります。無症候期は症状が無いですが、HIVによる免疫機能の破壊は続いており、免疫系のダメージが蓄積されて免疫不全レベルにまで達するとエイズ発症となります。
エイズを発症するといろんな病原体による感染症などにかかりやすくなり、早い人では2年ほどで死亡すると言われています。
HIVの感染経路はほとんどが性行為によるものです。HIVは血液や精液、腟分泌液に多く含まれていますが、性行為はこれらの感染源と濃厚に接触します。なお、男女の性行為だけではなく、男性同士の性行為による感染者も多く存在します。
ほかに、血液感染という感染経路もあります。具体的には、HIVが含まれた血液が輸血された時や注射器のまわし打ちによって起こります。日本では献血された血液は厳重に検査されていますが、感染の可能性はゼロではありません。
そして、母親から赤ちゃんへの母子感染も感染経路のひとつです。最近では妊婦健診時に積極的にHIV検査が行われていますが、もし気付かないまま、または適切な治療を受けずに出産すると、子宮内で感染する子宮内感染や出産の際に産道で母体の血液にふれる事で起こる産道感染、母親から与えられる母乳を飲む事によって感染する母乳感染などのリスクが高まります。
母子感染の予防をするには、まず妊婦健診時に検査を受ける事です。もしこの時点で感染している事がわかっても、早い段階で適切な治療を受けていれば母子感染を防ぐ事も出来ます。
まず子宮内感染を防ぐには、妊娠14〜34週の間に抗レトロウイルス薬を投与します。これはHIVウイルスが免疫細胞のなかで増殖するのを抑える薬で、母子感染の危険性を低くする効果があります。ただし飲み忘れると効き目が無くなるため、毎日必ず服用するようにします。
また母子感染の中でも最も危険性が高いのが産道感染のため、HIVキャリアの女性が出産する際は、普通分娩ではなく陣痛前の帝王切開が望ましいです。分娩の際にも抗レトロウイルス薬を使うことで感染の危険を減らす事が出来ます。
そして母乳からの感染を予防するには、断乳して粉ミルクを使う事です。また、生まれてきた赤ちゃんにも抗HIV薬を数週間飲ませる事になり、出生48時間以内と2週間後、2ヵ月後、3~6ヵ月後に検査をして感染の有無を確認します。この4回の検査で陰性であれば、ほとんど感染の可能性はありませんが、最終診断は1歳6ヵ月時点で行われます。
「HIV=性感染症」というイメージを持っている方は非常に多いですが、HIVは母子感染によって赤ちゃんに感染する可能性もあります。自分では感染に気づいていないケースも少なくありませんが、感染を防ぐには妊婦検診にてHIV検査を行い、感染しているかどうかを確認することが非常に重要です。