記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/1/10 記事改定日: 2020/8/20
記事改定回数:2回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
重症筋無力症とは、何らかの原因で筋肉と神経のつなぎ目にある受容体が壊れ、筋肉が動かなくなくなる難病です。症状が悪化すると、呼吸筋が麻痺して「クリーゼ」に発展します。この記事では重症筋無力症によって起こるクリーゼについて、原因や対処法を解説しています。
重症筋無力症は、末梢神経と筋肉の接ぎ目において、筋肉側の受容体が自己抗体により破壊されることで発症する自己免疫疾患です。
全身の筋力低下、疲れやすさが現れ、特に眼瞼下垂、複視などの眼の症状をおこしやすいことが特徴です。
眼の症状だけの場合は眼筋型とよび全体の20%を占めます。全身の症状があるものを全身型とよびます。嚥下困難を伴うこともあります。
クリーゼとは、全身の筋肉が急激に麻痺し、特に呼吸筋麻痺のため呼吸困難に陥る症状です。
人工呼吸器による呼吸管理が必要となる場合もあり、下記のような症状が出現することもあります。
また後述するコリン作動性クリーゼの場合は、呼吸不全に加えて、顔面蒼白、発汗、不穏、嘔吐、下痢尿意頻回などの症状も現れます。
重症筋無力症の患者が経過中にクリーゼを経験する症例は11~15%とされています。診断確定2年以内に生じやすく、高齢者や若年女性、嚥下障害を有する患者、胸腺腫合併例で多発するといわれています。
クリーゼには、病気自体が悪化したときに起こる「筋無力性クリーゼ」と、治療に用いられる抗コリンエステラーゼ剤の過剰服用でおこる「コリン作動性クリーゼ」があります。
感染症(特に上気道・呼吸器感染症)が多く、妊娠・出産などのほか疲労やストレスも一因となります。その他、症状の悪化やコントロール不良、胸腺摘除の手術後、なども原因になることがあります。
ピリドスチグミンやアンベノニウムといった抗コリンエステラーゼ剤の過剰摂取が原因となります。
クリーゼになってしまうと生命の危険があります。クリーゼの対処法として、気管挿管と人工呼吸器管理を行ったあと、血液浄化療法を行う必要があります。
適切なタイミングで適切な対処をすれば十分に間に合うので、患者と家族は、日ごろから気道確保などの対処法を学び、救急車を呼ぶ準備もしておきましょう。
もちろん、クリーゼにならないようにすることと、クリーゼになる前の段階で病院を受診することも重要になってきます。
抗コリンエステラーゼ剤の服薬は医師の指示に従い用量用法を守り、日ごろから睡眠をよくとり、無理のない規則的な生活を心がけて予防に努めましょう。
そして体調に変化を感じたら、悪化しないうちに早めに病院へ行くようにしてください。
重症筋無力症のクリーゼは上で述べたような重篤な症状を引き起こし、対処が遅れると死に至るケースもあります。そのような事態を予防するためにも、クリーゼの前兆を素早く感知し、できるだけ早く病院で治療を受けることが大切です。
クリーゼの前兆症状には次のようなものがありますので、当てはまる項目がある場合は早急に病院を受診しましょう。
重症筋無力症は、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返す病気です。症状を悪化させないためには、日ごろから十分な睡眠をとる、栄養バランスの良い食事を摂る、ストレスをためない、など生活習慣を整えていく必要があります。
特に、上でも述べたように症状が急激に悪化するクリーゼは感染症や外傷、強いストレスなどによって引き起こされることがあります。
クリーゼを予防するには、手洗いやマスク着用など基本的な感染対策を徹底して体調管理を行うことが大切です。また、物が二重に見えるなど「目の症状」がある場合は転倒など思わぬ怪我をすることがあります。クリーゼの原因にもなり得ますので、周囲の段差に注意したり床を整理したりすることでケガをしにくい環境を整えましょう。
その他にも、重症筋無力症は物を飲み込む筋力が低下することでむせこみやすくなります。誤嚥は肺炎を引き起こすこともあるため、物の飲み込みにくさがある場合は汁物や飲み物にとろみをつける、食材を柔らかく調理するなどの工夫も大切です。
クリーゼは、人工呼吸器による呼吸管理を要する重症筋無力症の重篤な症状の1つです。
薬品の過剰摂取など発症には原因があることから、原因を理解したうえで予防に努めることをおすすめします。対処法も学んでおき、いざという場合に落ち着いて行動できるようにしましょう。