睡眠相後退症候群はどうやったら治せるの?

2018/1/15 記事改定日: 2019/1/28
記事改定回数:1回

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

睡眠相後退症候群とは、体内リズムが乱れてしまうことで起こる睡眠障害です。
定刻出社や登校ができなくなってしまうため、社会的なトラブルを抱えることも多く、心の問題に発展するケースも少なくありません。
この記事では、睡眠相後退症候群の原因と治療方法について解説していきます。

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睡眠相後退症候群の原因とは?

睡眠相後退症候群は、睡眠の時間帯や睡眠リズムに関する睡眠障害(概日リズム睡眠障害)の一種で、社会的に望ましい時刻の入眠および覚醒が慢性的に難しくなってしまう病気です。
一般的には、午前3時~6時になってやっと寝つき正午過ぎに起床する「遅寝遅起」になってしまいます。
当然定刻に登校や出社ができなくなってしまうので、休学や退職を余儀なくされることも多く、社会生活上の問題を抱えることになりがちです。

原因

原因ははっきりしていませんが、睡眠相後退症候群の人のの体内時計の状態を調べると、体温やホルモンのリズムが一般の人より3~4時間遅れている傾向があるといわれています。

この状態だと睡眠をとる時間が常に遅い時間帯になってしまうため、日中の行動や心理状態と関わりなく朝方まで入眠できなくなってしまいます。
必要な睡眠時間はいつも変わらない状態のため、いったん入眠すると遅い時刻まで寝入ってしまい起きられなくなってしまうのです。

ちなみに10~20代に多いとされますが、これは夏休みなどの長い休暇や受験勉強などによる昼夜逆転の生活が発症の誘因と考えられています。

睡眠相後退症候群は心にどんな影響がある?

睡眠相後退症候群の一因は慢性的な睡眠不足にあります。

連日の睡眠不足が続くと、脳の左扁桃体という部分の活動が増大する一方で、抑制する別の部分がうまく連動せず、効果的に調節できなくなります。するとネガティブな側面が抑止できず、不安・抑うつ傾向が強まります。

実際の生活でも、仕事や学業の関係で無理に午前中に起床すると、頭痛、食欲不振、頭の重さ、眠気などの症状に悩まされることになり、抑うつ状態に陥りやすいといわれています。

また、ひどく落ち込んだかと思えばテンションが高い状態に一転するといった「気分の波」に襲われがちです。
この両極端な状態が混じり合う状態は、気分変調症や双極性障害という病名で呼ばれることもあります。

発達障害との関係性

アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)の脳の発達障害がある場合は、睡眠障害のリスクが高くなるといわれています。

発達障害そのものはそれぞれの人の脳の個性ですが、上記したような抑うつや気分の波が合併している場合は、それを治療することでリズム障害も改善する場合があると考えられています。

睡眠相後退症候群は、どうやって治療するの?

睡眠相後退症候群治療では、高照度光療法や時間療法などで生体リズムの正常化を混目指します。

高照度光療法

高照度光療法とは、太陽光などの強い光を身体に当てることで、崩れた体内時計を整える治療法です。
朝30分から90分の10,000ルクスの光を浴びることで、眠気を誘発するメラトニンの分泌を抑え、睡眠から覚醒への切り替えをしやすくなるようにしていきます。

時間療法

時間療法は、ずれてしまった体内時計を少しずつに正常な方向へずらしていき、目標の時刻に起床、入眠できるようにしていく治療方法です。

ただ、眠りにつく時間や起きる時間を早くするのではなく、反対に毎日少しずつ寝る時間を遅くしていくことで体内リズムを後退させ、自分が希望する生活リズムになったところで体内時計を固定します。

これは、睡眠相後退症候群の人は朝早く起きることは困難でも遅く寝ることは比較的容易な傾向があるからです。

間違った方法で行ってしまうと、体内時計の機能が一層崩れてしまい、症状が悪化したりほかの睡眠障害を併発する恐れもあります。
時間療法は必ず専門の医療機関で受けるようにしましょう。自己流で行うことは絶対にしないでください。

薬での治療

睡眠相後退症候群では、メラトニンが第一に使用されます。メラトニンとは睡眠を誘発するホルモンの一種であり、睡眠相後退症候群はメラトニンの分泌不足が発症の引き金になると考えられているため、不足したメラトニンを補うことで正常な睡眠リズムに補正する効果が期待できるのです。

その他にも、睡眠薬が使用されることがありますが、従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬では効果がないことが多く、メラトニン受容体作動薬などが主に使用されます。また、神経の興奮を抑える抗アドレナリン作動薬や抗うつ薬、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬などが併用されることもあります。

日常生活のなかでできる対策はある?

睡眠相後退症候群の治療は基本的に担当医の指示に従って進めていくことが大切です。特に、薬物療法は人によってそれぞれの薬剤の効果が異なるため、その人に合った組み合わせや量などを試行錯誤しながら見つけていくことになります。このため、自己判断での中断や増量は危険ですので控えましょう。

また、日常生活では就寝・起床時間を整える、ストレスや疲れを溜めない、食生活の内容やリズムを整えるなどの対策によって治療効果が高まることもあります。治療と並行して日常生活の改善も心がけるようにしましょう。

おわりに:深刻な心の問題を抱えることになる前に早めに医師に相談してみよう!

睡眠相後退症候群は、その認知度の低さから、周囲も自分も気がつかないまま不自由な日々を過ごすことになりがちです。しかし病気が長引くと、抑うつ状態などを引き起こす結果にもつながります。

長期化して深刻な心の問題に発展してしまわないように、早めに専門医に相談して適切な治療を始めるようにしましょう。

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