糖尿病性神経障害による自律神経障害はなぜ起こる?

2018/1/16 記事改定日: 2018/4/6
記事改定回数:1回

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

糖尿病が原因で生じる神経障害を「糖尿病性神経障害」といいます。
糖尿病性神経障害は「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」と並んで糖尿病の3大合併症といわれ、最も頻度が高く症状も早期にあらわれる病気です。
この記事では、糖尿病性神経障害によって起こる「自律神経障害」について解説します。

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糖尿病性神経障害によって自律神経障害が引き起こされるのはなぜ?

糖尿病神経障害がなぜ起こるかは、現段階では明確になっていません。
高血糖の状態が続くと「ソルビトール」という障害を起こす原因となる物質が神経細胞に蓄積する結果、神経線維に異常が生じて感覚が鈍くなったり、麻痺が起こるのではないかといわれています。
また、高血糖によって毛細血管の血流が悪くなり、神経細胞に必要な酸素や栄養が不足するために起こるという説もあります。

末梢神経には、感覚神経や運動神経、自律神経があり、触覚や痛覚、手足の動作、言語、発汗、体温調節などの役割を果たしていますが、糖尿病は身体の至る所に張り巡らされている細い末梢神経を侵します。
そのため、糖尿病によって末梢神経に障害が起こると自律神経にも影響が及び、自律神経障害が起こるのです。

糖尿病性神経障害による自律神経障害の症状

自律神経は内臓の活動、発汗による体温調節、血圧の維持など、ヒトが生きていくために必要なさまざまな機能を調節しています。
そのため、自律神経が障害されて上記のような調節ができなくなると以下のような症状がみられます。

  • 下痢や便秘
  • 不整脈
  • 発汗異常(からだの一部分だけに異常に汗をかいたり、汗をかかなくなったりする)
  • 無緊張膀胱(お腹がふくれるくらい尿がたまっても尿意を感じないために排尿ができない症状)
  • 起立性低血圧(立ちくらみ)
  • 勃起障害など

糖尿病性神経障害による自律神経障害の検査方法

糖尿病性神経障害による自律神経障害の疑いがあれば、その症状が本当に神経障害によるものなのか、あるいは別の病気によるものなのかを確定するために、障害が出る可能性のある多数の項目について詳しい検査を受ける必要があります。
具体的には、以下のような検査方法があります。

〈末梢神経伝導速度〉

末梢神経による刺激の伝わる速度を測定する検査です。
神経障害になると刺激の伝わり方が遅くなるので、腕にある正中神経の運動神経伝導速度が50m/秒以下、感覚神経伝導速度が45m/秒以下の場合は、自覚症状がでていなくても神経障害が始まっていると判断できます。

〈アキレス腱反射〉

アキレス腱反射は神経の刺激の伝達能力を確かめる検査で、神経障害を調べる検査で最も手軽に行うことができます。
ベッドに立ちひざで座って足首部分をベッドの外に出して楽にした状態が、椅子に腰掛けるなどして足首をぶらぶらと垂らした状態で、アキレス腱の部分を診断用のハンマーで軽くたたき、反射的に筋肉が収縮して関節が動くかどうかを調べます。

アキレス腱反射は糖尿病性神経障害を発症した早い段階で低下または消失することから、外来で定期的に検査することが大切です。

〈呼吸心拍変動係数〉

呼吸心拍変動係数は自律神経の働きを調べるのに有効な検査で、安静時と深呼吸をした時の心電図を比較して、脈拍に変動があるかどうかを調べます。
正常な人は深呼吸をしたときに脈拍の変動が大きくなりますが、自律神経に障害が起きるとこの変動が少なくなります。

糖尿病性神経障害による自律神経障害は治療できる?

神経障害の治療の基本は「神経細胞内に蓄積したソルビトールを取り除くこと」と、「血液の流れをよくして神経細胞へ酸素や栄養が行くようにすること」です。

〈1〉血糖値コントロールを忘れずに

糖尿病性神経障害はコントロールをきちんと行えば、重症でない限り改善できる可能性が高いです。
そのためには、血糖値を管理して正常値に近づける必要があります。

〈2〉薬物療法

神経障害の治療には神経障害を起こしている原因物質とされるソルビトールの産生を抑える「アルドース還元酵素阻害薬」が使われることが多いです。
結果的に症状は改善されますが、治療を始めると一時的に痛みが悪化することがあります(これは治療後神経障害といわれ原因はまだわかっていません)。
治療の途中で一時的に症状が悪化することがあるということを理解し、痛みが悪化した場合でも自己判断で治療を中止せずに医師に相談するようにしてください。

治療には「アルドース還元酵素阻害薬」の他、症状に応じて鎮痛薬や抗うつ薬、血圧を上げる薬、胃腸の活動を整える薬などが用いられます。

おわりに:糖尿病は自律神経障害などの神経障害を引き起こすこともある!

糖尿病は、進行すると自律神経障害などの神経障害を招く危険性があり、私たちの体の体温調節や発汗、排尿など、生きるうえで大切な役割を担っている自律神経にも影響して自律神経障害を引き起こす可能性もあります。
糖尿病神経障害が疑われたら、早い段階で治療をはじめて重症化を防ぐようにしましょう。

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