記事監修医師
東京都内大学病院眼科勤務医
渡辺 先生
2018/1/22
記事監修医師
東京都内大学病院眼科勤務医
渡辺 先生
網膜静脈閉塞症とは、何らかの原因で網膜の静脈が詰まってしまうことで起こる目の病気です。視野欠損や視力低下などの症状が現れ、合併症に発展すると失明するおそれもあります。この記事では、網膜静脈閉塞症の治療と合併症のリスクについて解説しています。
網膜静脈閉塞症とは、その名の通り網膜を流れる静脈が閉塞し、血液が流れなくなることで起きる病気です。血圧が高い方で、眼底出血がある場合、まずこの疾患が疑われます。急激な視力低下や、突然の視野障害が代表的な症状です。
網膜は、眼の一番奥にある厚さ0.2ミリの薄い膜です。眼で受け取る光などの情報は、瞳孔や硝子体を通って、網膜に届きます。網膜には光や色を感知する視細胞があり、光の情報を電気信号に変換する重要な役割があります。この網膜全体に分布する血管が網膜静脈です。
網膜静脈の根元が閉塞した場合は、網膜中心静脈閉塞症となり、網膜全体に出血が起こります。静脈の枝分かれした部分が閉塞すると、網膜静脈分枝閉塞症となり、網膜の限られた部分に出血が起こります。静脈の根元に近ければ近いほど、症状は重くなります。
網膜中心静脈閉塞症では眼底全体に出血や浮腫が起き、急激な視力低下が起きます、特徴的なのが、突然視力低下が起きることで、症状の発症時期がはっきりしていることが多数です。
網膜静脈分枝閉塞症では、閉塞している部分が黄斑という、網膜の中で最も感度の高い部分に及んでいなければ視力低下はおきません。その代わり、出血が起きている部分の視野が欠損することがあります。出血が起きている部分により、上の方や下のほうなど、部分的に見えなくなるところがあり、気づくことが多いようです。末端の静脈が詰まり、出血が狭い範囲に限られている場合は、まったく気づかないこともあります。
網膜静脈閉塞症が起きた場合、まずは閉塞した血管の血流を再開させるための治療を行います。血栓を溶解させる薬の投与や、網膜の循環を改善させる薬を使い、血管に血流を再開させていきます。完全に閉塞してしまっている場合は難しいですが、閉塞が不完全な場合は効果が期待できる治療法です。
眼底出血や網膜浮腫を抑えるため、レーザー光を使用するのが網膜光凝固です。浮腫が起きている部分にレーザー光を当てて凝固させることで、網膜内に溜まった血液成分が吸収され、浮腫の改善につながります。血管新生緑内障などの合併症を防ぐ効果もあるとされています。
副腎皮質ステロイドホルモン剤を眼球に注射する治療もあります。黄斑のむくみを治療する、本来の血管ではない異常な血管が形成される新生血管を抑える薬剤を眼球に投与することも行われます。最近では、硝子体を切除する手術によっても黄斑の浮腫が吸収され、視力の改善が得られることもあります。
網膜静脈閉塞症をおこすと、発症後3カ月から1年以上経った後に、合併症が起きることが多くあります。網膜静脈閉塞症の合併症は次の3つです。
硝子体とは、網膜の内側にある、無色透明の組織です。眼球内部の大部分は硝子体が占めています。網膜静脈が閉塞し、末梢側の毛細血管が消失してしまうと、そこは血管の存在しない無血管野となります。すると、本来存在しない、異常な血管が発生します。これが新生血管です。
この新生血管は硝子体にも伸びていきます。新生血管は、大変もろくて破れやすいため、簡単に出血が起こります。新生血管からの出血が硝子体内に広がると硝子体が血で濁り、物が見えにくくなってしまうのです。網膜内の無血管野が広いほど起こりやすいとされる合併症です。
緑内障とは、眼の中にある房水という水が増えすぎて眼圧が高くなり、視神経が圧迫されることで発症します。視野が狭くなったり、ときには失明することもある病気です。硝子体出血を引き起こす新生血管は、眼球の前方にも伸びてしまいます。伸びた新生血管が、房水の流出口である隅角という部分をふさぎ、眼圧を上昇させて起こるのが新生血管緑内障です。通常の緑内障よりも治療が難しく、失明の危険性が高いという特徴があります。
網膜剥離とは、網膜色素上皮層という部分がはがれてしまった状態のことです。網膜剥離が生じると、網膜細胞に栄養が届かず、ダメージを受けてしまいます。硝子体へと伸びた新生血管は、網膜と硝子体の癒着を起こします。硝子体が収縮すると、癒着した網膜が硝子体に引っ張られます。網膜の中でも無血管野になった部分は通常よりももろくなっており、硝子体に引っ張られることで穴ができてしまいます。この穴から網膜の裏側に水分が流れ込むことで、網膜剥離が発生してしまうのです。
網膜静脈閉塞症の合併症を防ぐには網膜の無血管野の酸素や栄養を減らし、新生血管の発生を減らすことが重要です。レーザー光を無血管野に当てて、酸素や栄養の必要量を減らしたり、網膜循環改善薬を使用していきます。検査によって新生血管が発生しそうなところを早めに発見し、凝固させていくことで合併症を防ぐことができます。
網膜静脈閉塞症は、急性期の視力低下や視野欠損だけでなく、その後の合併症の危険もある恐ろしい病気です。網膜静脈閉塞症を引き起こす原因は、動脈硬化や高血圧などで、生活習慣が大きく関わっています。まずは塩分の少ないバランスの取れた食事や、適切な運動をすることで、網膜静脈閉塞症を防いでいきましょう。