広場恐怖症の治療に有効とされる「曝露療法」とは?

2018/1/19

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

広場恐怖症とは、バスや電車などの中や人ごみの多い空間などにいることに強い恐怖や不安を感じてしまう不安症です。治療法はいくつかありますが、曝露療法で改善がみられるケースが多いといわれています。この記事では広場恐怖症の曝露療法について解説しています。

広場恐怖症はどんな病気?

広場恐怖症は不安症の一種であり、特定の「状況」や「認知」に対して恐怖や不安を抱き、その場を回避したくなる障害です。

広場恐怖症が起こりやすい状況として、たとえば、バスや飛行機の中、駐車場や市場などの広い空間や劇場などの閉鎖された空間にいるとき、レジで列に並ぶとき、人ごみの中にいるとき、劇場や教室の長い列の中央の席に座るとき、などが挙げられます。
広場恐怖症の多くは、これらの状況のなかで公衆の前で倒れ、孤立無援になることを想像してしまうことで恐怖に襲われます。年代によっても異なり、子供は家の中に一人でいるときも恐怖を感じること多い一方、高齢者は店にいたり、列に並んでいたり、囲いのない場所にいる状況で最も恐怖を感じるケースが多いといわれています。

広場恐怖症は治療できるの?

 

広場恐怖症の主な治療法としては、曝露療法や認知行動療法、薬物療法(抗うつ薬の選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が挙げられます。

広場恐怖症を治療せずにいると、多くは悪化と改善を繰り返すことになります。治療しない限り、完全な寛解はまれ(10%)で、より重度の場合は完全寛解率が減少し、再発率と慢性化率が増加するといわれています。
もっとも、正式な治療なしで快方に向かったり症状が消失したりするケースもないわけではありません。これは、患者が個人的に自己流の曝露療法を行ったため改善がみられたと考えられています。

曝露療法について

曝露療法の原理とは、「曝露されている状況に次第に慣れていくこと」、「繰り返し曝露されることで不安を小さくしていくこと」の2点を通し、不安を改善していく治療法です。
曝露療法ではSUD(Subjective Unit of Distress:主観的不安尺度)という表し方を用い、最も強い不安を100点として、不安の程度を相対的に点数化していきます。点数にするのは、不安が軽減していくプロセスを可視化するためです。そして、取り組みやすいものから曝露する経験を重ねていき、不安の点数の変化と不安の性質を理解するしていきます。

治療のアプローチが定まったら、曝露反応妨害法を進めていきます。
まず不安階層表というものを作り、上記のSUDを使って、日常生活で不安に思うことを100点満点で点数づけします。
そして、不安階層表をもとに、できそうな段階から不安に立ち向かっていくようにしていきます。すなわち不安に身を任せて、安全行動をとらないように我慢するのです。曝露された直後の点数をつけてもらい、15分以上たってからの不安の点数を再度つけてもらいます。これによって、不安は慣れていくものだという実感が得られます。
行動ができない人は、まずは想像から始めていきます。不安なシチュエーションをイメージして、そのイメージを持ち続けていくことで不安に慣れていきます。

このように曝露療法は、苦手なものにチャレンジして克服していく必要がある治療です。
患者がモチベーションを維持していくために大切なことは「褒めること」です。その他、「治療者がモデルになる」、「自分の行動を記録する(セルフモニタリング)」、「動作をともなった確認をする(たとえば、鍵がかかったことを指さし確認することで、さらなる確認行動を我慢しやすくする)」、「薬物療法を併用しながら治療を進める」といった点が、曝露療法を効果的に進める方法として挙げられます。

おわりに:正しい知識を得て、周囲の人のサポートのもとで治療を行おう

曝露療法を忠実に行った場合は、90%以上で効果がみられるという報告もあることから、広場恐怖症において曝露療法は有効な治療法といえるでしょう。専門医の協力と助言を得ながら、周囲の人が患者を支えていくことも治療の継続にもつながります。曝露療法の原理と流れをよく理解したうえで治療に取り組んでいきましょう。

厚生労働省 の情報をもとに編集して作成 】

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