記事監修医師
日本赤十字社医療センター、歯科・口腔外科
川俣 綾 先生
2018/2/16 記事改定日: 2018/3/9
記事改定回数:1回
記事監修医師
日本赤十字社医療センター、歯科・口腔外科
川俣 綾 先生
「歯周病は歯の病気。生活習慣病である糖尿病と、いったいどんな関係があるの?」と疑問に思われるかもしれません。でも、実は糖尿病と歯周病との間にはつながりがあるのです。この記事では、両者にどのようなつながりがあるのかとともに、歯周病の治療・予防法についても解説します。
歯周病は、細菌感染が原因で発症する炎症性の疾患です。進行すると最終的に歯を失ってしまう病気です。歯周病は40歳以上の方のうち、半数以上に認められる症状で、年齢と共に増加します。
以下の症状のうち、該当するものが複数あると、歯周病を発症している可能性があります。
・歯を磨いているときに出血する
・朝起きたときに、歯ぐきに違和感がある
・歯ぐきが下がって、歯が長く見えるようになった
・歯の揺れを感じることがある
・「口が臭い」と言われた
歯周病の原因は「プラーク」です。プラークとは、歯の表面に付着している粘着性の物質です。プラークの中に、虫歯菌や歯周病菌などが生息しています。プラークが増えると、虫歯や歯周病を発症したり、口臭の原因になったりします。
プラークに含まれる歯周病菌が、歯周ポケット(歯と歯ぐきのすき間)の中に入り込んでしまうと、その中で歯周病菌が増殖し、歯ぐきが炎症を起こします。この炎症がひどくなると、歯を支えている骨を溶かし、最終的には歯が抜けてしまうのです。
プラークは、水やマウスウォッシュで口をすすぐだけでは取り除くことができませんが、歯ブラシで丁寧にブラッシングすれば、取り除くことができます。このため、歯周病予防では毎日の正しい歯磨きがとても重要です。
歯周病と糖尿病との間には、一見何の関係もないように思えますが、実は両者は深く影響し合っています。
糖尿病発症すると、血糖値が高い状態が続くため、体の防御反応が低下して感染症にかかりやすくなります。歯周病は細菌感染が原因で発症するため、糖尿病を発症すると歯周病を発症するリスクが高くなると言われています。また、高血糖状態が続くと歯ぐきの血管が傷んでしまうため、歯周病が進行しやすくなるのです。
歯周病を発症すると、歯ぐきの中で炎症性の物質が作られるようになります。この物質が血液に入ると、血糖値を下げるインスリンの働きを妨げます。このため、糖尿病を発症・進行しやすくなるのです。
歯周病を治療するためには、プラークをしっかりと取り除くことが重要です。歯医者さんに行くと、スケーラーと呼ばれる専用の道具を使って、歯周ポケットに付着しているプラークや歯石(しせき)を取り除いてくれます。また、毎日の歯磨きを通して、自分でプラークを取り除けるよう、磨き方の指導も行われます。
歯石とは死んだ細胞の塊です。歯石そのものは、歯周病の直接の原因になるわけではありません。しかし、歯石の表面にプラークが付着しやすいため、放置するとプラークがたまりやすい環境になり、その結果、歯周病を発症するリスクを高めると言われています。このため、歯周病の進行を抑えたり、予防したりするためには、スケーリングで歯石を取り除くことも大切なのです。
全ての症例で血糖値の低下がみられたわけではありませんが、「歯周病を治療したら血糖値が改善した」という研究結果も数多く報告されています。このため、歯周病の予防や治療は、糖尿病のリスクを下げることにつながると考えられています。
歯周病を予防するためには、まず原因となるプラークを自分自身で取り除けるよう、歯医者さんでアドバイスしてもらった通りに歯を磨くことが大切です。また、定期的に歯医者さんに通って、付着してしまったプラークや歯石をきちんと取り除いてもらうと、歯周病予防は万全です。
歯周病は、いったん治療が終わっても再発することが多い病気です。定期的なチェックとセルフケアで、歯と歯ぐきを守りましょう。
歯周病を発症すると、炎症性物質がインスリンの働きをじゃまするために血糖値が高くなり、糖尿病を発症しやすくなります。一方、糖尿病を発症すると血糖値が高くなるため、体の抵抗力が弱くなって歯周病を発症しやすくなります。糖尿病を防ぐためにも、食生活の改善と運動とともに、毎日の歯磨きや定期的な歯科検診で、プラークが付着しないようにすることも心がけてください。