記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
ワクチンには、病気の原因となるウイルス、バクテリア、毒素が含まれています。これらは「ワクチン抗原」と呼ばれており、死滅しているタイプ(不活化ワクチン)と、生きたタイプのもの(生ワクチン)があります。不活化ワクチンも生ワクチンも、免疫システムを刺激して抗体を作る働きをします。これにより、病気の発症を予防したり、症状を軽くしたりする効果があります。
不活化ワクチンは死菌ワクチンと呼ばれるもので、化学薬品や熱によって毒性がなくなったウイルスを含んでいます。毒性がなくなっているため、ウイルスが体内で増殖する力はありませんが、完全に死滅したわけではないため、体内で免疫システムが反応して抗体を作ります。
不活化ワクチンの免疫反応は弱い場合が多いため、免疫力を維持するために複数回投与したり、量を増やしたりすることがあります。
生ワクチンは弱毒化ワクチンと呼ばれるもので、効果は弱いものの、毒性がまだ残っている点で不活化ワクチンと異なります。生ワクチンに含まれる毒性が、弱いウイルスが体内で増殖して抗体の力を強くするものの、ワクチンに含まれるウイルスが原因で病気になることはありません。ただし、免疫不全の人に投与することはできません。免疫システムが抗体を作ることができない場合、ワクチンが原因で病気になるリスクがあるためです。
生ワクチンは、体内で自然感染に近い状態を作り出すので、強い抗体を作り、その予防効果は生涯続くこともあります。
ワクチンにはウイルスやバクテリアなどのほかに、以下のようなものが含まれています。
チオメルサールは、少量の水銀を含んでいる防腐剤です。ワクチン内でバクテリアや菌類が成長するのを防ぐために使われてます。水銀を大量に摂取すると、脳や他の臓器に蓄積して毒を発する可能性がありますが、ワクチンの中にはごくわずかにしか含まれていないため、悪影響を及ぼすことはありません。ただし、チオメルサールは乳児や幼児に投与されるワクチンには含まれていません。
アジュバントはワクチンに対する免疫反応を促し、効果を長持ちさせます。また、ワクチンに使用されている抗原を減らしたり、投与すべきワクチン量を減らすこともできます。ワクチンに使われるアジュバントの量はごくわずかで、安全であることが証明されていますが、注射を打った場所が軽く腫れたり、赤みが出たりといった軽度の反応を引き起こすことがあります。
ほとんどの不活化ワクチンに、アルミニウムを基としたアジュバントがごく少量含まれています。アルミニウムは大量に摂取すると有毒であることがわかっていいますが、ワクチンの中に含まれているのはごくわずかなため、体に影響を与えることはないと言われています。
豚由来のゼラチン安定剤として使っているワクチンがあります。安定剤は、熱や乾燥の影響からワクチンを守るために加えられ、ワクチンの有効期間を維持するのに役立ちます。
ゼラチンを含んでいるワクチンには少量のアレルギー反応が見られるため、ゼラチンアレルギーがあるわかっている人は、ワクチン接種を受ける前に医師に相談してください。
ヒト血清アルブミンはヒトの血液から得られる物質で、ワクチンを安定させたり、体内に貯蔵されている間にその質を維持するために使われるたんぱく質です。ワクチンに使われる血清は献血した人から得たもので、製造過程であらゆる感染症のリスクを確実に取り除いています。
ヒト血清アルブミンは、バリルリックスと呼ばれる水痘ワクチンの中で安定剤として使われています。
インフルエンザワクチンは少量の卵たんぱく質を含んでいます。インフルエンザワクチンは雌鳥の卵の中で成長するので、卵アレルギーを持つ人はアレルギー反応を引き起こす可能性があります。したがって、卵アレルギーの人は、卵を使っていないワクチンを投与してもらうことをお勧めします。
ホルムアルデヒドは不活化ワクチンの生成に使われている化学製品で、製造過程の初期段階で、バクテリアやウイルス、毒素を殺すために使われます。抗原が不活性化されるとホルムアルデヒドの濃度は薄くなるものの、ごくわずかに残ってしまう可能性があります。
ホルムアルデヒドは、高濃度では有害である可能性がありますが、ワクチンの中に残る量はごくわずかなため、健康に悪影響を及ぼすことはありません。
抗生物質は、ワクチンの製造や貯蔵の間に、バクテリアの成長を防ぐために加えられることがあります。最終的に投与されるワクチンの中には、ごく少量しか残っていません。ただし、ペニシリンなどの抗生物質はアレルギー反応を引き起こすため、ワクチンには使われていません。
ワクチンには死滅、もしくは毒性の弱いウイルスやバクテリアのほかに、チオメルサールや豚由来のゼラチン、卵などの物質が入っています。これらはワクチンの効果を保つために必要な成分で、含まれている量もごくわずかなため、接種しても問題はありません。ただし、卵アレルギーを持っている場合、アレルギー反応を起こす可能性がありますので、事前にその旨を医師に伝えてください。