HIVの症状はどんなふうに進行する?発症前に潜伏期間があるの?

2018/7/6

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

HIVに感染すると、症状はどのように進行するのでしょうか?発症前に潜伏期間はあるのでしょうか?HIVの感染や症状の特徴について解説していきます。

HIV感染=エイズ発症ではないの?

エイズ(後天性免疫不全症候群)とは、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)がCD4リンパ球に感染することにより、体内の免疫力が破壊される病気で、健康なときには問題ないような病原性の弱い微生物やウイルスでも身体が反応し、様々な症状が現れるようになります。

HIVに感染してもしばらくは表に症状が現れないため(この状態を無症候性キャリアといいます)、本人に感染の自覚がないまま症状が進行し、免疫機能がさらに低下するとやがて日和見感染症などが起こります(エイズ発症)。HIV感染=エイズ発症というわけではないので注意しましょう。

主な日和見感染症

帯状疱疹

身体の片側にピリピリとした痛みが起こり、やがて虫に刺されたような発疹・水疱が発生します。

カポジ肉腫

スミレ色の腫瘍ができる症状です。主に発生する場所は皮膚ですが、内臓や消化管、その他の場所にも発生することがあります。特に、消化管にできた場合は下血することがあるため、注意が必要です。

HIV感染後、すぐにあらわれる症状は?

HIVに感染後、約2~4週間目までに体内でHIVが急激に増殖を開始し、CD4陽性リンパ球が破壊され続けます。この間は発熱・喉の痛み・だるさ・下痢・筋肉痛・皮疹などの症状が起こり、数日間~数週間後に症状が消失します。

CD4陽性リンパ球とは

ウイルスや細菌などの病原体から守る「免疫」には、血液中の白血球の一つであるリンパ球が大きく関わっており、特にその中の「CD4陽性リンパ球」は免疫の司令塔としての役割があります。

しかしHIVがCD4陽性リンパ球に感染すると、その数がどんどん減少していき、様々な日和見感染症にかかりやすくなってしまうのです。そのためHIV感染者は、CD4陽性リンパ球の数(健康な人の場合:血液1µl(1000分の1cc)当たり700~1500個)を調べることにより、現在の身体の抵抗力や日和見感染症のリスクなどを確認することができます。

HIV感染しているのに症状が出ない時期もあるの?

急性期が終わると、続いて症状が表に現れない期間が数年~10年ほど継続します。ただし、この期間の長さには個人差があるため、15年経過しても何も症状が出ない人もいれば、2年ほどでエイズ発症となる人もいます。

このように、この期間は表立って症状が現れないため、HIV検査でCD4陽性リンパ球の数を測定しない限り、自分で感染に気付くことはありません。しかし自覚症状がなくても体内のHIVは増殖し続けているため、CD4陽性リンパ球数の減少により、免疫機能がどんどん弱まっていき、やがて寝汗・長期間の下痢・急激な体重減少などの症状が現れたり、帯状疱疹や口腔カンジダ症などの病気になりやすくなります。

一般的に、感染からエイズ発症に至るまでには数年間程かかるとされていますが、最近は感染から発症までの期間が短くなっているといわれています。
しかし、近年はエイズ発症を防ぐための治療や、合併症の予防治療なども受けることができたり、発症後の患者の治療も進んでいるなど、今後さらに治療が進んでいくことが期待できます。

どんな症状が出たらエイズと診断されるの?

治療を受けずに放置していると、免疫力が著しく低下することにより、健康な人であれば感染しないような病原体に感染し、日和見感染症、悪性腫瘍、神経障害などの病気にかかりやすくなります。厚生労働省では、エイズを診断する際の基準となる23の疾患を定めており、そのうちのどれか1つでも当てはまる病気があれば、エイズ期と診断されます。

エイズ診断のための指標疾患

真菌症

  • カンジダ症(食道、気管、気管支、肺)
  • クリプトコッカス症(肺以外)
  • コクシジオイデス症
    1. 全身に播種(種をまくように散らばる)したもの
    2. 肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に発生したもの
  • ニューモシスチス肺炎

原虫症

  • トキソプラズマ症(生後1ヶ月以降)
  • クリプトスポリジウム症(1ヶ月以上続く下痢を伴うもの)
  • イソスポラ症(1ヶ月以上続く下痢を伴うもの)

細菌感染症

  • 化膿性細菌感染症(13歳未満で、化膿性細菌(ヘモフィルス、連鎖球菌など)に伴い以下のいずれかの症状が2年以内に2つ以上多数、または繰り返し発生したもの)
    1. 敗血症
    2. 肺炎
    3. 髄膜炎
    4. 骨関節炎
    5. 中耳・皮膚粘膜以外の部位や深在臓器の膿腫
  • サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもの。ただしナフチ菌によるものを除く)
  • 活動性結核(肺結核※または肺外結核)
    ※肺結核は、HIVによる免疫不全に関係している症状または所見がある場合のみ。
  • 非結核性抗酸菌症
    1. 全身に播種(種をまくように散らばる)したもの
    2. 肺、皮膚、頚部、肺門リンパ節以外の部位に発生したもの

ウイルス感染症

  • サイトメガロウイルス感染症(生後1ヶ月以上で、肝、碑、リンパ節以外のもの)
  • 単純ヘルペスウイルス感染症
    1. 粘膜や皮膚の潰瘍が1ヶ月以上続くもの
    2. 生後1ヶ月以後で、気管支炎、肺炎、食道炎を併発するもの
  • 進行性多巣性白質脳症

悪性腫瘍

  • カポジ肉腫
  • 原発性脳リンパ腫
  • 非ホジキンリンパ腫
    1. 大細胞型、免疫芽球型
    2. Burkitt型
  • 浸潤性子宮頸癌(HIVによる免疫不全に関係している症状または所見がある場合のみ)

その他

  • 反復性肺炎
  • リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成(LIP/PLH)complex(13歳未満)
  • HIV脳症(認知症または亜急性脳炎)
  • HIV消耗性症候群(全身衰弱またはスリム病)

おわりに:HIV感染後も、無症状の期間が長く続く。早期発見を

HIVに感染すると、急性期のうちは発熱やだるさ、皮疹などの症状が現れますが、急性期を過ぎると長期間無症状の時期が続きます。しかし、この間も体内では症状が進行しており、免疫機能が低下するとやがて日和見感染症などが起こりエイズ発症となります。最近は感染から発症までの期間が短くなっているといわれているため、早期発見・治療が望まれます。

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