記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/7/25
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
大量の飲酒を習慣的に続けることで、お酒がないとやっていけないようになり、心身・生活面ともに支障をきたすようになるアルコール依存症。辛い離脱症状が特徴で、断酒しても再飲酒を繰り返してしまう厄介な病気ですが、薬で治すことはできないのでしょうか?以降では、アルコール依存症の治療過程で使われる薬の種類や効果、副作用について解説していきます。
アルコール依存症患者は飲酒への欲求が非常に強く、自身ではその欲求をコントロールできない状態になっています。また、断酒をするとイライラしたり、手の震えや嘔吐、幻覚、不眠などさまざまな離脱症状に見舞われるようになります。
こうしたアルコール依存症から回復するには、専門の医療機関に入院し、離脱症状への対症療法や断酒に向けての精神療法、リハビリテーションを行うのが一般的です。
特に精神療法はアルコール依存症治療の支柱となる存在で、思考や行動の癖を見直して修正する「認知行動療法」や集団精神療法を通じて、患者自身に飲酒問題の大きさを自覚させ、断酒の決断へと導く要因となります。
そして精神療法と併せて、薬での治療も行われます。アルコール依存症治療のメインは精神療法のため、薬だけで治すのは難しいですが、離脱症状を軽減させる薬や抗酒薬という薬、飲酒欲求を減らす薬などを活用して、断酒を継続させやすくすることが可能です。
【 厚生労働省 の情報をもとに編集して作成 】
アルコール依存症の治療過程で処方される薬には、以下のものがあります。
「飲酒すると気持ち悪くなる」という状態を作ることで、飲酒行動を回避させる薬です。アルデヒド脱水素酵素(ALDH)を阻害する作用があるため、飲酒時の血中アセトアルデヒド濃度を上昇させ、吐き気や頭痛、動悸などの不快症状を引き起こします。これにより「気持ち悪くなるからお酒はやめよう」と、断酒のへとつなげやすくする効果が期待されます。
脳内の一部の神経伝達を阻害することで、飲酒欲求を抑制する作用のある薬です。先述のシアナマイド®やノックビン®などの抗酒薬は、服用時の不快症状から飲酒を遠ざける一方、「気持ちが悪くなるから薬を飲みたくない」と服薬を中止してしまう患者もいるという問題点がありました。
しかし、レグテクト®は不快症状を引き起こさずに飲酒欲求そのものを減らせる薬とされているので、そうした人たちでも断酒が続けやすく、実際多くの研究にて再飲酒のリスクの低減効果が確認できています。日本では2013年5月に承認・発売以来、専門外来で使われている薬で抗酒薬との併用も可能です。
なお、レグテクト®を断酒中の人が服用すれば断酒率は上がりますが、飲酒している人が服用しても飲酒量が減る効果はないので注意しましょう。
手の震えなどの離脱症状や、不眠・不安などの併発症状を軽減させるのが目的の薬です。主にベンゾジアゼピン系の抗不安薬や、睡眠薬が処方されます。
【 厚生労働省 の情報をもとに編集して作成 】
シアナマイド®やノックビン®などの抗酒薬の副作用としては、アレルギーによる皮疹や肝障害が起こる可能性があります。
また、レグテクト®の副作用としては下痢や軟便が起こる場合がありますが、ほとんどは一過性のもので、しばらく経てば軽快していきます。
【 厚生労働省 の情報をもとに編集して作成 】
新たな飲酒欲求の抑制薬として、大塚製薬が「ナルメフェン」の製造販売承認を2017年10月に申請しました。ナルメフェンには、飲酒の恐れがある際に服用することで、中枢神経系に存在するオピオイド受容体調節作用を通じて飲酒欲求を抑え、依存症者の飲酒量を低減させる効果があると考えられています。早ければ2018年度の後半には承認され、飲酒量低減治療の新しい選択薬となることが期待されています。
近年ではレグテクト®の登場により、抗酒薬のように気持ち悪い思いをしなくても、飲酒欲求を抑制することができるようになってきています。今後も新薬の登場によって、さらにアルコール依存症から回復しやすくなる未来が期待されます。定期的な通院や精神療法、自助グループでの交流なども活用しながら、断酒生活を続けていきましょう。